【新宿区】宗柏寺の花まつり|雅楽と稚児行列と法要でお釈迦さまの生誕を祝う、みやびな一日をレポート!
神楽坂駅と早稲田駅のほぼ中間に位置する「矢来のお釈迦さま」こと「一樹山宗柏寺(いちきさんそうはくじ)」。去る4月7日に催された花まつりの様子をお伝えいたします。
宗柏寺について
寛永八年(1631年)、大僧都・興正院日意(だいそうず・こうしょういんにちい)上人(※)によって、現在の地(新宿区榎町)に開創されました。
宗柏寺に安置される釈迦尊像は、織田信長による比叡山延暦寺の焼き討ちの際、難を逃れて日意上人の生家・尾形家に安置されたもの。江戸時代中期以降、江戸庶民の生活も安定してくると、物見遊山として寺社詣でが盛んになりました。宗柏寺へ参詣する人々は、その頃から後を絶たなかったといいます。江戸時代から今日まで、長く人々に親しまれているお寺です。
※…日意上人の祖母は、本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)の姉。
宗柏寺の桜は、樹齢70年ほど。前日まで天候に恵まれず肌寒い春でしたが、4月7日には晴れて満開となり、息をのむほど美しく咲き誇っていました。
花まつりの稚児行列
去る2024年4月7日(日)、稚児行列が行われました。
今回は我が子も参列することができたので、一日の流れを時系列でご紹介いたします。
- 11時半までに受付:昼食を控室で済ませた後、稚児衣装の着付け
- 13時から:稚児行列
- 14時から:発育健康の祈願法要
- 15時から:マリ投げ(当たり付き)
稚児行列の出仕料は一人1万円ですが、お参りはどなたでもできます。
受付・昼食
本堂の地下にある控室で受付をします。そこでお稚児さんになる子どもにお弁当とお菓子、本をいただきました。ブッダの言葉を、子どもにもわかりやすく書かれた本は、生きる知恵を伝えてくれる内容で、長く手元に置いておきたいと思える本でした。
ちなみに、お弁当はこちら。可愛らしい器を見て、子どもの気分が一気に上がっていました。
衣装の着付け
昼食を済ませたら、稚児衣装に着替えます。
まず、お稚児さん用の化粧を施していただきます。
「位星(くらいほし)」という黒い丸い形の眉を描き、目尻と口もとに紅をさして、鼻筋に白い線を施します。これは、神様が降臨した子どもを示す化粧です。
化粧後に着付けとなります。狩衣と袴を着た後、男児は烏帽子、女児は冠をかぶります。一気にみやびやかな装いとなりました。
お稚児さん全員の支度が整うと、本堂前で集合写真の撮影をして、近隣を練り歩く稚児行列に出発します。
お稚児さん行列
行列は、檀家代表の方と住職、雅楽の生演奏をする僧侶の方々が先導します。その後から白い象に繋がれた紐をお稚児さんが持って歩きます。
白い象の後ろから、お稚児さんと保護者が一緒に歩きます。およそ1kmの道のりの途中、都立新宿山吹高等学校の前で休憩しました。お稚児さんたちはジュースをもらって一息いれて、後半も元気にお練り歩きをすることができました。
ちなみに、大きな白い象の背中の上には、お釈迦さまの像が乗っています。街を見守ってくださるようです。
発育健康の祈願法要
境内に戻った後は、釈迦堂で発育健康の祈願法要が営まれました。
僧侶の方々の読経が始まると、太鼓や木剣(ぼっけん)という鳴り物も鳴らされ、まるで大音量のライブ会場のように迫力満点! 火打石で火花を散らす切り火(きりび)も行われ、厄除け・安全祈願のご利益が増すような気がしました。
読経の中、お稚児さん一人ひとりの背中に、巻物(住職が日蓮宗大本山の寺院・千葉県の法華経寺で100日間の修業をしたときに写経したもの)を当ててもらいました。大切に守られているような気がすると同時に、一人の親として、子どもの健やかな成長を心の底から祈ることができました。
読経のあとは、伊藤住職がお釈迦さまの教えについてお話してくださいました。子どもにも分かりやすいように、お釈迦さまの教えをとても簡単にまとめると、下記3点になるそうです。
- 良いことをしなさい
- 悪いことはしない
- 人にされて嫌なことはしない
子どもに伝えるための短い説法でしたが、大人でも背筋が伸びるような、大切なお話を伺うことができました。
お稚児さんが手に持っていた菊の花を釈迦像に供えて、法要は終了となりました。
マリ投げ
法要が終わると、子どもたちは稚児衣装から私服に着替えます。その後、マリ投げが行われました。社務所・客殿の建物の2階から、マリが優しく投げ落とされます。
マリには番号が書かれていて、その番号をもとに抽選会をします。番号で呼ばれた人は景品がもらえるので、参加者全員が司会のお坊さんが番号を呼ぶのを固唾をのんで見守ります(ラジコンやパズルなど、20種類以上もの品が当たるという嬉しい企画です)。
最後まで景品が当たらなかった人には、お菓子が配られました。子どもも大人もみんなが笑顔になる、よいひと時でした。
境内で煎じる甘茶
境内では、甘茶の販売もありました(持ち帰り可能な容器入り:1本200円)。
「お釈迦さまが誕生したとき、天からやってきた龍が甘露の雨を降らせた」という伝説があります。その甘露の代わりとして、花まつりでは甘茶が用意されるようになったそうです。
甘露は「一口飲むと不死になれる」という言い伝えがあるそうです。甘茶はその代わりとはいえ、伝説にあやかりたいと思い飲んでみました。
前日から煎じているという甘茶は、しっかり甘いのに、優しい味がしました。
仏教が日本に伝来した時代はまだ甘味は貴重だったはず。そんな時代に、こんなに甘いものが振舞われることが、どれほど幸せなイベントだったかと、思わず昔の花まつりの熱狂を想像してしまいました。
花まつりとは
花まつりは、4月8日のお釈迦さまの誕生を祝う仏教行事で、インドから中国を経て日本に伝えられました。日本の花まつりは、推古天皇が在位14年のとき(西暦606年)に元興寺(がんこうじ)で行われたのが始まりです。
花まつりというと、よく釈迦さまに甘茶をかけるようすを見かけますが、これは、龍が甘露の雨を降らせたという伝説を模したもの。お釈迦さまは生まれてすぐ東西南北の四方向に7歩歩き、「天上天下唯我独尊」と唱えたといいます。そのときの姿を現した誕生仏に甘茶(=甘露)をかけることで、お釈迦さまがいつまでも霊力を保ち、世の人々を救ってくれることを願っています。
花まつりの稚児行列に参加して、子どもの健やかな成長と、今ある平和に感謝することができました。日々の暮らしで忙しくなりがちな時代ですが、伝統あるお祭りが一年の節目にあるおかげで、心を清める機会をいただけたと感じました。
花まつり以外にも、宗柏寺では年中行事がたくさんあります。江戸時代から人気のお寺に詣でることで、江戸っ子の気持ちを想像しながら、これからの世の平和を祈るのはいかがでしょうか。