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『ディア・ファミリー』で余命20歳までの娘を実話を基に演じた福本莉子「落ち込む時間ももったいなくて」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
撮影/松下茜 ヘア&メイク/伏屋陽子(ESPER) スタイリング/武久真理江

幼い娘が心臓疾患で余命10年と宣告された父親が、医療知識もないまま自ら人工心臓を作ろうと立ち上がる。実話を基に大泉洋が主演した映画『ディア・ファミリー』が公開される。20歳まで生きられないとされた娘を演じたのは福本莉子。実在の人物像を丹念に掘り下げ、苦境の中で前向きに生きる姿を等身大で見せて胸を打つ。自身の生き方について思うところもあったという。

映画は1人でよく観に行きます

――『ディア・ファミリー』は東宝系での公開になりますが、莉子さんはTOHOシネマズの幕間映像の「シネマチャンネル」のナビゲーターを務めてます。自分で目にすることもありますか?

福本 私が映画を観に行くと、出てくることが多いです(笑)。映画とTOHOシネマズを紹介しているので、作品に出ている自分とは違う感じがします。

――映画館に行くこと自体、よくあるんですか?

福本 はい。休みの日によく1人で観に行っています。

――最近、面白かった作品というと?

福本 『哀れなるものたち』です。「シネマチャンネル」で紹介して、ずっと気になっていて。想像の斜め上を行く展開で、結末もすごく好きでした。

――エマ・ストーンさん主演で、女優として刺激も受けました?

福本 本当に素晴らしかったです。女性版フランケンシュタインみたいなお話で、死んで自分の胎児の脳を移植されて、体は大人だけど頭は赤ちゃん。最初は動きもぎこちない感じだったのが、だんだん人間らしくなって、学習もして思考も追い付いていく。どんどん芯のある大人の女性に成長していく変化がすごくて。演じるのは難しそうだなと思いながら観ていました。

家族に愛されていた姿を崩さないように

――『ディア・ファミリー』では実在の方の役で、より大切に演じる意識もありましたか?

福本 ありました。台本を読むだけではわからない部分もあるので、撮影に入る前に、演じさせていただいた佳美さんのご家族にお会いしました。パーソナルなお話をいろいろうかがったりもしました。

――今までにないようなところに気を配ったりも?

福本 ご家族の方には佳美さんと過ごしてきた時間があるので、皆さんが愛した佳美さん像を、崩さないようにしたいと思いました。どういうふうに毎日を過ごしていたのか。内面だけでなく、しゃべり方や動作をあえてゆっくりめにしたり、猫背気味だったというお話も聞いて、身体的なアプローチをいろいろ考えて演じていました。

――ご家族のお話から、手繰り寄せていったんですね。

福本 そうですね。三姉妹で普段どういうふうに過ごされていたのかうかがって、寝る直前まで和気あいあいと話されていたとも聞きました。佳美さんは三女の寿美さんに頼られるのがすごく嬉しかったそうです。

――周りに気をつかわれていた中で……という話が、劇中でもありました。

福本 映画の中で寿美ちゃんの面倒を見てあげたり、ワープロを買ってあげたり。そういうシーンに家族のエピソードが盛り込まれていました。

どうして「私の命はもう大丈夫」と言えたのか

――撮影に入る前は、不安だったこともありましたか?

福本 「私の命は、もう大丈夫だから」と言うシーンは、最初に台本を読んだとき、どういうふうに演じたらいいんだろうと思いました。そもそも、どうしてそんなことが言えたのか? もし私が20歳までしか生きられないと言われたら、もっと落ち込んで卑屈になって、前向きにはなれなかったと思います。

――それが普通かもしれません。

福本 でも、佳美さんは常に前向きで、できないことより、できることに目を向けていたから、あの言葉も言えたみたいです。ご家族のお話を聞いていると、佳美さんが強い理由がわかりました。皆さんの佳美さんへの愛がすごくて、佳美さんも家族が大好きだったから、限られた時間の中で一生懸命生きられたんだと思います。学校でいじめられても、それより毎日を家族みんなで過ごせることが、きっと幸せだった。自分のために、あんなに必死になってくれる人は、あまりいませんよね。諦めないお父さんの背中を見ていたから、佳美さんも強くなれて、他の人を救ってほしいという気持ちを持てたのかなと感じました。

――そうした心情がわかると、「私の命は、もう大丈夫だから」のトーンもおのずと生まれたものに?

