マンガで腹を殴打されたとき「グハッ!」と吐くのは「喀血」?「吐血」?
腹を殴打されたマンガのキャラクターが「グハッ!」と血を吐くシーン。あるいは、ゲホゲホと咳をしたら手のひらに血がついていた、というドラマ。これらは「喀血」でしょうか?「吐血」でしょうか?
「喀血」と「吐血」の違い
実は、「口から血を吐く」でも、「喀血」と「吐血」の2種類があります。
さて、「喀血」と聞くと、何を思い出しますか?私は歴史小説が好きだったので、新撰組の沖田総司を思い出します。彼は晩年、労咳(ろうがい)(今でいう肺結核)に苦しみ、何度も喀血を繰り返していたそうです。
現在も結核などの感染症によって喀血する人は一定数います。咳をして手の平に「カハッ!」と血を喀出する、アレは「喀血」です。「喀血」というのは、肺や気管支など呼吸をするところから出血することを指します。
一方、マンガなどで腹をボスっと殴られて、「グハッ!」と吐いているのは、喀血ではなく吐血です。「吐血」とは食事を飲み込んだときに流れていく食道や胃などの消化管から出血することを指します。マンガのように、殴られてすぐに吐血することはまずなくて、たとえ胃破裂であっても、ある程度時間を置いてからから吐血にいたります。
まとめると、「喀血」と「吐血」は、出血している場所が違うのです。
「喀血」と「吐血」をどう区別しているか
口から血を吐いているのに、喀血と吐血をどうやって私たち医師は区別しているのでしょうか。実は、これには明解がありません。現場で区別がつかないこともあります。
目安として、「咳とともに出てくる鮮紅色の血液は喀血」、「吐き気とともに出てくる赤黒い血液は吐血」というものがあります(図)。「カハッ!」が喀血、「グハッ!」が吐血というのは結構正しいです。
ちなみに、胃の中の血液は胃酸によって塩酸ヘマチンへ変化するため、黒色になります。そのため、胃や食道から出血している人の便も、イカスミのように黒くなります。
血を吐いたらどうすべきか
血を吐いたとき、「そういえば倉原とかいうヤツのコラムで喀血と吐血について書いてあったな、どれどれスマホを見てみよう」などと悠長なことを考えている時間はありません。
ティッシュに少し付くくらいの血で、たいしたことなさそうなら自家用車で病院に来ていただいても構いませんが、量が多ければ、基本的に救急車を要請したほうがよいでしょう。
喀血・吐血の原因と治療
もし喀血の場合、軽度であれば血を止める点滴をしながら、原因をさぐることになります。冒頭の沖田総司のくだりでも書いたように、肺結核について調べたほうがよい場合もありますが、肺炎や肺がんをはじめ、ありとあらゆる呼吸器の病気で喀血は起こります。
喀血の原因として増えているのが、「気管支拡張症」という病気です。やせ型の中高年の女性にみられる病気で、いまだに原因はよく分かっていません。健康診断で見つかりにくい場所に病巣をつくるため、ある日喀血を起こして病院にやってくるケースがあります。とはいえ、気管支拡張症のほとんどは喀血にいたることはありませんので、過度な心配は不要です。
吐血の場合、緊急で上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)をおこなうことがあります。これによって、止血のための応急処置だけでなく原因を調べることができます。胃潰瘍や胃がんなどから出血を起こしているかもしれません。吐血は、ある程度胃の中に血液が充満してから口から出てきます。そのため、喀血よりも出血量が多く、輸血しなければならないこともあります。
まとめ
喀血と吐血の違いについて書きました。ドラマなどで血を吐いているシーンを目にすると、テレビを見ている医師の多くは、「ウーム、これは喀血と吐血のどちらだろう?」と実は考えています。
普段からゴホゴホ咳をしたときに痰に血が混ざる人は、一度病院を受診しましょう。