「感染症で死者が続出している」W杯予選ドタキャンの北朝鮮、国内で深刻な事態
感染症への懸念を理由に2026年ワールドカップ(W杯)アジア2次予選の日本戦をドタキャンした北朝鮮だが、そのかいもなく、国内では新型コロナウイルスと思しき症状を見せる患者が急増している。
北部の両江道(リャンガンド)では、3月に入ってから肺炎患者が増えていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。その原因は外部から流入よりも、むしろ金正恩政権の極端な防疫措置にあるとの指摘も聞こえる。
(参考記事:「気絶、失禁する人が続出」北朝鮮、軍人虐殺の生々しい場面)
現地の情報筋は、道内の白岩(ペガム)郡で3人、甲山(カプサン)郡で2人の子どもが、コロナと思しき症状を見せ、肺炎を発症して死亡したと伝えた。
また、別の情報筋は、内閣保健省が、コロナ非常防疫司令部を再び立ち上げたと伝えた。これに伴い両江道と各市、郡の非常防疫指揮部も活動を再開し、1日2回住宅を回って住民の検温を行い、高熱患者の素早い発見に取り組んでいる。
地域では10歳の少年が、コロナを疑わせる症状を見せ、あっという間に亡くなってしまったことが口コミで広がり、人々に衝撃を与えた。
防疫指揮部は、ウイルスの拡散を防ぐために、地域の託児所、幼稚園、学校を10日間休校にしたが、現地のデイリーNK内部情報筋によると、さらに延長する旨が伝えられた。
当初は3月11日から21日まで休校する予定だったが、拡散が収まらないため、29日まで延長することとなった。新学期を控え、30日には臨時登校が予定されているが、行われるかは不透明な状態だ。子を持つ親は心配が絶えない。
「勉強するより外で遊びたがる子どもたちを15日以上も家に閉じ込めていると、外に出たいと駄々をこねたりする」(デイリーNK情報筋)
子どもが密かに家を抜け出そうものなら、親には冷や汗ものだ。ともかく一日も早い収束を祈るしかないと情報筋は述べている。
ただ、今回の感染症が新型コロナウイルスであるかは不明だ。
朝鮮労働党機関紙・労働新聞は1月11日と3月11日の2回、マイコプラズマ肺炎に関する記事を掲載した。胸痛、頭痛、咽頭痛、高熱、咳などが一般的な症状で、主に免疫力の弱い子どもがかかりやすく、抗生剤で治療するなどと書かれている。
金正恩総書記が2022年8月、新型コロナウイルスとの「非常防疫戦」での勝利宣言を行った。これに反することが起きれば、金正恩氏の顔に泥を塗ることになるというのが、北朝鮮式の考え方だ。
そのため、勝利宣言後に熱病患者が発生しても、コロナであることは認めない。政治的リスクのあるPCR検査を行うよりも、確定診断を行わず、一般的な対処療法で回復を待つ方がいいだろう。上述のマイコプラズマ肺炎の記事も、その点を配慮してのものかもしれない。
そもそも、死者が続出する事態になったのは、国の失政によるところが大きい。
「死者が出たのは、ここ数年間まともに栄養を取れておらず、免疫力が弱まったからだ」(情報筋)
金正恩氏は、国内でコロナが拡散することを恐れるがあまり、国境を完全に封鎖し、人だけでなく、モノの行き来も遮断してしまった。そのせいで食糧を得られない人が続出したが、コロナ明け後にもその状況は変わっていない。穀物はもちろん、ほとんどの品目の市場での販売を禁じたことで、現金収入を得られなくなった国民は、眼の前に食べ物があっても買うことができないのだ。