福本 あそこはインしてすぐのシーンだったんです。お父さん役の大泉さんと話し合って、テストで「もうちょっと(肩を揉む)力が弱いほうがいい」とか「焦らなくても大丈夫」とおっしゃっていただいて、作り上げていきました。

お姉ちゃんに心配させないようにするのは辛くて

――心臓疾患についても調べたんですか?

福本 もちろん調べました。佳美さんは先天性のもので、50万人か60万人に1人の病気だったとか。でも、心臓病といっても症状は人によって違って、ネットで調べてもいろいろな例が出てきて。そこはご家族に、佳美さんはどんな状態だったのか聞きました。私が演じたのは高校生からで、入学した頃はわりと調子が良くて、学校にも行けていたそうです。年によって、どれくらい入退院していたのかも、教えていただきました。

――劇中の佳美は辛い顔を見せたり泣いたりはほとんどしませんでしたが、日記に衝動的に「死にたくない」と書き殴るシーンがありました。

福本 前向きな佳美さんでも、1人になると、やっぱりふと考えてしまったでしょうね。20歳までって、あまりに早いので。

――お姉さんの奈美に「私、もうダメなの?」と聞いて、「大丈夫」と言われると「そっか……」と立ち去ったり。

福本 倒れて、もう助からないかもというところから退院して、家族が豪華な食事を用意してくれて。いつも通りやさしく接してくれたけど、佳美さんはきっと勘づいていたんだろうなと。お姉ちゃんに聞くところは辛かったです。でも、そこで悲しい顔をしたら、お姉ちゃんに心配をかけるので。

大泉さんはテレビのイメージのままでした

――大泉洋さんとは初共演でしたっけ?

福本 そうです。テレビで観ていたイメージのままというか、朝からずっとお話をされている感じで(笑)。初日の家族写真を撮るシーンから、和気あいあいとおしゃべりできました。

――役者として学ぶこともありました?

福本 もちろんです。監督と細かい動きを打ち合わせされていたり、お芝居に対してストイックで熱心なところは、すごく勉強になりました。撮影ではキリッとされていて、カッコいいお父さんに見えました。

――お母さん役の菅野美穂さんはどんな印象でした?

福本 常に笑い声でどこにいらっしゃるかわかるくらい、明るい方でした。ストーリー的には悲しいところもありますけど、大泉さんと一緒に現場を盛り上げてくださって、すごくありがたかったです。

時代を感じるメガネや髪型は新鮮でした

――莉子さんは普段、役の佳美のようにメガネを掛けているんですか?

福本 普段は掛けていません。映画を観るときには掛けます。

――では、それほど違和感はなく?

福本 でも、あの大きさのメガネを掛けるのは初めてでした。時代を感じるアラレちゃんメガネで、パッと見、誰だかわからないかもしれません(笑)。映画の中で高校生から成人して社会人になって、メガネもお洋服の感じも変わるので、そこも注目していただきたいです。

――形から役に入る部分もありました?

福本 ありますね。やっぱり今と全然違う時代なので。髪型も聖子ちゃんカットみたいだったり、なかなか新鮮でした。

――そういう髪型が昔流行っていたことは、知っていたんですか?

福本 何となく音楽番組で見たことはありました。

メイクしてもらうシーンに姉妹の関係性が見えて

――食卓のシーンが印象深かったとのコメントもされています。佳美はごはんをよそっていましたが、福本家の食卓もそんな感じでした?

福本 役割分担はありました。母がごはんをよそう間に、私はおかずを盛り付けたり、冷蔵庫から何か出したり。そこは時代が違っても変わらない感じでした。

――他に撮影で覚えていることはありますか?

