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森保ジャパンが新たにテストした3-4-2-1への可変システムの全貌【ウルグアイ戦分析】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:松尾/アフロスポーツ)

日本対ウルグアイが打ち合いとなった背景

 森保ジャパンの3試合目となった10月16日のウルグアイ戦は、キックオフから試合終了まで、ゲームスピードも速く、インテンシティの高い試合だった。

 しかも、日本が見せたパフォーマンスは予想以上のもので、とりわけウルグアイに4ゴールを決めた攻撃陣の躍動ぶりは称賛に価した。森保一監督にとっても選手にとっても大きな自信につながるはずであり、何よりプレーしている選手たちが楽しそうに見えたのが印象的だった。

 では、苦戦が予想されたウルグアイ戦で、森保ジャパンがこのような試合内容に持ち込むことができた要因はどこにあったのか? その中身を紐解く前に、この試合を迎えるにあたって、両チームにどのようなバックグラウンドがあったのかを整理する。

 まずロシアW杯の準々決勝で優勝国フランスに敗れたウルグアイは、引き続き名将オスカル・タバレスが指揮を執り、この日本戦はW杯後の3試合目にあたる。指揮官が「我々は時間をかけて、年内の残りの日程を使いながら新たな可能性を模索する段階」と語っているように、当面の目標である来年のコパ・アメリカに向け、W杯組に伸び盛りの若手を加えながら、チーム作りを行なっている。

 採用システムも、W杯時の4-3-1-2からメキシコ戦(9月7日)の4-1-4-1、韓国戦(10月12日)の4-4-2と、複数のシステムを使い分けて強化を行なっており、堅守速攻が伝統ではあるものの、ルーカス・トレイラ(アーセナル)やロドリゴ・ベンタンクール(ユベントス)らに象徴されるクリエイティブな若手が台頭していることもあって、やや攻撃的なサッカーにシフトチェンジしている印象もある。

 そんななかで迎えたこの試合では、当初メンバー表のスタメン欄に記載されていたマティアス・ベシーノ(インテル)が負傷したため、急きょガストン・ペレイロ(PSV)が先発して4-4-2(4-4-1-1)を採用。エディンソン・カバーニ(パリ・サンジェルマン)ら主力は引き続きスタメンに名を連ね、韓国戦からはベシーノを含めた3人を入れ替えるのみで試合に臨んだ。

 対するホームの日本は、予定どおりパナマ戦からGKを含めた9人を変更。その試合で66分間出場した大迫勇也(ブレーメン)と南野拓実(ザルツブルク)だけが2試合連続でスタメンを飾り、全体的にフレッシュな状態でウルグアイ戦を迎えることができた。

 よって、球際で激しい攻防が繰り広げられたこの試合においては、両チームのコンディション差も影響したことを考慮して見る必要があるだろう。とくに後半は、ウルグアイは親善試合の定石どおりメンバーを次々と入れ替え、6枠を使い切っている。その過程で発生するチーム戦術の乱れも、試合内容に影響したことは否めない。

日本選手の力を見誤ったウルグアイ守備陣

 試合の方は、開始から球際に激しくきて日本に”脅し”をかけてきたウルグアイに対し、万全の準備を整えていた日本がそれに屈することなく、1対1でも互角にやり合った。日本がスピードとコンビネーションを使ってそれをかわしたことも、この試合の最初の分かれ道になったと言えるだろう。そこは、ウルグアイ側の誤算となった。

 しかもウルグアイは、W杯とは異なる指揮官と過去2試合とも異なるメンバーで編成された新しい日本を研究する術もなく、度々守備面での甘さが垣間見られた。それを象徴していたのが、前半10分の日本の先制ゴールのシーンだ。

 この場面で、吉田麻也(サウサンプトン)のフィードを左サイドで受けた中島翔哉(ポルティモネンセ)はワンタッチでマーカーのペレイロを外し、その瞬間に斜めに走った南野に強いくさびを入れているが、ペレイロの軽い対応と、パスコースを空けてしまったトレイラの緩慢さからは、あのレベルのパスが入ってくるとは予想していなかったように見えた。

