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1635人のチャンピオンシップ――Jリーグポストシーズン(2)

川端康生フリーライター

JFLは“旧チャンピオンシップ”

浦和でJ1チャンピオンシップの準決勝を見た後、大宮から東北新幹線に乗って北へ。八戸まで来た。

この5年、理由をつけては東北に来ている。それでも、まさかこの季節に青森県でサッカーを見るとは思わなかった。

ヴァンラーレ八戸対ソニー仙台FC。JFLのチャンピオンシップが行なわれるのだ。

かつて「アマチュア最高峰リーグ」と称したJFLだが、近年は「Jリーグを目指すチーム」と「企業内にとどまるチーム」が混在するリーグして存在してきた。

加えて昨年J3が併設されたことに伴い、“顔ぶれ”だけでなく、リーグ方式も大きく変更。「2ステージ制」を採用し、「チャンピオンシップ」で年間優勝を決めるレギュレーションへと改められた。

ただし、「チャンピオンシップ」と言っても、「J1で今季から始まったチャンピインシップ」とは違い、各ステージの優勝チームが対戦するシンプルな方式。

今季で言えば、第1ステージ優勝がヴァンラーレ八戸、第2ステージ優勝がソニー仙台FC。その両者が、チャンピオンシップで年間優勝を争うというわけである。

ここまではシンプルで、わかりやすい。Jリーグ草創期に行なわれていたのと同じである。

いくらなんでも……

とはいえ、かつてのやり方のチャンピオンシップと同じだから、シンプルでわかりやすい、とは言い切れない事態がJFLにも生じつつある。

「Jリーグ」だけしか存在しなかった草創期と違い、J1、J2、J3とリーグが新設されていくつれ、それぞれのリーグはそれぞれのリーグ内で完結するのではなく、上や下のリーグとの「昇・降格」を決する場にもなったからである。

当然、いまやJFLも「J3への昇格争い」という面を色濃く持つようになった。

そんな時代にあって、「2ステージ」+「チャンピオンシップ」方式は、それ自体がどんなにシンプルでわかりやすいものだったとしても、結果的に複雑さと難解さを生むことになる。

たとえば昨季、JFLからJ3へ昇格したレノファ山口は、第1ステージ=6位、第2ステージ=2位。当然、チャンピオンシップにも進出していない。

それでもJ3に昇格できたのは「年間順位4位以内」という要件をクリアしたからだ。

つまりJFLにおいても、J1と同じように、「第1ステージ」、「第2ステージ」、「年間順位」と3つの順位表を並べなければならない状態になっているのだ。

しかも、話はさらに複雑で、「チャンピオンシップに進出したチームが年間順位1・2位になる(当然、勝った方が1位)」ということになっているから、「年間順位」と「年間勝ち点」が同じとも限らないのである。

昨季で言えば、第1ステージ優勝のHonda FCがチャンピオンシップでも勝利して年間優勝(年間順位=1位)となったが、実は「年間勝ち点」では3位だった。

ステージ優勝を飾り、チャンピオンシップに進出した時点で「1位か2位」へ上がり、チャンピオンシップでも勝ったことで「1位」へとジャンプアップしたというわけである。

これは言い換えれば、「年間勝ち点」では4位以内のチームが、「年間順位」では4位以下に落ちる可能性もある、ということだ。その場合、「年間順位4位以内」の昇格要件をクリアしたことになるのか?

仮に「年間勝ち点4位以内」ならOKというのであれば、「第1ステージ」、「第2ステージ」、「年間順位」に加えて、「年間勝ち点」の順位表も、JFLは並べなければならないことになる。

1つのリーグで4つの順位表は、いくらなんでも多過ぎなのではないか。

ついでに指摘しておけば、J3への昇格を決めるJFLはいま述べたような方式で、J2へ昇格するためのJ3は「通年」+「自動入替&入替戦」で、J1に上がるためのJ2は「通年」+「6位までの昇格プレーオフ」で、J1からJ2へは「2ステージ」だけど「年間勝ち点」で「自動降格」と、それぞれの昇・降格方式がバラバラなのも、いくらなんでも……。

とにかく―ーそんなJ1を頂点にしたピラミッドで言えば、J2、J3の下(とも言い切れないのだが、それはまた後で述べる)に位置するJFLのチャンピオンシップを見るために八戸までやってきたのだ。

よりによって、12月を目前にしたこの時期に、

温かかったり、寒かったり

寒い。

手元の温度計を見たら3℃だった。しかも、メインに小さなスタンドがあるだけで、残りはぐるっと芝生の斜面が広がるだけの競技場。遮るものは何もなく、時折吹きつける風が体感気温を確実に下げていく。