福本 家族みんなでいるシーンは、どれも楽しかったですね。川栄(李奈)さんが演じるお姉ちゃんにメイクしてもらうところも、何気ないシーンでしたけど、2人の関係性が見えていいなと思いました。

――後半に入院したところでは、厳しい状況になっていました。

福本 頬がこけている感じを出すために、特殊メイクをしています。肌の色味もほとんどなくて、髪も切って、最初との変化がかなりありました。

社会人になって親のありがたさを実感しました

――この映画に出演して、家族について改めて考えたりもしました?

福本 私も家族をより大切にしたいなと思いました。小・中学校から高校、大学と育ててもらいながら、自分のことでいっぱいいっぱいになっていたときもあって。だけど、親はいつも子どものことも考えてくれている。自分以外の人も養えるって本当にすごいことなんだと、社会人になって改めて感じています。

――こんなときにご家族に支えられた、ということもありますか?

福本 私の小学校では給食がなくて、中学、高校までずっとお弁当だったんです。母が毎日5時に起きて、姉のと2人分、作ってくれていました。家に帰ったら、おいしいごはんが用意されていて、温かいお風呂にも入れて。それは当たり前のことではなかったんだと、ひとり暮らしを始めてから、ありがたさを実感しました。

――映画のように、お父さんに「大好きだよ」と言ったりも?

福本 それはないです(笑)。だけど、父の日や誕生日にお祝いして「ありがとう」は言っています。

イヤなことに左右されないように

――命に関してはどうですか?

福本 普段生きていると1日はあっという間で、ちょっとイヤなことがあると、気分も左右されて落ち込んだり、イライラしたりもしますよね。佳美さんからしたら、そんな時間ももったいないんだなと。それより今できることを考えて、ご家族も言う「次どうする?」という台詞がキーになっています。今も大事だし、常に先を見ている。その意識はすごく大切だなと思いました。

――そういうことは映画を観ていても感じました。

福本 毎日をちゃんと生きる。周りの人を大事にする。人間、落ち込まないと上がれませんけど、ネガティブな気持ちには振り回されない。そんなことを改めて考えさせられました。

ひとり旅に出てみたいです

――『ディア・ファミリー』は娘が余命10年と宣告されて、未来を変えるために立ち上がった家族の物語。莉子さんにタイムリミットはありませんが、これからの10年はどう生きますか?

福本 24歳から34歳ということで、いろいろな役もやりたいですし、旅にも出てみたいです。小さい頃、家族でハワイや台湾に行きましたけど、ひとり旅に憧れていて。なかなか勇気が出ないんですけど、いろいろなことにチャレンジする10年にしたいです。

――行きたい国もありますか?

福本 ロンドンに行ってみたいです。『ノッティングヒルの恋人』や『ハリー・ポッター』シリーズがすごく好きなので。今だと、タイにも行きたいです。

――ひとり旅がいいんですか?

福本 友だちと行ってもいいんですけど、単純にひとり旅ってカッコ良くないですか(笑)?

――莉子さんのアナザースカイもありますか?

福本 どこだろう? 今のうちに、ゆかりの国を作っておきます(笑)。

撮影/松下茜

Profile

福本莉子(ふくもと・りこ)

2000年11月25日生まれ、大阪府出身。2016年に第8回「東宝シンデレラ」オーディションでグランプリ。2018年に『のみとり侍』で映画デビュー。主な出演作は映画『思い、思われ、ふり、ふられ』、『しあわせのマスカット』、『君が落とした青空』、『今夜、世界からこの恋が消えても』、ドラマ『消えた初恋』、『昭和歌謡ミュージカルドラマ また逢う日まで』、『トリリオンゲーム』、『ONE DAY~聖夜のから騒ぎ~』、舞台『魔女の宅急便』、『アルキメデスの大戦』など。6月14日公開の映画『ディア・ファミリー』、2025年公開の映画『お嬢と番犬くん』に出演。

『ディア・ファミリー』

監督/月川翔 脚本/林民夫

出演/大泉洋、菅野美穂、福本莉子、川栄李奈ほか

6月14日より全国東宝系にて公開

公式HP

(C)2024「ディア・ファミリー」製作委員会
(C)2024「ディア・ファミリー」製作委員会

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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