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「キングオブコント」ダメ出しされたラブレターズが優勝できた理由とロングコートダディの「とある」可能性

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

稀に見る接戦キングオブコント

キングオブコント2024は稀にみる接戦であった。

1位と2位と3位の最終得点が、それぞれ1点差であった。

ほぼ順位差がなかったとも言える。

痺れるような接戦

1stステージでも同じであった。

ファイナルに進んだ3組と、4位や団との差はたったの1点。

や団も優勝圏内にいたことがわかる。

5位以下も、3点差、2点差、3点差、同点と、7位同位まであまり差がなかった。

痺れるような接戦であった。

ファイナルに進んだ3組は1点差

ファイナルステージは得点差によって、ファイヤーサンダーとラブレターズ、ロングコートダディの3組が進んだ。

キングオブコントは1stステージの得点がそのまま持ち越される。

1st得点とファイナル得点の合計点で競われるので、1stで高得点を取って他を引き離すと、圧倒的に優位に立つ。

でも今年はみな1点差でほぼ同じ得点でファイナルに進み、優勝はまったく予想がつかなかった。

1stステージとファイナルのそれぞれの「採点」が目指すもの

ファイナルの採点は、審査員5人とも、見事であった。

1stステージでは同点をつける審査員も多かったが、ファイナルはみんな順位差をつけたのである。

1stステージ採点では「もう1回見たい人を選ぶ」。

ファイナル採点では「優勝を決める」。

それが採点の基準となる。

ここをきちんと強く意識した5人であった。

感心させられた採点であった。

優勝はあくまでラブレターズである

あらためて、キングオブコント2024は、ラブレターズが優勝した。

私はここに何の疑問もない。

一点の曇りもなく、それが2024年の結果である。

ただ接戦であった。3組同時優勝としてもいいくらいの状態だったのもたしかである。

可能性としての別の審査

以下、どれぐらい接戦だったのか、という検証をしてみる。

キングオブコントは2つのパフォーマンスを総合して順位を決めている。

漫才の大会M−1とは採点方式が違う。

M−1は1stで勝ち抜いた3組が、その得点と関係なく、ファイナルの漫才で戦う。採点の持ち越しがない。

つまり2本目のネタは新たに見てもらえるので、1本目ネタの延長であっても認められる。2022年のウエスト・ランドはそれで優勝した。

そもそもの1本目と2本目ネタの性格の差

キングオブコントは、トータルで見られるので、あまりネタを重複させない。

その世界観の広さを見せるのも大事である。

だから、「キングオブコントの採点」を「M−1の採点方式」で見直すことには(いまここでやっている検証は)本来は何の意味もない。

審査員はそんなつもりで採点していないからだ。

だからあくまで、接戦であったという証明のために、その無理な仮定を展開してみているだけである。


異議申し立てをしているわけではない。

そこのところだけはどこまでも間違わずに読んでもらいたい。

M−1方式で審査員1人が1組を選ぶと

M−1ではファイナルでは採点せず、勝った(優勝した)と判断したチームの名前をあげる。

その方式だとおもって、今回のファイナルの結果を見直すとこうなる。

審査員の左から、名前がくるっと変わって並ぶのはこうなる

じろう、「ロングコートダディ!」

山内、「ラブレターズ!」

秋山、「ロングコートダディ!」

小峠、「ファイヤーサンダー!」

飯塚、「ファイヤーサンダー!」

「ロングコートダディ」2票、「ラブレターズ」1票、「ファイヤーサンダー」2票となる。

ここでは優勝が決まらない。

山内さんの一票が入るのは

ではラブレターズを選んだ山内さんはどちらを選ぶか、となって彼は2位がロングコートダディで、ファイヤーサンダーより上に評価しているので、ロングコートダディに1票追加されて3票。

もっとも得票の多いのは、ロングコートダディ!

たとえばそういうこともあり得る採点でもあった。

断ったように、ラブレターズの優勝への疑問は何もない。

かくも接戦であった、という話である。

お笑いとしての差がなかった

これまでは「総合的にお笑いとして見たとき」の差によって順位付けができた。

早い話がどれぐらい笑えるかの差が出ていた。

でも今年は、そこにも差がなかった。

審査員によって基準が違うので、その視点の差が結果に大きく関わってきた。

すべての人が納得できる結果にはならない。しかたない。

「お笑いに順位を決める」大会の宿命である。

ファイナルのネタでダメ出し連続だったラブレターズ

たしかにラブレターズの優勝は意外であった。

おそらく、2本目のコントが終わったあと、審査員のコメントは、ほぼ全員ダメ出しだった、というのが大きいのではないか。

どこへ行こうとしているのかわからなかったとまで言われていたのだが、そのまま優勝してしまった。

ここが2024年大会の特徴だったと言えるだろう。

2本の振り幅がもっとも広かった

ラブレターズの1本目は「どんぐり」がもたらす感動ネタでありながら、2本目はまったく別方向の不条理コント「坊主頭サポーターと海岸のアメリカ人」だった。

2本の振り幅がもっとも広かった。

もちろんロングコートダディもファイヤーサンダーも、2本のネタの方向性は違っていたのだが、プロのコント師審査員が見ているところでは、「2本目でわけのわからないコントを演じる根性」が高く評価されたことになった。

人生を賭けた大会で「狂気のネタ」へ走るという、その肝の据わりように感嘆する。それはとてもわかる。

でも、そんな視点をまったく持たない人にとってはわかりにくい評価だろう。

そこがなかなかむずかしいところだったとおもう。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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