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日本対策を練っていたベネズエラとの試合で浮上した森保ジャパンの戦術的な問題点【ベネズエラ戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:西村尚己/アフロスポーツ)

対策を練って臨んできたベネズエラ

 来年1月5日に開幕するアジアカップを控える日本代表にとって、11月の代表ウィークに行なわれる2試合は、本番に向けた準備の総仕上げ的な意味合いを持つ。とりわけ20日のキルギス戦が格下相手の親善試合であることを考えれば、より重要になるのは16日のベネズエラ戦だ。

 果たして、森保一監督が前日会見で宣言したとおり、10月のウルグアイ戦のメンバーをベースにスタメンを組んだ日本は、前半に先制しながら試合終盤に追いつかれ、1-1のドローでベネズエラとの一戦を終えることとなった。

 そして、この大事な試合のディティールを分析するうえで、直前に予想外のトラブルが発生したことに触れないわけにはいかないだろう。それは、スタジアムに向かう両チームのバスが大渋滞に巻き込まれてしまい、予定より大幅に遅れて到着した一件である。

 結局、ベネズエラが約45分前に、日本が約50分前にそれぞれスタジアム入りしたことで予定開始時間には間に合ったものの、両チームの選手が十分なウォーミングアップをできないまま、あわただしくキックオフしたことが、試合内容に少なからず影響を与えたことは否定できない。

 そんな背景で迎えたこの試合は、ある意味で前戦(ウルグアイ戦)とは対照的な内容になった。ゲームそのもののインテンシティは高くなく、攻守の切り替えもウルグアイ戦のそれとは比較にならないほど少なかったため、ゲームスピードもスローに映った。

 もちろんこれらは、遅刻により十分な準備ができなかったことが影響したからだとも言えるが、しかしそれよりも、その原因の多くはベネズエラの戦術にあったと思われる。

 南米の強豪で最新のFIFAランキング6位(試合当時5位)のウルグアイ相手に4-3で競り勝ったばかりの日本にとっては、確かに過去一度もW杯に出場したことがないベネズエラはイメージ的に見劣りするかもしれない。

 とはいえ、かつて南米最弱国と揶揄された時代とは異なり、アンダー世代を中心に近年における彼らの成長ぶりは目を見張るものがある。実際、2016年から指揮を執るラファエル・ドゥダメル監督率いる現在のチームはFIFAランキングでも29位。50位の日本から見れば明らかな格上だ。

 そのチームを率いる指揮官が試合後の会見で「日本はつねに一定のコンディションを保って攻撃するが、我々は何とかそれを無効にしようとし、1列目の選手にロングボールを入れることで日本がやりづらいプレーを強いることを目指した」と語ったとおり、この日のベネズエラは実に綿密な日本対策を以って試合に臨んでいた。

 そこが、日本対策をしていなかったウルグアイとの試合と大きく違う点であり、日本がベネズエラに苦戦した要因のひとつでもあった。

 デュエルと攻守の切り替えが繰り返されたスピーディな展開だったのがウルグアイ戦だとすれば、このベネズエラ戦は両チームがセットした状態でお互いに見合う局面が多く、より戦術的な試合だったと言える。

GKを含むビルドアップでプレスを回避

 ドゥダメル監督が用意した日本対策とは、まず会見でも触れていた「ロングボールを入れる」ことで日本のディフェンスラインを下げさせ、全体を間延びさせることがひとつ。

 そして、それ以上に重要なポイントになっていたのが、森保ジャパンの攻撃の起点、とくにダブルボランチからの縦パス供給を封じることだった。

 これまで4-4-2もしくは4-2-3-1を基本システムにしていたベネズエラが、敢えてこの試合で4-3-3を採用したその狙いは、キックオフ直後から見て取れた。

 日本が最終ラインからのビルドアップを図る際、ベネズエラは両インサイドハーフのフニオル・モレノとジャンヘル・エレラが猛然と前に出て、それぞれ遠藤航(シント・トロイデン)と柴崎岳(ヘタフェ)に素早く寄せる。しかも全体が4-1-4-1のかたちでプレスをかけてくるため、日本にとっては前方に効果的なパス供給をできない状況が続いた。