ピッチではソニー仙台が優勢に試合を進めていた。

ロングボールを有効に使い、フィジカルの強さを生かして敵陣へ。今季、年間通してわずか1敗しか喫していない強さが伺える戦いぶりだった。

ちなみに、ここ数シーズン、毎年のように順位も上げている(そういえば昨年は天皇杯で鹿島アントラーズも撃破した)。上り調子のチームである。

一方、ホームのヴァンラーレ八戸は守備が持ち味。

リーグ最少失点のディフェンス力で、リーグ加入2年目で昨季の9位から一気にステージ優勝まで登り詰めた。

目についたのはボランチの菅井(慎)。相手へのアプローチが的確で、ボールの奪取能力も高い。その上、スキルがあって、攻撃の組み立てもできる。

そんな菅井の小気味いいプレーがチームのクオリティを高めているように見えた。

試合が行なわれたのは、八戸駅から北へバスで30分弱の五戸ひばり野公園陸上競技場。

八戸駅そのものが市街地から数キロ郊外にあるのだが(新幹線が通るまで在来線の尻内駅だった)、そこからさらに山間の坂道を登って辿り着いた。

競技場までの観戦者用バスには、両チームのファンだけでなく、選手の家族も乗っていて、「今日、パパ出る? 勝つ?」と母親に尋ねる女の子の声が無邪気に響いていた。

父親のことだけでなく、チームメイトのことまで次から次へとしゃべり続けてくれたので(きっと家族ぐるみの付き合いがあるのだろう)、門外漢の僕にとっては貴重なチーム情報の収集にもなったし、何よりほほえましかった。

おかげで、ほのぼのと温かい気分でバスを降りたのだが、メインスタンドの最上段(といっても下から数えて5段くらい)に腰を落ち着け、時間が経過するにつれ……。

ペンを握る手がかじかんで言うことを聞かない。すくめていた肩が痛くなってきた頃には膝がガクガクと震え始めた。

そんな僕とは違って、ゴール裏(といっても芝生斜面)のサポーターたちは元気だった。

人数は多くない。せいぜい数十人ほど。でも旗を翻し、歌を歌い、劣勢のホームチームを応援していた。

何と言っても、ヴァンラーレ八戸はJリーグ入りを目指しているチームなのだ。

せんべい汁と高いハードル

ハーフタイム。

地元商工会が無料提供してくれた「せんべい汁」のおかげで、ようやく膝の震えが収まった。

暖房の効いた居酒屋で食べるときには“味”に関心が向くが、こうして極寒のサッカー場!ですするとその“底力”を実感する。ありがたいほど暖まった。

ありがたみだけではなく、存在意義まで感じる。それぞれの土地はそれぞれの風土とともにあり、だからこそ食も文化もそれぞれに応じて生まれ、育ち、残る。

「ホームタウン」を胃袋の温もりで感じる瞬間だった。

そういえば八戸市内にもレギュラーシーズンで使用しているスタジアムがあるヴァンラーレが、チャンピオンシップをこの競技場で開催したのは「ここ(五戸町)の方がゲン(勝率)がいいから」らしい。

隣り合わせたサポーターが教えてくれた。

印象的だったのは、「Jリーグを目指している」だけあって「昇格」についても詳しい彼が「ハードルは高い」と口にしたことだった。

別に「熱く」語ったわけではない、念のため。普通の口調で話をしたのだ。何でもカンでも、熱かったり、盛り上がったりしないと気が済まないのは、最近の日本人の悪い癖だと僕は思う。

それはともかく、「ハードルの高さ」について。

今季、第1ステージ優勝し、年間順位1位か2位を決めたヴァンラーレ八戸だが、J3への昇格は認められなかった(ステージ優勝し、チャンピオンシップに駒を進めた時点で1位か2位になるのは前述の通り)。

ちなみに年間勝ち点でも4位。昨季のレノファ山口と同じである。

昇格を認められなかった理由は、ごくシンプルに言えば「スタジアム」。

J3に参入するには「5000人以上収容」のスタジアムがなければならないのだが、現在の競技場は(2つとも)これを充たしていないのである。

いわゆる「クラブライセンス」という制度が「ハードル」となったのである(ライセンスを得るには「スタジアム」だけでなく、「事業収入」とか色んな条件をクリアしなければならず……と説明すればするほど、かえって興味を失わせてしまいそうなのでやめておく。興味を失わない人は自分で調べてみてください)。

370万人対23万人、919人対2000人

それでも八戸市は現在、新スタジアムを建設中で、こちらは「5000人以上」をクリアしている。完成予定は2016年秋。

つまり、今季は間に合わなかったが、来年には(チームの成績次第で)J3への昇格がかなう……かといえば、実はそうとも言い切れない状況にある

というのも、J3に参加するには他にもクリアしなければならない要件があるからだ。

たとえば観客数。「1試合平均2000人以上」が目安とされている。

ちなみに今季のヴァンラーレ八戸の観客数は1000人に届くかどうかといったところ。これを倍増しなければJ3に上がれないのだ。

ヴァンラーレ八戸にとって相当高いハードルと言わざるを得ない。

ただし、ここで指摘しておきたいのは、現在のJ3でこの「2000人以上」を達成しているクラブが、実は12チームのうち「5チームだけ」という事実だ(長野、山口、町田、相模原、富山)。

