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「一回死にました」。どん底で「流れ星☆」がつかんだ哲学

中西正男芸能記者
「流れ星☆」のちゅうえいさん(左)と瀧上伸一郎さん

 瀧上伸一郎さんとちゅうえいさんのコンビ「流れ星☆」。昨年、新型コロナ禍で中止になった結成20年記念ツアー「絆」を今年8月から開催します。「M-1」では準決勝に6回進むも決勝には届かず、その後の「THE MANZAI」でも2013年にファイナリストになるものの優勝は果たせず、葛藤と向き合う日々を過ごしても来ました。昨年10月、瀧上さんはタレント・小林礼奈さんとの離婚も発表。あらゆる感情を噛みしめてきた21年の芸能生活でしたが、そこでの思いを赤裸々に語りました。

どん底

瀧上:去年が20周年だったので、今年で芸人をやり始めて21年。もう、人生の半分なんですよ。ま、僕は年齢非公開になってるんですけど(笑)。

ちゅうえい:ちなみにですけど、僕が今年で43歳で、僕らは高校の同級生です(笑)。

瀧上:これだけの年月やっていると、当然ながらいろいろありました。振り返ってみて、どん底というか、一番つらかったのは2011年だったと思います。

「M-1グランプリ」がいったん終了して、次に「THE MANZAI」が始まった年でした。ありがたいことに、前評判ではウチが高い評価をいただいていたんです。

ちゅうえい:というのも、正直な話、それまで「M-1」決勝に出ていたメンバーよりも、もう一つ若いメンバーが「THE MANZAI」の中心になると言われてまして。その中だと、僕らがキャリア的にも有力候補だと思っていただけたみたいでして。

さらに、決勝に進める組数も「M-1」よりグッと増えて、とにかく決勝に行くことはありきで、さぁ、そこから頑張るぞという考えも持っていたんです。

瀧上:ただ、結果的には決勝に行くこともできなかった。そこで、完全に心が折れました。マジでお笑いを辞めるというところまで考えました。感覚的には、そこで確実に一回死にました。

もう、このままではダメだ。それまで作ってきた形の漫才を捨てないといけない。全部のネタが、いわば、お腹を傷めて産んだ子どもでもあるんですけど、それを全て捨てる。

ものすごく覚悟の要ることでしたけど、これまで目指していたカッコいい漫才ではなく、ちゅうえいのキャラクターを前面に出した“ちゅうえいプレゼンショー”の4分間にする。そう決めて、もう一回歩き出したんです。

ちゅうえい:オレも、そこがどん底だったと思います。相方から「もう一回、ネタ合わせをやろう」と言われても「そんな気分じゃない」と断ってましたしね。でも、そのままでいいとは思ってなかったので、歩き出したというところだと思います。

忘れられない顔

ちゅうえい:そこからもう一回立て直して、13年には「THE MANZAI」で決勝に進むことができました。敗者復活から勝ち上がったんですけど、そこで今も忘れられない光景に出くわすことになったんです。

同じ岐阜出身ということで、若手の頃から「東京ダイナマイト」の松田大輔さんにすごく可愛がってもらってきたんです。

13年の「THE MANZAI」では「東京ダイナマイト」さんは正面突破で決勝進出が決まっていて、僕らは敗者復活の中の一組という状況。大会前、松田さんから「お前らが敗者復活で上がってくるかもしれないけど、これだけは守ってくれ。変にウケて、オレらとお前らで票を散らさないように(笑)」と言われていたんです。

もちろん、シャレでの話なんですけど、実際、僕らが敗者復活を勝ち上がって決勝に進むことになり、フジテレビのステージ裏を取って舞台袖に向かっていたら、そこでたまたま次が出番の松田さんと鉢合わせたんです。

おそらく何万人と芸人がいる中で、このタイミングで、ここで松田さんに出会うかという感慨。その時点で、これまでのいろいろなことが込み上げてきたんですけど、そこで松田さんが何とも言えない顔でおっしゃったんです。