 そんななかで日本が頻繁に見せたのが、GKシュミット・ダニエル(ベガルタ仙台)を使ったビルドアップでプレスを回避するという方法だった。

 森保監督がこのような状況を予測して足元の技術に優れるシュミット・ダニエルをスタメンGKに抜擢したのかどうかは定かではないが、少なくとも試合後に「相手に守備を固められてうまく前線にボールを運ぶことができない時に、キーパーを含めたディフェンスラインでボールを動かしながら、ボランチを使って縦パスを入れるという部分は選手たちが何度か見せてくれた」とコメントしていたことを考えると、そのための準備をしていたことだけは間違いなさそうだ。

 実際にそれが奏功し、立ち上がり3分のシーンでも、ボランチの位置まで下がってGKからパスをもらった堂安律(フローニンゲン)が相手のマークをかいくぐって反転し、大迫勇也(ブレーメン)と柴崎を経由して右サイドを突破。その後、カットインしてから中島翔哉(ポルティモネンセ)のシュートにまで漕ぎ着けることに成功している。

 とはいえ、日本がGKへのバックパスで相手のプレスを回避したシーンが前半だけで15回を数えたという点については、さすがに多すぎると言わざるを得ない(後半も含めると23回)。

 GKからのビルドアップ時にミスが起こり、それがそのまま失点につながるケースは世界のトップレベルの試合でもよく見かけるからだ。

 それを考えると、GKを使うビルドアップは最終手段にとどめ、ボランチのどちらかが機を見てセンターバックの間に落ちる方法も含めて、違ったプレス回避策もしっかり磨いておく必要があるだろう。

 いずれにしても、中島のオープニングシュートできっかけをつかんだ日本は、右サイドで酒井宏樹(マルセイユ)、大迫、堂安、南野拓実(ザルツブルク)の4人が相手のボールホルダーを囲んでボールの即時回収を成功させた4分のシーンなど、10月の2試合で見せていたような展開に持ち込めるかに見えた。

ボランチからの縦パスがバロメーター

 ところが直後の前半6分、不用意に高い位置をとっていた左サイドバックの佐々木翔(サンフレッチェ広島)の背後に空いたスペースに走った右ウイングのジョン・ムリジョに、アンカーのトマス・リンコンから抜群のロングパスが通った後、最後は右サイドバックのロベルト・ロサレスがクロスを入れたシーンから流れは明らかにベネズエラに傾いた。

 以降、ラインを上げることに慎重になった日本に対してベネズエラのプレスが本格的にハマるようになると、11分にはこの試合最初の決定機がベネズエラに訪れる。

 結局、この場面ではサロモン・ロンドン(ニューカッスル)のシュートをライン手前ぎりぎりのところで冨安健洋(シント・トロイデン)がスライディングでクリアして事なきを得たが、前半30分あたりまでは攻守両面でベネズエラが優勢となり、その間、日本に訪れた唯一のチャンスは26分に堂安がシュートを外した決定的シーンのみだった。

 この時間帯でとくに目立っていたのが、日本のダブルボランチからの縦パスが完全に封じ込まれていたことだった。

 たとえば、その時間帯で柴崎が試みた縦パスは3本あったが、そのうち2本がインターセプトされてピンチを招いている。一方の遠藤は0本で、あれだけ効果的な縦パスを供給していたウルグアイ戦と比べると雲泥の差と言っていい。

 過去3試合を見ても、ボランチからの縦パスが森保ジャパンのバロメーターであることを考えると、日本がこの時間帯でいかに苦しんでいたのかがよくわかる。

 逆に、吉田麻也(サウサンプトン)のフィードから南野がディフェンスラインの裏に抜け出た30分のチャンスを契機に、日本はリズムを取り戻した。それまで影を潜めていた遠藤の縦パスも、2分間で3度も大迫に入れることに成功し、そのうち2度は南野のヘディングシュート(32分)、そして中島が大迫からのスルーパスを受けてGKと1対1の場面を迎えたシーン(34分)と、シュートチャンスにつながった攻撃の起点となっていた。

