Yahoo!ニュース

「トリハダ」「完成度エグい」原作改変によって大ヒットした歴史的名作3選!!【ホラー、SF、アニメ】

渡辺晴陽作家・脚本家/エンタメアドバイザー

このところ、懐かしい作品のリメイクや続編の発表が相次いでいますね。

完結していた物語の続編は、主要人物のその後が期待とは違っていてがっかりすることもあります。リメイク作品も、リメイク前の方が良かったという感想を持つ人が必ず一定数はいます。

それだけリメイクや続編は難しいものですが、考えてみれば、原作がある作品の映像化もとても難しいですね。
原作通りにやるのが一番、かと思いきや、文字、絵、アニメ、実写、それぞれで見る人の受ける印象が違うので、そのまま置き換えるだけでは上手くいかないことも多いようです。

たとえば、ギャグ漫画にたまにあるようなボロボロに大怪我をしているシーンをそのまま実写化すれば、映像はホラーさながらの悲惨なものになるでしょう。
あるいは、文学作品をそのままアニメ化したら、登場人物がほとんどしゃべらない寂しい作品になってしまうかもしれません。

ですが、映像化のためにアレンジ(改変)をし過ぎると、原作への冒涜だと問題になってしまうこともあります。

そんななか、原作改変が大成功し、歴史的な名作になった作品もあります。
今回はそんなアレンジの光る歴史的名作映画を3作品(ホラー、SFパニック、アニメ)紹介します。

原作者が大激怒も、映画史に残る名作

シャイニング

公開は1980年と古めのホラー映画ですが、ホラー映画ファンなら誰もが知る作品でしょう。原作はスティーヴン・キングの小説で、スタンリー・キューブリック監督の製作です。この映画は、登場人物の性格から物語の展開までもが原作と大きく異なっていたため、原作者は激怒したそうです。映画はサイコホラーのような不気味な性質が強い作品でしたが、原作はファンタジー的な要素が多く、2019年に公開された続編映画『ドクター・スリープ』で描かれたような、現代を舞台にした伝奇物語やダークメルヘンのような世界観の作品でした。

アレンジのココが凄い!

本作の舞台は、冬には雪深くなり出入りが困難な山奥のホテルです。
山が雪に閉ざされた冬の間はホテルが休業していますが、建物の維持管理をする人は必要です。そのため、主人公たちの家族はホテルに住み込みでホテルの管理をしています。

原作では、主人公たちはホテルの持つ霊的な力に支配されて困難な事態に見舞われます。しかし、映画ではホテルの霊的な力の描写は最小限に抑えられていて、雪に閉ざされた閉塞感や、主人公の焦る気持ち、家族のすれ違いによって徐々に家族が壊れていき、恐ろしい事態が巻き起こるストーリーになっています。

それだけに、霊的な怖さはかなり少なくなってしまっています。ですが、独特の不気味さや、徐々に歯車が狂っていきやがて破滅的な展開に繋がっていく不安感、日常の延長線上にある恐怖などが生々しくて、過度な残酷描写は無いにもかかわらず、ゾッとするほど怖くなっています。そのため、本作は高く評価され、映画史に残る名作の一本となりました。

原作者が改変に激怒したそうなので、この改変は現在なら大問題かもしれません。しかし、キューブリックのアレンジのおかげで歴史的な作品となったのは間違いないでしょう。

実際に、この映画の後に原作者本人が主導して原作に沿った映像作品を作っており、そちらも良作だと認められてはいるものの、スタンリー・キューブリック監督の映画版ほど強烈な印象は視聴者たちには残らなかったようです。

劇中の斧でドアを破るシーンは、映画史に残る名場面に
劇中の斧でドアを破るシーンは、映画史に残る名場面に

原作者が大絶賛のアレンジ

ミスト

2007年のSFパニックまたはSFホラー映画です。本作も原作はスティーヴン・キングの小説で、監督はフランク・ダラボンです。原作者のキングは、本作のアレンジを絶賛しており、ダラボン監督には自作2作品の映画化も託しています。原作ではリドルストーリー(結末をぼかして、読者の想像に委ねる)のようなラストでしたが、映画は誰の目にも悲劇的かつ衝撃的な結末を迎えます。そのアレンジにより本作は、原作を超えた作品として高く評価され、トラウマ級の映画だと言われています。

アレンジのココが凄い!