残りの7チームは、この「2000人以上」をクリアできていないのである、現実に。

要するに「参入条件」の方が「現実」より厳しく設定されているのだ。これでは事情を知らない人には“既得権”にも見える。

もっと言えば(これはあまり大きな声では言いたくないのだが)今季のJ3では平均観客数が「919人」のチームさえあった。YSCC横浜である。

この数字が「Jリーグ」の外に伝わると、さすがにマズイんじゃないかと心配になる数字である。

もしかすると、横浜F・マリノスも、横浜FCもあるから……と言う人もいるかもしれない。

でも、そんな“したり顔の分析”は、「370万人」の前に一蹴される。いかに3クラブがあると言っても、横浜市は370万人もの人口を抱えているのだ。にもかかわらず、この数字なのである。

ちなみに八戸市の人口は「23万人」だ。370万人の横浜で919人しか集められないリーグに参入するために、23万人の八戸で2000人を集めなければならないなんて……。

“不条理”なんて強い言葉を使いたくなるほどの矛盾が、そこにはある。

そして、これはヴァンラーレ八戸だけの問題ではない。

今後「Jリーグ」入り(つまりJ3入り)を目指すクラブの多くは、地方の中小都市をホームタウンとしているからだ。

八戸からJリーグへ

せんべい汁とサポーターにほだされたわけではないが、後半はヴァンラーレ八戸を内心で応援しながらの観戦になった。やっぱりホームでいいニュースを発信させてあげたかったからだ。

しかし、ソニー仙台の攻勢は強まるばかりだった。ロングボールだけでなく、くさびのパスから前線の選手がドリブルを仕掛け、ゴールに迫っていく。

特に今季入団のルーキー、有間はスペースに顔を出すタイミングがよく、いい形でボールを奪ってチャンスを作った。ドリブルも力強いし、強引にシュートを放つ姿勢もFWらしくて見応えがあった。

とにかくソニー仙台の優位は動きようもないように見えた。

そんな中、先制点が生まれる。69分だった。

右タッチライン沿いからのクロスを、ファーポストに詰めていた選手が左足で合わせて決めたのだ。

しかも、得点したのは優勢だったソニー仙台FCではなく、圧倒的に劣勢だったヴァンラーレ八戸だった。交代出場した中筋が値千金のゴールを決めたのだった。

そして、これがこの試合唯一のゴールとなった。

もちろん残り20分、ヴァンラーレ八戸はソニー仙台の波状攻撃を受け続けた。

それでも防ぎ続けた。

それはまさに「防ぎ続けた」という状態で、決してスマートな逃げ切りではなかったけれど、それでもタイムアップの笛まで持ちこたえたあたりが、レギュラーシーズンで接戦をものにしながら勝ち抜いてきたチームの真骨頂なのだろう。

*       *

帰りも、往路と同じように八戸駅までバスで戻った。車内の顔ぶれが、行きとほぼ同じことに何だか心が和む。

試合の記録に目を通していて、ヴァンラーレ八戸の後半のシュートが、得点となった1本だけだったことに改めて驚く。あのサポーターが教えてくれた通り、「ゲンのいい競技場」だったようだ。

観客数は1635人だった。チャンピオンシップでさえ、これがやっとだ。「2000人」のハードルは見上げるほどに高い。

ただし、参入条件ほど競技レベルも高いかといえば、どうもそうではなさそうだ。

早い話、昨季JFLで年間順位4位(年間勝ち点も4位)のレノファ山口が、昇格するやいきなりJ3で優勝した。そして来季はJ2である。

JFLを「J3の下」と単純に位置付けにくい結果がそこにはある。

少なくとも「J2の下の方」から「J3」、「JFL」あたりは“強い順”に並んでいるとは言い切れない気がする(大学にだって強いチームはある)。

だからと言って、Jリーグのピラミッドが眉唾だ、とまでは言わないけれど。

八戸駅に着いてコンコースに上がったら、そこに緑色の大きな横断幕が貼ってあった。

GO TO J! 八戸からJリーグへ

がんばれ! ヴァンラーレ八戸

夕方のローカルニュースで、今日の勝利はどんなふうに伝えられるのだろう。明日の地元紙のスポーツ欄にはどんな見出しが躍るのだろう。

来年の開幕戦、観客は2000人を超えるだろうか。(つづく

フリーライター

1965年生まれ。早稲田大学中退後、『週刊宝石』にて経済を中心に社会、芸能、スポーツなどを取材。1990年以後はスポーツ誌を中心に一般誌、ビジネス誌などで執筆。著書に『冒険者たち』(学研)、『星屑たち』(双葉社)、『日韓ワールドカップの覚書』(講談社)、『東京マラソンの舞台裏』(枻出版)など。

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