アベノミクスの原点は危険なリスク的思考にあり
安倍首相は18日の夜、消費増税の先送りと衆院解散総選挙を表明した。2015年10月の8%から10%の消費増税は、1年半延期され2017年4月からとなる。消費増税の延期には法改正が必要となるが、この際に現行法にある「景気弾力条項」は撤廃される方向であり、そうなれば2015年10月からの消費増税の再延期もしくは撤廃は考えづらくなる。
消費増税を1年半程度先延ばしして何かしらの意味があるのか。これはアベノミクスによる景気回復が消費増税の影響で腰折れしそうなため、さらなる増税は抑え、アベノミクスの効果を如何なく発揮できる環境を整えたいとの意向もあろう。しかし、それ以上に2016年の参院選など今後の選挙日程等などが意識されての1年半の先送りかと思われる。いわば財政再建も含めた「先送り選挙」となる。
21日に衆院は解散し、衆院選は12月2日に公示、14日に投開票が実施される予定となっている。参考までに前回の2012年の衆院選は11月16日に解散し、12月4日に公示、12月16日に投開票となっていた。
前回の衆院解散の翌日17日、自民党の安倍総裁は熊本市内で講演し、衆院選後に政権を獲得した場合、金融緩和を強化するための日銀法改正を検討する考えを重ねて表明し、「建設国債をできれば日銀に全部買ってもらう。新しいマネーが強制的に市場に出ていく」と述べ、日銀が建設国債を全額引き受けるのが望ましいとの考えを表明した。 また、同日、山口市では「輪転機をぐるぐる回して、日本銀行に無制限にお札を刷ってもらう」との安倍総裁の発言も伝えられた。これがアベノミクスの始まりである。
日銀法の改正はなかったが、この安倍政権のリフレ政策は安倍政権が任命した黒田総裁によって2013年4月に実行に移された。日銀は建設国債の発行額どころではない額の国債を市場から買い入れることになる。ただし、ここで輪転機は残念なことにぐるぐるは回っていない。お札の発行量はほぼ変化なく、日銀の当座預金に資金は積みあがった。それにより新しいマネーが市場に出ていくこと、つまり貸出等の伸びは限定的であった。株は上がったが、GPIFのポートフォリオリバランスなどは除いて、その大きな買い手が海外投資家であり、ニューマネーがどうしたこうしたみたいな動きもなかった。つまり、結果として安倍政権のリフレ政策を見越して、ヘッジファンドなどが円売りと株高を仕掛けたに過ぎないのがアベノミクスと言える。
株高は日本だけでなく欧米市場でも同様であり、アベノミクスだけが要因ではない。円安についてはそれまでの欧州危機などによる円高のポジションの巻き戻しという側面も大きい。そこで組まれた円売り日本株買いはなかなか良いパフォーマンスが上がり、それがいまに続いている。17日のマイナスGDPの影響もなんのそのという状況となっているのもそれが要因か。
果たして今度は安倍首相はいったいどのような発言をして、市場を仰天させるのであろうか。また野党は2012年のアベノミクスを見習って、度胆を抜く仕掛けをしてくるのか。今回の選挙はアベノミクスの成果を問う選挙となるそうだが、そもそもアベノミクスの原点が2012年11月17日の日銀の直接国債引き受けとプリンティング・マネー発言にあったことをしっかりと認識すべきであり、三本の矢というのはあとから付け足されたものである。このようなリフレ政策が極めて危険なものであることは言うまでもないが、国債が警報機として作用していない現状ではその危機が覆い隠されていることも知っておくべきことである。私はだれに投票するかどうかというより、この隠されたリスクが非常に気になっているだけである。