Yahoo!ニュース

世界からオファーが殺到。アーティスト・nanahachika.が重度のうつ病の中、つかみ取ったもの

中西正男芸能記者
今の思いを語るnanahachika.さん

 本格始動からわずか1年半ほどで世界中からオファーが殺到し、今年7月には米・ロサンゼルスに直営ギャラリーをオープンしたアーティストのnanahachika.さん(35)。ヒカルさんのYouTubeチャンネルで紹介されたことでも話題になりましたが、道のりは決して平坦ではありませんでした。夫の事業の経営不振や子育ての心労が重なり2022年に重度のうつ病と診断され「もう限界」という中、絵を描くことで世界を広げてきました。先の見えないトンネルで抱いた思い。そして、その中でつかんだ光とは。

ギリギリの状態

 小学生の頃から絵を描くのは好きでした。自分が考えた漫画を描いて友達に読ませたりもしていましたし、純粋に描くことが楽しかったんです。

 そんな子供だったので、高校から芸術系の学校に通うことになりました。油絵をメインに勉強して、高校卒業後は京都精華大学に進むことになりました。

 芸術系の大学に進むくらいなので、描くことは変わらず好きだったんですけど、それを仕事にするとなると難しい。どんな職に就けば絵で食べていけるのか。その道を見出すことができず、卒業後はアパレル関係の会社に入りました。そこで1年ほど働いた頃に主人と出会って結婚したんです。

 20代で子供も3人授かり、幸い主人がやっていた会社もすごく調子が良くて。瞬く間に成長していって、全14社で年商20億円くらいになっていました。本当にありがたいばかりの流れだったんですけど、新型コロナ禍でガラッと変わってしまいました。

 2020年のうちにほぼ会社が破綻してしまい、主人も気持ち的に追い込まれていきました。ナニな話なんですけど、高いところから飛び降りようとしたこともありましたし、私もそんな姿を見ているうちにうつ病になってしまったんです。

 とにかくつらい。そして、お酒に逃げたんです。常に飲んでいました。主人が外でお酒を飲んで帰ってきても、家に入った途端「酒臭い」と思うくらい、酒浸りの生活でした。

 精神的にもギリギリの状況で、スーパーマーケットに買い物に行っても、後ろからヒモか何かで引っ張られているような感じがいつもしている。足が前に出ないんです。とにかく体が重い。買い物カートを持っていないと立ってもいられない。

 そんな状況で子供も連れているので、自分の気持ちを保つというか、自分を鼓舞することも含め、子供を叱ってしまう。叱っていないと意識が保てない。そんな状況でした。

 当然、その状況を主人も良いとは思っていませんでした。主人は工務店を軸に事業をしていたので、施工主さんの要望で建物に飾る絵の相談をされることもあって。それを私に描いてほしいと打診してくれたんです。

 もちろん私が絵を描いていたことは知っていますし、だからこその打診だったんですけど、久々に絵を描いてみると自分でも驚くほどに気持ちが楽になったんです。何かに打ち込む。その時間は絵のことしか考えない。その間は苦しさから解放されるし、それを繰り返すことで自分が修復されていく。それを感じたんです。

 何かに打ち込むことで救われる。その感覚は確実にありましたし、主人もどんどん仕事を持ってきてくれるので、だんだんお仕事の数も増えていきました。そうなると、間に入ってくださる業者さんにもお世話になる。私の問題だけでなく、皆さんの生活にも関わってくる。「もう描くしかない」となっていったんです(笑)。

 20年からいろいろな歯車が崩れ出し、21年は本当にしんどかった。そこから徐々に描いていき22年ごろからですかね、お仕事として動き始めました。そして、本格的に軌道に乗ったのは23年1月からだと思います。

 そこからヒカルさんのYouTubeチャンネルでも紹介していただき、先月にはロサンゼルスに直営ギャラリーをオープンさせることもできました。

自分だからこそ

 この3~4年で人生が一気に変わりました。これでもかと上がって、これでもかと下がって。ジェットコースターみたいな日々でした。

 変に良い話にしようなんて気はないんですけど、だからこそ描ける絵もある。その絵だから評価していただけたのか。自分では分からない部分もありますし、自分で言うものでもないんですけど(笑)、そういう部分を感じたりもしています。

 今は絵を描くことで自分をうまくコントロールできているのだと思いますし、私が良い流れになっていく中で主人もまた一から踏ん張ってくれて、仕事も少しずつ上向きになってきました。

 私がやっているのがオマージュアートという分野で、有名ブランドのロゴや伝統的な芸術を取り入れて作っていくものなんです。

 なので、日本古来の文化と自分の感性を融合させた絵を描くこともあって、そうなると、自分の作品を海外に出すことイコール日本の文化を世界に発信することにもなる。だからこそ、海外でも勝負がしたい。そう思ってロサンゼルスの拠点を作ることにもなったんです。

 どんなことがあっても次へのプラスに変える。私もどこまでできているか分かりませんけど、幸運なことにそういう道を歩み始められたので、その思いも絵に込める。そして、発信する。これから自分がやっていくべきことはそれなのかなとも思っています。

 …ごめんなさい、真面目にしゃべってばっかりでしたね(笑)。ただ、どれも本当に思っていることばかりなので、一つ一つ実現していけるよう積み重ねていきたいと思います。

(撮影・中西正男)

■nanahachika.(ななはちか)

1989年8月13日生まれ。奈良県出身。京都精華大学卒業。アパレル系の会社を経て、2014年に結婚。3人の子どもに恵まれるも、夫の事業の経営不振や子育てで重度のうつ病を発症する。絵を描くことによって徐々に気持ちが上向きになり、作品が次々と評価されていく。今年7月、ロサンゼルスに直営ギャラリーをオープンさせた。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

中西正男のここだけの話~直接見たこと聞いたことだけ伝えます~

税込330円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

中西正男の最近の記事