L.A.で1年ぶりに映画館がオープン。「テネット」もついに公開
映画の街に、映画館が戻ってきた。
コロナのロックダウンでL.A.の映画館が閉鎖して、丸1年。お隣のオレンジ郡では、一度だけ短期間、営業再開が許されたことがあったが、L.A.郡ではこの間ずっと映画館は閉まったままだった。しかし、最近になって新規感染者数と陽性率が大きく減少。ワクチンの接種もスピードアップし、さらに、ワクチンにアクセスしづらいエリアの住人に絞った接種促進政策も順調に進んだ結果、L.A.郡は、カリフォルニア州が定める4段階の規定で最も制限が強いパープル(紫)から、その次のレッド(赤)に移行。今週月曜から、レストランは室内も定員の25%まで客を入れることが許され(これまでは屋外席のみ許可されていた)、映画館は定員の25%、フィットネスジムは定員の10%までで営業再開許可が出た。
この1年、倒産の危機に直面しながら、その都度なんとか資金を調達して持ち堪えた業界最大手のシネコンチェーンAMCは、許可が出ると同時にオープン。もうひとつのチェーン、シネマークも、週末を待たずにビジネス再開している。しかし、クオリティの高さで映画通に愛されているアークライト・シネマや、人気のショッピングセンター、ザ・グローブにあるパシフィック・シアターは、週末を迎えた本日も、まだ閉まったままだ。話題の新作があるわけでもないし、焦らずに準備をして、整ったところで開けようということなのだろう。
事実、現段階のラインナップは、多くの人を今すぐ映画館に駆けつけさせるパワーには欠ける。今週月曜から映画館を開けていいことになったのは、スタジオにしてみたら、嬉しいながら突然の話。そんなことになるとわからなかったので、スタジオは、大事な作品の公開を延期したり、ほぼ同時に配信に出したりしてしまっているのだ。オスカーにノミネーションされて注目されている現在公開中の作品も、「ノマドランド」はHuluで、「Judas and the Black Messiah」はHBO Maxで、「Promising Young Woman」は複数の配信サービスで、劇場に行かずして見られる。
筆者が足を運んでみたウェストフェルド・センチュリーシティにあるAMCシアターも、午後ということもあるが、客足は非常にまばらだった。ラインナップで目についたのは、「TENET/テネット」。今作が劇場で上映されることは、今朝の新聞にも大きく広告が出ていた。「TENET/テネット」は、昨年夏から秋にかけて全世界で公開されており、新作ではない。だが、これまで劇場が閉まっていたL.A.では、ビッグスクリーンで見ることができなかったのだ。DVDではなく、きちんと映画体験したいと思っていた人は多く、今、ようやくそれがかなえられたのである。座席表を見ると、25%の制限がかかっているとはいえ、時間によっては半分くらい埋まっている。
また、「ラーヤと龍の王国」の夜7時半の回も売り切れになっていた。今作はDisney+でプレミアム料金付きの同時配信をしているが、映画館で見るほうを選ぶ人も少なくないということだ。もっと意外なことに、「ビバリーヒルズ・コップ」(1984)も売り切れだった。古い映画なので、ひとり5ドルという安い値段に設定されているのも理由と思われる。それでも、自宅でならもっと安く見られるものを、わざわざ車を運転して映画館ま見に来ようという人がそれだけいるというのは、興行主にとっても、映画スタジオにとっても、フィルムメーカーにとっても、元気付けられることである。
楽しみなのはこれからだ。来週末は、ユニバーサルの犯罪アクション「Mr.ノーバディ」、31日には、「ゴジラvsコング」が公開になる。「ゴジラvsコング」はHBO Maxで同時配信されるが、超大作だけに、劇場で見るほうを選ぶ人も多いのではないかと期待できる。だが、ハリウッド映画が本格的にカムバックするのは、あと1ヶ月半後。5月は、7日にマーベルの「ブラック・ウィドウ」、21日にライアン・レイノルズ主演の「フリー・ガイ」、28日に「クワイエット・プレイス PART II」とディズニーの「クルエラ」と、大作が控えているのである。どれも、ぜひビッグスクリーンで見るべき作品だ。
コロナはこのままどんどん収束に向かい、これらの作品は無事に劇場で公開されるのだろうか。そして、その後は、いつものようなハリウッド映画の夏がやって来るのか。世界の映画ファンは、心からそれを望んでいる。
(写真はすべて筆写撮影)