【落合博満の視点vol.49】あぁ、開幕9連敗……阪神が蟻地獄から抜け出すには
オープン戦は、15試合で8勝4敗3引き分けの12球団中2位。チーム防御率2.42はセ・リーグトップで、チーム打率.244は同2位と、「今季こそ」というファンの期待を集めた阪神が、4月3日の巨人戦に5対9で敗れ、とうとう開幕から9連敗となった。
振り返れば、東京ヤクルトとの開幕戦は前半を終えて8対1と大量リードしながら、6回以降に9失点して8対10の大逆転負け。このショックを引きずるように第2戦、第3戦と連続完封され、次第に攻守にわたって考えられないミスも出るようになる。開幕から7連敗したチームの優勝はない、8連敗はセ・リーグのワースト記録を更新など、ネガティブなニュースも足枷のようになり、選手の動きも悪くなっているという印象だ。
こうした結果になってしまうと、矢野燿大監督が不退転の決意を「今季限りで辞任する」という驚きの告白で表現したことまでが批判されてしまう。確かに、スタートから9つの負け越しを一気に取り返すことはできないし、まずは勝率5割を目指していくしかないが、長いペナントレースではどのチームでも、誰が監督でも山あり谷ありの日々を過ごすものだ。
テレビの企画で対話した際には矢野監督の実現に大きな期待を寄せ、だからこそ開幕前の辞任発言に首を傾げた落合博満も、中日の監督に就任した2004年には、思い通りに勝てない苦しさを経験している。
この年は、ストッパーに抜擢した岩瀬仁紀が開幕直前に左足小指を骨折。川崎憲次郎をサプライズ先発させた広島との開幕戦には逆転勝ちし、そこから3連勝と波に乗りかけたものの、岩瀬の不調は試合終盤の戦いで大きな不安となる。4月を10勝10敗1引き分けの4位で終えると、5月3日からのヤクルト戦では初の同一カード3連敗。ミーティングをしない落合監督が試合後には選手を集めて檄を飛ばすも、11日のヤクルト戦で延長11回に岩瀬が打たれて敗れると、とうとう最下位に沈んでしまう。
野球とは、そういうもの
救援失敗を繰り返す岩瀬が批判の的になり、「ファームで再調整するべき」や「配置転換を考えよ」という声が上がったが、落合監督は「岩瀬については、配置転換もファーム行きも考えていない」とはねつける。そんな中、どうすれば浮上のきっかけをつかめるのか、と問いかけると、こんな答えが返ってきた。
「目の前の1試合を勝つためには、細かな戦略もある。そういう手も打っていくけれど、長いペナントレースをトップでゴールするには大きな流れを引き寄せなければならないんだ。そのためには、苦しい時こそ先発投手が完封勝利を挙げるか、打線が大爆発するか。一番勝ちたいのは選手たちなのだから、監督も1試合ごとに最善を尽くしながら、そんな展開をじっと我慢して待つしかないだろう。特に、エースが完封するか四番の一発で勝つことができれば、強い追い風が吹くぞ。野球とは、そういうもの。まぁ、心配するな」
そうして迎えた5月15日の横浜(現・横浜DeNA)戦には、そこまで4勝2敗の川上憲伸が先発。横浜打線につけ入るスキを与えない力投を続けるも、打線も左腕のスコット・マレンを打ちあぐねる。スコアボードにはゼロが並ぶ重苦しい展開だったが、7回裏に先頭の六番・井上一樹(現・阪神ヘッドコーチ)が左前安打を放つと、谷繁元信が送って一死二塁に。荒木雅博の代打に起用した大西崇之(ともに現・中日コーチ)は打ち取られ、この回も無得点かとスタンドに溜め息が漏れた刹那、川上が左中間スタンドに先制2ラン本塁打を叩き込む。
川上は8、9回を3者凡退で123球を投げ抜くシャットアウト。川上の投打による活躍でもぎ取った白星は、依然としてチームが本調子ではないことを象徴していた。だが、試合後の落合監督は珍しく自ら「昔の大エースの仕事だな」と口を開き、笑顔でグラウンドを後にする。そして、「これが大きなきっかけになるはずだ」と語った通り、ここから4連勝、1敗してまた3連勝と加速した中日は、6月22日に巨人を下して首位に立つと、その座を譲ることなくペナントを手にした。
現在の阪神は、この時の中日以上に苦しい状況に置かれているかもしれない。ただ、落合監督が口にした「野球とは、そういうもの」という言葉のように、勝負事には決して論理的には説明できず、当事者にしか感じられない流れがあるはずだ。落合監督は、それをエースや四番という大黒柱の働きに求めた。
そして、阪神も4月3日の巨人戦では、6点を追う9回表に木浪聖也と梅野隆太郎が連続アーチで食い下がるなど、何とか白星を手にしようと必死に戦っている。では、矢野監督はどう流れを引き寄せるか、5日の横浜DeNA戦に注目したい。