 また、南野に対応したディエゴ・ゴディン(アトレティコ・マドリード)も慎重さが欠けていた。南野のターンとその後のシュートまでの流れは称賛すべきだが、これもまた、南野を侮っていたゴディンの対応の甘さが露呈したシーンだった。

 いずれにしても、思わぬ先制点を許したことで”負けん気”に火がつくと、ウルグアイはよりアグレッシブな姿勢を見せた。そのため、以降はほとんどお互いがセットした状態でにらみ合うような時間帯はなく、トランジッション(攻守の切り替え)の多い試合展開が続くことになった。

「我々が望んだ展開ではなかった」と試合後のタバレス監督が語ったように、計7ゴールが生まれるというやや大味な試合となってしまった理由は、それらの要素が大きく影響したと言えるだろう。

 そんななか、注目された日本の攻撃面では、前回パナマ戦のような両ウイングのポジショニングはほとんど見られなかった。出入りの激しい互角の試合展開だったので当然ではあるが、その一方で、対格上チーム(対ウルグアイ)を意識したのか、過去2試合にはなかった”工夫”も見受けられた。

マイボール時に見えた可変式3-4-2-1

 この試合の日本のシステムは、パナマ戦と同じ4-2-3-1。4バックの相手がボールを保持する時に、南野と大迫が並列になって4-4-2の陣形をとることも変わっていない。ただし、頻繁ではないものの、マイボール時には特徴的な陣形になることがあった。

 右サイドバックの酒井宏樹(マルセイユ)がライン際で高い位置をとり、残る最終ライン3人が右にスライドし、3バックを形成する。右ウイングの堂安律(フローニンゲン)は相手のセンターバックとサイドバックの中間ポジションをとり、大迫が最前線中央に、南野が左サイドにスライド。中島は左サイドに張ったまま、やや後方に構えた。

 つまりその時の森保ジャパンの陣形は、3-4-2-1。パナマ戦ではボランチ1枚(主に青山敏弘/サンフレッチェ広島)がセンターバックの間に落ちて3バックを形成したうえで、両サイドバックが高いポジションをとり、さらに両ウイングがそれぞれ中間ポジションをとることで陣形を3-4-2-1に可変させたが、このウルグアイ戦では左サイドバックの長友佑都(ガラタサライ)がそのために高いポジションをとることはなく、あくまでも右サイドバックの酒井の位置取りによって、つるべ式の可変システムを形成していた。

 前半33分、それが効果を発揮した象徴的なシーンがあった。右センターバックの三浦弦太(ガンバ大阪)のフィードを右サイド高い位置で張っていた酒井が受けると、左斜め前方にパス。そのパスコースには中間ポジションをとっていた堂安と、その背後に大迫が構えていた。それをわかっていた堂安は酒井からのパスをスルーし、相手DF陣が堂安につられたことで、パスを受けた大迫は容易にシュートに持ち込むことができた。

 残念ながらそのシュートはバーの上を大きく越えてしまったが、それは3-4-2-1的な攻撃パターンのひとつだった。

 逆に、可変システムにしたことでピンチに陥ったシーンもあった。それが、後半キックオフ直後の流れから生まれたウルグアイのシュートシーンだ。

 後半キックオフから3-4-2-1を形成した日本は、長友が前線に入れたフィードが相手に渡った後、酒井の背後にあるスペースを使われ、ペレイロのヘディングシュートにつながる左サイドからの突破を許した。幸いGK東口順昭(ガンバ大阪)のファインセーブでコーナーキックに逃れたが、3バック時に最も警戒しなければいけないサイド攻撃を受けた格好だ。

 このシーンに限らず、この日の日本がさらされた危険なシーンは、3失点目も含めてそのほとんどが右サイド、つまり相手にとっての左サイドからの攻撃によるものだった。逆に、日本の左サイドは中島が戻らないことで危ない場面もあったが、そこは長友の守備範囲の広さによってカバーできていた。

