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カーリング王国・北海道に超新星が現る。LS北見に土をつけた超攻撃的カーリングを展開するJK集団

竹田聡一郎スポーツライター
左から佐藤七希、中村碧音、市山ひまり、市山ひおり (C)HCA

 北見市常呂町のアドヴィックス常呂カーリングホールで来年1月28日に開幕する日本選手権に向け、各地区でブロック予選がはじまっている。11日には北海道、東北、西日本の代表が決定した。

 北海道は男子が北見協会(KiT CURLING CLUB)で女子が北海道銀行、東北は男子が宮城CA(Hot Shot!)で女子はフィロシーク青森、西日本からは男子は岡山CAで女子はチーム広島、それぞれ日本選手権の出場切符を獲得している。

 注目が集まる最激戦区、北海道選手権を制したのは昨季の日本選手権3位の北海道銀行だった。準優勝でワイルドカード決定戦に回ったのがLS北見(ロコ・ステラ)となっており、実力のある両チームが駒を進めた形だが、いい意味でこの北海道選手権を荒らしてくれた若いチームがある。

 十勝JCC(Jewelry Ice Curling Team)だ。

 リードの市山ひおり、市山の双子の妹であるセカンドのひまり、サードでスキップの佐藤七希(なつき)の3人が高校1年生で、フォースでバイスの中村碧音(あおね)が高校2年生。中村の妹であるフィフスの華音(はるね)はまだ中学1年生であり、平均年齢は16歳だ。

 地元のカールプレックス帯広をホームリンクとして結成し、今季で5年目を迎えた。ジュニアでなく一般のカテゴリーでの北海道選手権は初出場だ。

「強豪とどれだけ戦えるのか知りつつ、プレーオフ進出を目指したい」と中村碧は意気込みを語っていたが、ラウンドロビン(総当たりの予選リーグ)は5勝2敗の3位タイの成績で通過。「格上のチームなのでチャレンジする意気込みで戦った」という言葉どおり、清々しいほどに攻撃的なカーリングで見る者を魅了した。

 とにかくドローゲームを好み、12フット(ハウスのもっとも外側の円)程度であれば相手の石に触らずに、より強い石を中心に送り続けた。

 中村碧はチームの強みを聞かれて「フロントエンドのふたりがドローが上手いので石を溜めることができる」と答えていたが、フロントエンドだけではない。相手が早いショットで盤面を変えた時こそ好機とばかりにバックエンドの佐藤と中村碧も常によりよい配置を貪欲に探り、丁寧にドローショットを運ぶ。

 その姿勢が相手にプレッシャーを与え続け、ラウンドロビン7戦を終えた時点でブランクエンド(ハウス内に石がなく両軍に点が入らないエンド)はたったの2。これはプレーオフ進出の4チーム中最少で、逆に3点以上を獲得したエンドは北海道銀行に続き2番目の7エンドを数えた。センター戦にこだわりガードの裏側に強い石を置く。いかにカーリングの基本を突き詰めて勝負してきたか、数字が物語っている。

 逆に言えば、十勝JCCに競り勝った北海道銀行やLS北見は、ハウスをある程度クリーンに保ちつつテイク戦とドロー戦を両睨みしてゲームをコントロールしていた。「私たちはまだまだ経験が足らないなと思いました」と中村碧は振り返ったが、今回に限っては国内トップカーラーの老獪さが上回った結果だ。

 しかし、プレーオフで敗退してもなお、彼女らへの賞賛はやまなかった。

 例えば、LS北見の本橋麻里だ。ラウンドロビンで一度、黒星を喫しながらもプレーオフでしっかりリベンジを果たした後、「本当に上手で終盤は(勝てるかどうか)緊張しながらプレーしていました」と素直に若いチームの実力を認めつつも、こう言った。

「怖いけれど、とても頼もしいチームですね」

 意訳すれば「競技者としては強力なライバルの登場は脅威だが、カーリングの未来を考えると次世代のホープの台頭は大歓迎」といったところだろうか。彼女らしい独特の表現と笑顔で新星の出現を称えた。

 ある男子選手は「しばらくは今のまま育ってもいいのでは」と指摘する。

 大会後、中村碧は「やっぱり強豪はスイープがとっても強いです。私たちも筋トレをしてスイープを強化していけたらと思っています」と課題を口にしたが、関係者の中には「テイクショットやコーナー戦について練習するのはもう少し、体格も筋力も備わってからでも遅くない」という意見は少なくない。

「あれだけのドローが投げられるのだから、ジュニアのうちに混み合ったハウス内での点の取り方を先に覚えてしまえば、世界に通用するチームになる可能性がある」(前出)

(C)HCA
(C)HCA

(C)HCA
(C)HCA

 初の一般カテゴリーで大きなインパクトを残した彼女らが次に挑むのは12月24日から開幕する北海道ジュニア選手権だ。妹背牛町カーリングホールで行われ、上位入賞チームは3月に軽井沢で開催される日本ジュニア選手権に進む。

 さらに来年1月には「北海道新聞社杯 全道高等学校カーリング選手権大会」に出場し、こちらは2月に青森で行われる高校選手権を目指す。

 また、北海道選手権4位という好成績を残したことで、来夏の北海道ツアーに参戦できる可能性も高まった。一般、ジュニア、高校という3つのカテゴリーで研鑽を積んで、まだ荒削りな原石はどんな輝きを放つのだろう。Jewelry Ice Curling Team、覚えておいて損はないチームだ。

スポーツライター

1979年神奈川県出身。2004年にフリーランスのライターとなりサッカーを中心にスポーツ全般の取材と執筆を重ね、著書には『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。 カーリングは2010年バンクーバー五輪に挑む「チーム青森」をきっかけに、歴代の日本代表チームを追い、取材歴も10年を超えた。

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