「ホントに、来ちゃったな。じゃ、今から笑い取ってくるわ。お前ら、約束通り、スベって来いよ」

素直におめでとうとは言わない。でも、思いがこれ以上ないくらい込められている。今もその言葉をおっしゃった時の松田さんの顔は鮮明に焼き付いています。

そこから幸い僕らがしっかりとウケて、審査員の皆さんが票を入れる場面で、本当に以前言っていたように「東京ダイナマイト」さんとオレらで票が割れて、結果、どちらも上のステージに行けないという形になったんです。

その時、松田さんがまた何とも言えない表情でオレに目配せをしている。その時の顔も、忘れようたって忘れられないものになりました。

言葉にするのがなかなか難しいですけど、あの空間はとても心に響きましたし、今も本当に大切なものだと思っています。

瀧上:僕が強く影響を受けた方で言うと、今回みたいなツアーをやるきっかけになったのが大竹まことさんだったんです。

15年ほど前、大竹さんのラジオに出してもらうようになって「シティボーイズ」さんのライブを観に行かせてもらう機会があったんです。

それまでは、正直「ビートたけしのTVタックル」(テレビ朝日)で見る怖いオジサンというイメージだったんですけど、ライブを観て驚きました。凄まじいまでに面白くて。

しかも、すごく大きな規模で全国ツアーをされていて、いわば全国に何万人と、言葉がアレですけど、オッチャンたちのライブを待ち望んでいる人たちがいる。そこに衝撃を受けまして。

さらに、お客さんのアンケートを見せてもらったら「やっと息子と来られるようになりました」とか親子二代にわたってファンでいる方々もいらっしゃって、ますますすごいことだなと。

やっているネタは「シティボーイズ」さんとはまるで違いますけど、目指すところはマネをさせてもらえればと思うようになったんです。

今、ある苦悩

瀧上:僕らは方向性としては、どん底だったとお話をした11年ごろからちゅうえいのキャラを出して、老若男女皆さんに喜んでもらえるネタを作ろうと考えてきたんです。

それが一番発揮されるのが、いわゆる営業だろうと。幅広い年齢層の方が集まっているところでネタをする。そして、満足していただく。そこでナンバーワンを取ろうと思って、この10年はやってきたんです。

ただ、新型コロナ禍で、営業というものがほぼゼロになりました。力を入れて、そこで頑張ろうと思っていたものがなくなる。また、ここに来て、ダメージもすさまじいというのが現状ではあります。

さらに、今すごく増えているオンラインライブとか有料配信というのは、幅広く楽しんでもらえるという人よりも「ここだけには刺さる」という人の方がチケットが売れるんです。

となると、僕らがやってきた老若男女に笑ってもらうというスタイルが、今はかなり不利にもなっている。これも、否応なく、いろいろ考えます。

ただ、一回死んだところから「これでいく」と決めたものなので、ここから先も、もっとオッサンになっても、今の芸風を貫いていく。そうすると、また見えてくるもの、出てくる味もあるのかなと思ってもいるんです。

ちゅうえい:一回、姓名判断の番組で見てもらった時に、ちゅうえいという名前はアンパンマン、ピカチュウ、ドラえもんと同じ星の元に生まれていると言われたんです。

だから、いつの日か僕らがアニメになるくらいまで、なんとか頑張れたらなと(笑)。これから、芸人として30年、40年、まだまだ長い旅が続くと思いますけど、なんとかこのまま突っ走れたらなと思っています。

(撮影・中西正男)

■流れ星☆(ながれぼし)

1978年7月29日生まれのちゅうえいと12月12日生まれの瀧上伸一郎のコンビ。ともに岐阜県出身。2006年結成。浅井企画所属。12年、日本テレビ「ぐるぐるナインティナイン・おもしろ荘SP」優勝。13年「THE MANZAI」決勝進出。20周年記念ツアー「ベストネタライブ 絆 〜新ネタもやるんやさ〜」を8月1日から開催。日程は、8月1日(福岡・イムズホール)、7日(大阪・クレオ大阪中央)、13日(愛知・日本特殊陶業市民会館ビレッジホール)、14日(静岡・浜松市勤労会館Uホール)、21日(岡山・山陽新聞社本社ビルさん太ホール)、22日(広島・JMSアステールプラザ中ホール)、28日(北海道・共済ホール)、9月25日(東京 山野ホール)。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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