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バルサの逆転優勝はあるか?メッシとモリバの抱擁に見える啓示

小宮良之スポーツライター・小説家
モリバと抱き合うメッシ(写真:ロイター/アフロ)

王者のサッカーではなかった

 2020-21シーズン、FCバルセロナ(以下バルサ)はリーガエスパニョーラを制することができるだろうか?

 残り2試合、バルサは暫定で3位につけている。首位のアトレティコ・マドリードとの勝ち点差は4で、数字上は逆転可能だろう。2位のレアル・マドリードを含め、どこも戦いは安定していない。

 しかし、バルサは優勝に値する戦いをしたか。

 残念ながら、ノーと答えざるを得ない。少なくとも、優勝にふさわしいシーズンではなかった。波が激しかったのは彼らだけではないが、アトレティコ、マドリードとの4試合、一つも勝ち切れなかったのだ(1分け3敗)。

 つまり、王者のサッカーではなかった――。

解決できなかった守備の問題

 バルサの本質的な問題は、ディフェンスにあった。

 新たに就任したロナウド・クーマン監督は守備再建に向け、4-2-3-1や3-1-4-2などシステムを次々に導入し、解決を目指した。しかし、失点数は一向に減らなかった。得点数はリーグ最多も、失点数の低さは5位。いくら得点をとっても、守備が持ちこたえられない。直近のレバンテ戦のように(3-3)格下に勝ち点を取りこぼすだけでなく、上位決戦でも一敗地にまみれた。

 クーマンは開幕前に獲得したセルジーニョ・デストをサイドバック、ウィングハーフで重用したが、守備再建を考えた場合、矛盾した選手と言えるだろう。

 レバンテ戦も、デストは簡単に決定的なクロスを上げられていた。簡単に裏を取られるし、1対1で弱すぎる。さらに厳しいことを言えば、攻撃も個人の突破には優れるが、連係は乏しく、波のような攻撃を生み出せない。

 率直に言って、大金を叩いて獲得する選手ではなかった。

 バルサは、ダニエウ・アウベスの幻影を追っている。ここ数シーズン、ドウグラス、アレイチュ・ビダル、ネウソン・セメドを獲得してきた。しかし、誰一人フィットしていない。

 デストの存在は象徴的だろう。

 窮状を解決する答え。

 それは外から連れてくるのではなく、下部組織ラ・マシアにあるのだ。

バルサはラ・マシアである

 デストは攻撃ではセルジ・ロベルトに敵わないし、守備ではオスカル・ミンゲサのような仕事もできない選手だ。

 セルジ・ロベルトはラ・マシア育ちのMFで、ユーティリティーな能力を持っている。戦術的な適応力が高い。バルサのMFはサイドバックも兼務できることで知られ、古くはアルベルト・セラーデスもそうだった。幅を取って、深みを取る連係に優れ、サイドでプレーメーカーとして振る舞える。

 ミンゲサは、ラ・マシアで薫陶を受けてきたセンターバックである。4枚、3枚のセンターバックだけでなく、右サイドバックとしてもプレー。サイドではパワーを感じさせるプレーを見せ、かつてバルサで主力だったオレゲル・プレサスをほうふつとさせる。

 つまり、デストに大枚をはたく意味などなかった。これからも、見違えるほど適応することはない。事実、辛抱強く起用したセメドは最後までフィットしなかった。それは失われた時間と言える。例えばボルシア・ドルトムントで右サイドバックとして定位置をつかみつつあるマテウ・モレイに時間を与えるべきだったし、ユーティリティーの選手としてはジローナにレンタルで出したモンチュなどを抜擢しても面白かった。

「バルサはラ・マシアである」

 バルサの始祖とも言えるヨハン・クライフの言葉は重い。

11人全員がラ・マシアの時代

 ラ・マシア出身者はトップで要所を占めてきた。各ポジションで、ジョゼップ・グアルディオラ→シャビ・エルナンデス→アンドレス・イニエスタというような系譜を作った。一貫した育成の賜物だ。

 彼らは同じ絵を描き、ボールをつなぎ、運べる。徹底的なボールプレーは強力な武器となった。その特異性で、外から来た選手も適応が難しいほどだ。

 グアルディオラの後を継いだティト・ビラノバ監督の時代、2012年11月には「ピッチに立つ11人全員がラ・マシア出身選手」という状態が生まれた。ビクトール・バルデス、カルレス・プジョル、ジェラール・ピケ、ジョルディ・アルバ、セルヒオ・ブスケッツ、ペドロ・ロドリゲスなどは各ポジションで一貫したフィロソフィで鍛えられた選手たちだった。

 今も、チアゴ(リバプール)、エクトール・ベジェリン(アーセナル)、ダニ・オルモ(ライプツィヒ)、エリク・ガルシア(マンチェスター・シティ)など多くのラ・マシア出身者が欧州のトップクラブで活躍。古き良き日を再現できないはずはない。

             メッシ

      ファティ(コンラド)

       モリバ     プッチ(コジャード)

           ブスケッツ(ニコ)

  アルバ               セルジ・ロベルト(モレイ)

      アラウホ    ピケ    ミンゲサ

           テナス

 現状、パスを所有する選手だけでも、これだけの陣容になる。これにGKテア・シュテーゲン、MFフレンキー・デヨング、ペドリ、FWウスマンヌ・デンベレのようなトッププレーヤーを合わせれば、十分に覇権を取れるはずだ。

モリバは新たな希望

 半月板のケガでしばらく離脱している18歳のアンス・ファティは、新たなバルサの象徴だろう。動きはかつてのペドロに近いが、ストライカーとしてのセンスは出色だ。

 22歳のウルグアイ代表ロナウド・アラウホは、高さ、パワーに優れ、気迫も感じさせる。ケガが多いのは懸念材料だが、バルサBでプレーしてつなぎも上達した。ピケ、カルレス・プジョルという伝説に近づけるか。

 モリバはラ・マシアでは”新機軸”と言える。かつてエドガー・ダービッツ、ヤヤ・トゥーレ、ケイタ、パウリーニョなど外から補強していたインテンシティが高いMFの一人で、攻守両面にタフ。局面での対決に優れ、ゴール前にパワーを持つ。バルサBの主力ながら、今年に入ってトップチームでの存在感が増している。

 アレックス・コジャードは22歳の左利き万能アタッカーだ。今シーズンはキャプテンとしてバルサBをけん引。ビジャレアルB戦で左足のFKを決めるなど技術的には申し分なく、トップ昇格がない場合は1部クラブへの移籍が有力だ。

 19歳のMFニコ・ゴンサレスも、トップへの足掛かりを作りつつある。伝統の4-3-3システムでアンカーとしてプレー。ブスケッツの系譜で、スキルとビジョンを併せ持つ。現代ボランチに必要な高さ(身長188)もあり、弱点がない。1990年代から2000年代にデポルティボ・ラ・コルーニャで活躍した左利きMFフランの息子で、久保建英とはチームメイトだった。

 ピケ、ブスケッツ、アルバ、メッシというベテランと一緒にピッチに立つことで、若手は成長が見込めるだろう。それは華麗なる伝説の継承となる。その融合によって、バルサは強くなるはずで、守備の脆さも攻撃の武威として上書きされるだろう。それこそ、バルサの伝統だ。

 メッシとモリバの抱擁は啓示的に映る。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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