 39分にセットプレーから生まれた酒井の代表初ゴールは、そんな日本ペースの中で生まれた必然の先制点だったと言っていいだろう。

両SBが高い位置をとれない時の問題点

 1-0で迎えた後半も、基本的には試合の構図は前半を踏襲するものだった。親善試合ではよくあることだが、選手交代が行われる度にお互いの戦術が乱れ始め、最後はやや大味で見所が少なくなってしまったことは否めない。

 最終的には、81分に酒井がPKを与えてベネズエラが同点に追いつくこととなったわけだが、両チームの出来からすれば1-1は妥当な結果だったと言えるだろう。

 ただ、そんななかで気になったのは、この試合では日本が攻撃時に3バックに可変するシーンがほとんど見られなかったことだ。

 前半途中に一度3‐4-2-1の形になったシーンもあったので、おそらくその意識はあったと思われるが、その場面も相手の圧力に屈してボールを下げてしまったことで、あっさりと4バックに戻している。

 10月の2試合では、マイボール時にボランチがセンターバックの間に落ちて3-4-2-1に可変するパターンと(パナマ戦)、右サイドバックの酒井が上がって、最終ライン全体が右にスライドして可変するパターンで(ウルグアイ戦)、攻撃にバリエーションを増すことができていたが、結局、この試合ではベネズエラの守備にそれを封じられる格好となってしまったことになる。

 もちろん、相手の出方を見て選手たちが臨機応変にベターな判断をしたとも言えるが、しかしその一方で、とくにこの試合では堂安と中島の両ウイングが中間ポジションをとることが多かったため、日本の攻撃が中央に偏りすぎるというよくない現象が起きてしまったことは、課題として挙げておくべきだろう。

 基本システムは4-2-3-1であるにもかかわらず、攻撃時には4-2-2-2になってしまうため、どうしてもサイドで劣勢を強いられやすくなるうえ、サイド攻撃も機能しなくなってしまうからだ。

 ちなみにこの試合における日本のクロスは、右サイドの酒井は前後半に1本ずつの計2本。左の佐々木は、前半16分の1本のみだった。

 堂安と中島はともに利き足とは逆のサイドでプレーするため、縦に突破してクロスを入れるプレーがほとんど期待できないことを考えると、サイドバックのクロスが唯一のサイド攻撃の武器となってしまうことは火を見るより明らかだ。そのサイドバックからのクロスがほとんどなければ、相手にとってはこれほど守りやすいことはない。

大迫ありきの現状ではプランBが必要

 また、攻撃が大迫のポストプレー頼みになっていることも見落とせない課題だと言える。確かに大迫のポジショニングとボールを収める能力は秀でているため、そこを生かすのはチームとして当然ではある。

 しかし大迫を経由しないとチャンスを作れないとなると、相手にとっては対策を立てやすいサッカーになってしまう。

 さらに言えば、大迫が欠場する場合、誰が縦パスのターゲットとなるのかという問題も浮上する。9月のコスタリカ戦では青山敏弘(サンフレッチェ広島)が頻繁に縦パスを入れたものの、そこからフィニッシュにつなげられたシーンは数えるほどしかなかったことを考えると、FWの駒不足という問題が一気に露呈する可能性は高い。

 現状で言えば、おそらく大迫がいなければ可変式の3-4-2-1も実現不可能と見るのが妥当で、そこを含めて、本来ならばアジアカップ本番前に”プランB”を構築しておく必要があったと思われる。

 森保監督のコメントからすると、20日のキルギス戦はベネズエラ戦の控えメンバーをベースに戦う可能性は高い。しかし、ベネズエラ戦で見えた多くの課題の修正を考えた場合、レギュラーメンバーで”プランB”をテストする必要もあるのではないだろうか。

 いずれにしても、アジアカップまで残り1試合。しかも相手は格下のキルギスであるため、アジアカップ用の戦い方を実戦でテストする絶好の機会となるはずだ。

(集英社 Web Sportiva 11月19日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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