 もうひとつ気になったのは、この試合でもピッチの横幅を活用したサイド攻撃があまり見られなかった点だ。左サイドの長友がオーバーラップから4本のクロスを上げた一方で、実は右サイドの酒井が深い位置からクロスを入れたシーンは多くなく、前半は0本で、後半も2本のみ。

 左サイドは中島と長友の2人によって日本が優位に立つことができていたが、堂安が中間ポジションをとった時の酒井は右サイドをひとりで担当することになるため、ディエゴ・ラクサール(ミラン)とマルセロ・サラッチ(ライプツィヒ)の縦コンビと対峙したサイドの攻防では、守備で後手を踏んだ点も含め、劣勢だったことが浮き彫りになってしまった。

 それを考えると、三浦のフィードの本数が吉田より多かったことも含め、右サイドを反時計回りにスライドさせるつるべ式の3-4-2-1の課題が露呈したこの試合は、今後の修正のためには良いサンプルになったと言える。

ボールの即時回収を柱とする守備戦術

 一方、トランジッションが多かったこの試合では、森保ジャパンの守備戦術の特徴もよく現れていた。

 お互いの距離を短くとりつつ、ボールを奪われたらその瞬間に近くにいる選手がすばやくボールホルダーにプレッシャーをかけ、次の選手もルーズボールを狙って寄せていくスタイルだ。奪われたらすぐに奪い返す。これが守備コンセプトの柱となっている。

 たとえば後半66分に南野が日本の4点目を決めたシーンも、堂安のクロスをGKがキャッチした後、ウルグアイが低い位置からビルドアップを始めようとしたところを近くにいた柴崎岳(ヘタフェ)がボールホルダーのトレイラにアタックし、ボールを奪い返したところから始まっている。

 また、お互いの距離を短くとり続けるためにはチーム全体がコンパクトさを保つことが必要になるが、それができていれば相手ボール時にボールホルダーを囲みやすくもなる。前半22分、ボールを受けたラクサールに対して、外から堂安、背後から南野、後方から遠藤航(シント・トロイデン)の3人で囲み、一気に南野がボールを回収したシーンはその典型例だ。

 もちろん、これらを実行するためには各選手のハードワークと的確な判断力が必要になる。もし最初のプレスをかわされてしまえば、フィールドのあちらこちらにスペースが生まれた状態で相手の速い攻撃を受け止めなければならないからだ。ボールを奪う位置はおおよそハーフライン付近に設定されているものの、ショートカウンターを受けるリスクを常に背負ったタフな守備方法であることは間違いない。

 この試合で、日本が失点以外の場面で危険なシーンを作られたのは、前半25分、後半75分と、主に2度あった。いずれも中盤でボールを奪われた後のショートカウンターだ。どちらも失点を許すことなく、何とかしのいだという点で言えば、最終ラインのカウンター対策も及第点だったという評価もできるかもしれない。

 しかしその一方で、ロシアW杯の時のウルグアイのように研ぎ澄まされたチーム状態であれば、失点していた可能性は十分にあると見るべきだろう。

 ともあれ、試合後のインタビューで森保監督が「アジアカップはまた別の戦い方になる」と語ったように、このウルグアイ戦のような戦い方はしばらく棚上げすることになりそうだ。アジアには、対日本戦でアグレッシブに攻撃をしかけてくるチームは限られているため、今後はパナマ戦のような戦い方を切磋琢磨する必要があるからだ。

 おそらく、11月のベネズエラ戦はベストメンバーによってアジアカップ用の戦い方を最終チェックすることになるだろう。また、キルギス戦ではオプションとしての3-4-2-1を試す可能性も残されている。

 いずれにしても、アジアカップ前の残り2試合でどんな修正を見せるのか。11月の2連戦で、森保ジャパンのはっきりとした骨格が浮かび上がってくるはずだ。

(集英社 Web Sportiva 10月20日掲載)

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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