本作は、ある日突然に街の周囲に霧が立ち込め、その霧の中に得体の知れないモンスターがいるという物語です。主人公たちが徐々に迫りくる危険な霧から逃げ、安全な場所を探す形式で物語は展開していきます。

原作の結末は、主人公が助かったのか助からないか曖昧なリドルストーリー的な終わり方をしていました。
結末がはっきりしないモヤモヤ感は、視聴者に強い余韻を残します。たとえば映画『インセプション』は、はっきりしない結末のおかげもあって、鑑賞した人たちの記憶に焼き付く名作になりました。
ところが、本作はあえて結末をはっきりさせ、しかも衝撃的な展開にすることで、リドルストーリーの余韻を遥かに超える印象を視聴者に叩きつけました。

前述の映画『シャイニング』では原作者のキングは激怒したそうですが、本作『ミスト』ではキングは結末を絶賛したそうです。
本作のアレンジは原作者からも原作を超えたと認められていて、それはとてもスゴイことだと思います。

強烈な後味の残る映画は、忘れられない一作です
強烈な後味の残る映画は、忘れられない一作です

アレンジによって色褪せぬ名作に

パーフェクトブルー

1997年のアニメ映画で、ジャンルはサイコミステリーまたはサイコホラー。原作は竹内義和氏の小説ですが、今敏監督の大胆なアレンジによってほとんど別の作品になっています。アニメ監督の今敏氏は原作の映画化を打診されたときに、ジャンル的に苦手だったり展開がありきたりだと感じたりしたそうです。しかし、原作者が数点の取り決めを守ってくれれば好きにアレンジしていいという旨の許可を出したことで、監督の手腕が遺憾なく発揮され、今なお色褪せぬ名作アニメ映画になりました。公開から30年近く経ちますが、今見ても目新しさすら感じる出来栄えで繰り返し再上映されており、昨年も4Kリマスター版が劇場上映されました。

アレンジのココが凄い!

本作は、B級アイドル(≒地下アイドル)と、ストーカー化したアイドルオタクの物語です。原作はストーカーの恐怖や、暴力や残酷描写を通したスブラッター的な怖さを描いていました。しかし、アニメ映画版では、精神がおかしくなっていく恐怖や、何が現実で何が虚構かが分からないような不気味で不穏な世界が描かれています。プレッシャーやストレスのせいで壊れていく主人公の姿にもゾッとします。

サイコホラー作品が沢山ある現在ですら、本作を見ると目新しさを感じるはずです。街の風景や、アイドルを取り巻く環境、パソコンなどのちょっとした小物には時代を感じますが、内容的には今見ても全く古臭さがないのもスゴイ所です。

アイドルにストーカー。昔の映画でありながら現代的なテーマ
アイドルにストーカー。昔の映画でありながら現代的なテーマ

正直に言えば、私自身、映画やドラマが原作と違っていてがっかりすることがあります。ただ、漫画には漫画の、文章には文章の、アニメにはアニメの、実写には実写の、強みもあれば弱点もあります。

映像化するとき、たいていの監督や脚本家は並みの原作ファン以上に原作愛を持っています。その愛情が空回りすることも多々ありますが、「原作の良さを、しっかり引き出してあげたい」という前向きな気持ちで作られているのは間違いありません。

原作に忠実かつ上手く表現した映像作品はもちろん素晴らしいです。ですが、原作改変のある作品でも、「自分は原作の方が好きだな」とか「この監督はこういう解釈をするのか」、「その発想は無かったわ」などと、おおらかな気持ちで違いを楽しめれば、より豊かな体験ができるかもしれませんね。

この他にも、Xや記事にて映画やアニメ、ドラマなどエンタメ作品を紹介しています。ご興味のある方は合わせてチェックしてください。また、下部にあるプロフィールページより、過去記事の閲覧やフォローも可能ですので、この記事が気に入った方は是非ご利用ください。

作家・脚本家/エンタメアドバイザー

国立理系大学院卒、元塾経営者、作家・脚本家・ライターとして活動中。エンタメ系ライターとしては、気に入ったエンタメ作品について気ままに発信している。理系の知識を生かしたストーリー分析や、考察コラムなども書いている。映画・アニメは新旧を問わず年間100本以上視聴し、漫画・小説も数多く読んでいる。好みはややニッチなものが多い。作家・脚本家としては、雑誌や書籍のミニストーリー、テレビのショートアニメや舞台脚本などを担当。2021年耳で読む本をつくろう「第1回 児童文学アワード」にて、審査員長特別賞受賞。

渡辺晴陽の最近の記事