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ジョージ・クルーニー、還暦を迎える。かつてのプレイボーイは優しい夫で父

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
結婚してまもなく7年になるジョージ&アマル・クルーニー(写真:REX/アフロ)

「People」誌から「最もセクシーな男」と呼ばれたジョージ・クルーニーが、今月6日で60歳になる。プレイボーイで名を馳せた彼が人権弁護士のアマル・アラムディン(43)と結婚して、今年の9月で7年。夫妻の間には、来月4歳になる双子がいる。コロナのロックダウン中も、夫妻はL.A.の自宅で充実した家族の時間を楽しんだようだ。男友達と酒を飲んでは騒ぎ、バイクで走り回るのが大好きだった彼も、今やすっかり落ち着いたようである。

 ケンタッキー州レキシントン生まれ。父ニック・クルーニーはテレビのアンカーマン、叔母には歌手ローズマリー・クルーニーがおり、地元では有名な一家に育った。子供時代の一時期をオハイオ州で過ごしたことからシンシナティ・レッズのファンで、レッズのトライアウト(新人テスト)に参加したこともある。しかしそこから先に進めず、メジャーリーグ選手への夢は断念した。

 エキストラで初めてテレビに出演したのは、1978年。その後、小さな役であちこちの番組に出演し、1994年の「ER 緊急救命室」のロス医師役で大ブレイクを果たす。「あのドラマの前に、僕は12年か13年も役者の仕事をしてきている。『ER〜』の役をオファーされた時は33歳か34歳だった。普通なら、そこまでにブレイクできていなければ、無理なんだよ。おかげで僕は35歳以上の俳優にとって希望の星となったのさ(笑)。『でも、ジョージ・クルーニーの例があるし』って言われる存在」と、2006年の筆者とのインタビューでクルーニーは語っている。

 今では映画とテレビの境目は曖昧になっているが、当時、テレビは映画より下という位置付けで、テレビ俳優から映画俳優に移行するのは容易ではなかった。テレビで人気が出ると調子に乗ってすぐ映画に出るためドラマを降板し、失敗した俳優の例もある。クルーニーは、慎重かつ賢くそこに挑み、「ER〜」のオフシーズンに映画の仕事を入れ、映画俳優としてしっかり認められるようになってから番組を降板した。そのことについては、監督作「かけひきは、恋のはじまり」で主演に抜擢したジョン・クラシンスキーにもアドバイスをあげたようだ。コメディ番組「ジ・オフィス」でブレイクしたクラシンスキーは、クルーニーから「無名だった自分を発見してくれ、チャンスをくれたその番組の人たちに感謝をすべき。あっさりと乗り換えるようなことをやってはいけない」と言われたと、当時、筆者とのインタビューで語っている。

最新監督作「ミッドナイト・スカイ」の現場のクルーニー(Netflix)
最新監督作「ミッドナイト・スカイ」の現場のクルーニー(Netflix)

 監督デビュー作は2004年の「コンフェッション」。次の監督作「グッドナイト&グッドラック」では、監督部門と脚本部門でオスカーにノミネートされた。同じ年、やはり政治的な「シリアナ」に主演している彼には、政界に出る野心があるのではないかと囁かれたりもしたが、本人は否定している。「僕は酒を飲み過ぎるし、過去にはドラッグを使ったこともあるから、無理だよ。役のために政治家たちのリサーチをしたことがあるが、僕にはとてもできないと思った。犠牲にしないといけないことが多過ぎる。僕はそこまで犠牲を払えない。僕はひどい政治家になるよ」という彼は、ハリウッドセレブリティの立場を政治に利用する方法を選んだ。「これだと妥協しなくてすむ。このほうが楽しい。もっとも、一部の地域では、それが仇になることもあると知っている。『ハリウッドが政治を侵略する』と反感をもたれることがあるんだ。だからジョン・ケリーに『キャンペーンであちこちを回るのに着いてきてくれないか』と頼まれた時も、『逆効果になりますよ』と断った。でも、それができなくても支えることはできる」と、2006年の筆者とのインタビューでクルーニーは語っていた。そんな彼は2008年の選挙でオバマ、2016年の選挙ではヒラリー・クリントン、2020年の選挙ではジョー・バイデンを支持している。

プレイボーイ人生に終止符を打たせた運命の女性

 過去にはウォーレン・ベイティ、今もレオナルド・ディカプリオなど、結婚せずに美しい女性を取っ替え引っ替えして楽しむイケメン俳優はいるが、クルーニーも長いことそのひとりだった。プレイボーイとして知られるようになったのは、最初の妻タリア・バルサムと離婚した後。バルサムの前、まだ無名だった頃には、後にジョン・トラボルタ夫人となるケリー・プレストンと付き合っていた。プレストンとの交際中から飼い、別れた後も18年生きたマックスという名の豚を出して「一番長く続いた相手はマックス」と自虐的なジョークを言ったこともある。

