安保法制は北朝鮮からの「核報復」リスクに耐えられるか
安全保障関連法案の参院での審議が、27日から始まった。不思議でならないのは、ここに至るまで、核武装した北朝鮮と軍事的に対峙するリスクについて、まったくと言っていいほど議論されていないことだ。
皮肉なことに、むしろ北朝鮮の側が、「アナタたち気をつけた方がいいよ」と忠告してくれているような有様である。
筆者はこのことを繰り返し指摘してきたが、いま一度改めて強調しておきたい。
安保法制を推進する上で具体的に何に気を付けるべきかと言えば、ポイントとなるのは、安保法案の国会提出に先立ってアメリカと合意した、日米防衛協力の指針(ガイドライン)だ。ガイドラインでは、アメリカを狙った弾道ミサイルを自衛隊が迎撃することが集団的自衛権の行使として想定されている。つまり、北朝鮮がアメリカに向けて発射する弾道ミサイルについては、自衛隊が対処する責任を負ったということだ。
この義務を真面目に果たしていくと、いずれどこかで、自衛隊が北朝鮮に対して先制攻撃をしかけるべき場面が出てくる可能性がある。とくに、北朝鮮が弾道ミサイル潜水艦の開発を進めている事実は厄介だ。一部には、北朝鮮の技術レベルを侮る雰囲気があるが、スコット・スウィフト米太平洋艦隊司令官(海軍大将)は、「北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル開発は地域情勢を不安定にする実質的な脅威である」との見方を示している。
では、自衛隊が北朝鮮の弾道ミサイル潜水艦と対峙した時、どのようなことが起きるのか。
技術的には、潜水艦から発射された弾道ミサイルを撃ち落とすより、発射前の潜水艦を沈める方がよほど簡単だ。在日米軍基地などを襲う核ミサイルの迎撃に失敗するリスクを考えれば、必然的に「先に沈めてしまおうか」との選択肢が浮上してくるのである。
現在の日本がそのような選択をするなど「あり得ない」と考える人が大部分だろうが、安保政策を大転換してゆけば、もろもろの状況変化が重なって、そのような場面が自ずと醸成されかねないのだ。
最大の問題は、その先にある。仮に日本が先に“手出し”をしてしまえば、北朝鮮が「核報復」の権利を言いたてるであろうことは火を見るよりも明らかだ。
もちろん、北朝鮮が国家として存続したいならば、日本に対する攻撃を実行することなどできない。しかし、核武装国からあからさまに「核攻撃」の脅しを受け続けている国に対し、世界の人々(とくに投資家や外国企業)は従来と変わることなく「安全な国」であるとの認識を持ち続けてくれるだろうか。
言うまでもなく、安保法制が成立しようがしまいが、核武装した北朝鮮の存在は日本にとって脅威である。この機会に、まずはこの事実について認識を新たにしておくべきではないだろうか。