タイガー・ウッズがヒーロー・ワールド・チャレンジ欠場をきっぱり決断した本当のワケ
今週開催の「タイガー・ウッズの大会」ヒーロー・ワールド・チャレンジにプレーヤーとして臨む予定だったウッズが、直前で欠場を表明したことは、すでにご存じのことだろう。
ウッズは交通事故で重傷を負ってリハビリ中の右足の足底筋膜炎を発症し、「歩くのも困難」とのことで、出場を見合わせた。
しかし、ローリー・マキロイとペアを組み、ジョーダン・スピース&ジャスティン・トーマスのペアと対戦する来週の「ザ・マッチ」と、長男チャーリーくんとともに3年連続で挑む再来週の「PNCチャンピオンシップ」には、「予定通り、プレーする」という意志を示している。
今週のヒーロー・ワールド・チャレンジは「歩けない。プレーできない」として欠場しているのに、なぜ残る2大会は「プレーする」ことができるのか。
そのワケは、来週からの2連戦では乗用カートを使ってプレーできるからだ。
とはいえ、今週は「ウッズの大会」ということもあり、開幕前、米メディアはウッズに「乗用カートを使ってプレーするという選択肢は無いのですか?」と問いかけた。
ウッズの答えは「ノー」だった。
「それは、考えられない」「カートプレーは、あり得ない」。
ウッズが、きっぱりそう言い切る理由は「PGAツアーが正式に許可しているか、否か」を、彼がどこまでも重視し、それに従うつもりだからだ。
【カート使用を巡る過去の出来事】
古くからの米ゴルフのファンや事情通の方々は、きっと記憶されていると思うが、今から20年以上前、米ゴルフ界では乗用カートの使用を巡る問題が論議を呼び、訴訟に発展したことがあった。
スタンフォード大学ゴルフ部の出身で、ウッズのチームメイトでもあったケーシー・マーチンは、歩くと右足が腫れ上がり、痛みが出て歩行が困難になる先天性の膝の病気を患いながらもゴルフを続け、プロになり、PGAツアーに辿り着いた。
しかし、マーチンの症状は悪化の一途で、「試合の際、乗用カートを使いたい」と申請。しかし、PGAツアーはこれを認めず、やがてマーチンはPGAツアーを訴え、長年の法廷闘争へと発展した。
その際、意見を求められたウッズは「ケーシーは大切なチームメイトで友人だけど、ゴルフは歩いてやるものだと思う」と語り、他選手の多くも、そしてPGAツアーも同意見だった。
2001年、裁判はマーチン勝訴で決着。しかし、マーチンの病状は一層進行しており、シード権もとっくの昔に失っていた彼が乗用カートでプレーした姿を、少なくとも私は一度も目にすることができなかった。
そして、2021年、マーチンの右足は切断となったことを伝え聞いた。
【主義主張は曲げない】
そんな経緯があったことで、ウッズは乗用カートをPGAツアーの公式な大会で使用することを絶対的に避けている。
「PGAツアーが乗用カートの使用を正式に認めない限り、僕がカートでプレーすることは、ありえない、でも、それを認めている(シニアの)チャンピオンズツアーやPGAツアー競技ではないエキシビジョン大会なら、話は別だ」
ザ・マッチはPGAツアー競技ではなく、PNCチャンピオンシップは親子大会だが、チャンピオンズツアー内の競技という位置づけゆえ、来週からの2試合は「カートに乗ってプレーできる」。
だが、ヒーロー・ワールド・チャレンジは、あくまでもPGAツアーの競技ゆえ、「PGAツアーがカート使用を正式に認めない限り、僕はカートに乗ってプレーするつもりはない」。
カートに乗れば、今週もプレーできたのかもしれないが、それはやりたくないというのがウッズの本音。そのあたりの主義主張を絶対に曲げないところが、いかにもウッズらしい。
「ホームコースをカートに乗ってプレーすれば、今だって、6アンダー、7アンダーで回れるんだ。でも、PGAツアーの試合となれば、それは起こりえない」
特別扱いや忖度は決して求めない。そういうウッズだからこそ、信望は厚いのだと、あらためて感じさせられた。