 離婚後にクルーニーが交際した相手は、ラスベガスのカクテルウエイトレスからイタリアのテレビタレント、元プロレスラー、イギリス人モデルなど幅広い。本人たちははっきり認めていないものの、レネ・ゼルウェガー、ルーシー・リューとも噂が出た。20年ほど前には、インタビューで「結婚する気はありますか?」などと聞かれても、「結婚したことはあるよ」「わからないね。今週末にでもするかもしれないよ。マット(・デイモン)よりは先にするかな。マットはいつ結婚するんだろう?」などと明るく交わしていたものだが、2011年ごろからはそういった質問はシャットアウトするようになっている。遊び人というイメージをもたれるのが嫌だったのかもしれないが、実際に彼はそういった自由な生活を楽しんでいるようで、仲良しのデイモンやブラッド・ピットが子供をもって父親になっても、そんなことには興味がないように見えた(子供のことについて聞かれたあるインタビューでは、お得意の冗談で『僕がブラッドの養子にしてもらおうかなと思っているくらいだよ』と言ったことがある)。

 そんな彼の考えを変えさせたのが、現在の妻となったアマル・アラムディンである。ふたりの出会いは2013年9月。翌月にはロンドンで食事をする姿が目撃され、翌年4月には婚約、5ヶ月後の9月には結婚という、それまでの彼からは想像もつかない早い展開だ。結婚後、エレン・デジェネレスのトーク番組に出演した時、デジェネレスに「あなたが結婚するとは誰も思っていませんでした」と言われると、「僕もですよ」と答えている。その番組の中で、クルーニーはプロポーズの時のエピソードも明かした。クルーニーは、普段ライターを入れている箱の中に指輪を隠し、「キャンドルに火を付けるから、そこにあるライターを取ってくれる?」と言って驚かせようとしたのだが、彼女は「あれ?なんだか知らないけど指輪が入っているわよ」と、誰かの置き忘れが紛れ込んでいるかのような反応を示したそうだ。それでクルーニーはひざまずき、「結婚してくれますか」と彼女に聞いたのだそうである。幸い彼女はイエスと言ってくれたと、クルーニーは嬉しそうに振り返っている。

料理は妻でなく自分の役目

 2017年には男の子と女の子の双子が誕生し、クルーニーは56歳にして初めてパパになった。昨年12月に出演したジミー・キンメルの深夜トーク番組で彼が語ったところによると、子供たちはイタリア語を流暢に話すとのこと。また、家族のために料理をするのはクルーニーの役目で、感謝祭にも七面鳥の丸焼きやマッシュポテトなど伝統的な料理一式を全部手作りしたとも語った。一方、妻は、一度ゆで卵を作ろうとして、鍋に卵を入れたはいいが水を入れないまま火をつけてしまったことがあるという笑い話も披露。だが、決して妻をばかにしているのではなく、「僕の妻は外国の刑務所に入れられているジャーナリストを解放したりなど、すばらしいことをたくさんやっています。これは専門ではないというだけ」とフォローし、称えている。それを聞いたキンメルが「そういうことをするには頭が良過ぎるから、彼女は『ドクター・ロス、卵くらい自分でゆでなさいよ』とあなたに密かにメッセージを送っているんですよ」と「ER〜」時代の役名を出してフォローすると、「えっ、そこまで遡るの!」と爆笑した。

クルーニーが主演と監督を務めるSF映画「ミッドナイト・スカイ」は大ヒットとなった(Philippe Antonello/Netflix)
クルーニーが主演と監督を務めるSF映画「ミッドナイト・スカイ」は大ヒットとなった(Philippe Antonello/Netflix)

 そういった会話の後、話題はクルーニーの最新作「ミッドナイト・スカイ」に移っている。彼が監督と主演を兼任したこのSF映画の撮影が終わったのは2020年の2月で、コロナがアメリカを襲うギリギリのタイミングだった。賞レースでは期待されたほどふるわなかったものの、Netflixによると、今作は史上最もアクセスが多かった映画のひとつになったとのこと。ヒットは世界規模で、77カ国で1位を獲得したとのことである。最近、あまり姿を見せなかったが、彼の人気は揺るぎないということだ。

 そんなふうに、クルーニーの人生は、私生活面も、キャリア面も、あいかわらずとても順調な様子。今の彼は、おふざけ好きだった頃の彼とはまた違った意味で本当に幸せそうである。60歳という記念すべき誕生日も、きっと思い出に残る楽しい1日になるのだろう。私たちからも心を込めて、お誕生日おめでとうございます。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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