「農業」国家戦略特区・養父市と「万年野党」が岩盤規制突破で世界に挑む
国家戦略特区に指定された「養父市」とはどんなまち?
3月28日の国家戦略特区諮問会議で第1弾として6ヵ所の区域指定が行われた。「東京」、「関西」といった広域都市圏から、沖縄県、福岡市、新潟市と並んだ中に、中山間地農業の改革拠点として「養父(やぶ)市」が選ばれた。これを見て、「養父市ってどこだ?」と思った方も多かったのではないかと思う。
養父市は、兵庫県北部に位置する人口約2万6千人、市域約423平方km、平成の大合併の中、2004年に、養父郡八鹿町、養父町、大屋町、関宮町の4町が合併して発足したまちだ。
この地域、1960年代には4万人以上もいた人口が、2004年の合併時には3万人、この10年でも約6分の1も減ってしまっている。
年間の予算規模は約200億円、産業構造は、1次産業が8%、2次産業が28%、3次産業が63%、農林業の比重が高い過疎地域でもあるこのまちが、今回の国家戦略特区指定によって中山間地農業の改革拠点として、日本の「農業」の新たな未来を創ろうとしている。
養父市が提案した「農業特区」とは
昨年6月に発表されたアベノミクスの「成長戦略」で、切り込みが不十分として課題になっていた「岩盤」の一つが、今回、養父市から提案された「農業」分野だった。
「農業」分野の改革には、JAをはじめ、多くの根強い抵抗勢力がいる。特区指定に至るまでの間も、この分野に関しては、こうした業界団体や官庁、党内においても様々な強い抵抗があったと言われる。
既得権に守られている人たちからすれば、国家戦略特区による規制緩和の実施を突破口にされ、様々な地域でなし崩し的に規制緩和が進むのではないかと危惧している事もあるからだ。
国家戦略特区法には「農地法の規制除外」についても列挙されているにも関わらず、実際には大規模な自治体ではJAなどに配慮して、農業委員会の権限などに斬り込むような規制改革の本質的な提案をするところはほとんどなかった。
こうした中、いわゆる「自治体の常識」や「行政の常識」に反して「空気を読まずに」提案してきたのが、養父市だった。だからこそ、こうした背景があるにも関わらず、養父市が地域指定されたという事自体にも大きな意味があるのだ。
養父市が今回提案した特区では、農地利用の規制を外し、市内外の企業との連携を積極的に進めることで農業を中心とした市の活性化を目指している。市長もまた、JAや古くからの農家が支配する農業委員会など旧来型の仕組みに斬り込むとしている。
万年野党では、これまでも国家戦略特区に関するシンポジウムを開催
万年野党では、国家戦略特区に関しても、これまで多くのシンポジウムなどを行ってきた。
年末には、堺屋太一氏(作家、元経済企画庁長官、内閣参与)、竹中平蔵氏(慶應義塾大学教授)、野村修也氏(中央大学法科大学院教授・弁護士)、八田達夫氏(大阪大学招聘教授、国家戦略特区諮問会議民間議員、国家戦略特区WG座長)、宮内義彦氏(オリックス会長・グループCEO)をゲストに、シンポジウム『アベノミクスの検証と今後の展望』を開催した。
今年2月13日には、大阪にて、大阪府市特別顧問でもある堺屋太一氏、八田達夫氏、木村皓一氏(三起商行株式会社代表取締役社長)、岸博幸氏(慶應義塾大学教授、大阪府市特別顧問)、磯山友幸氏(経済ジャーナリスト)を招いての『国家戦略特区シンポジウム@関西』を開催した。
こうしたシンポジウムの動画や資料、記録なども会員用の万年野党ホームページで公開している。
国家戦略特区で、成長戦略として初めて岩盤規制に穴が空く
国家戦略特区の仕組み自体は、昨年4月に産業競争力会議で提案され、諮問会議からワーキンググループを経て、総理、官房長官の支持を受けた。
国家戦略特区の推進は、一番上に総理、数人の大臣、有識者による特区諮問会議ができ、特区ごとに「特区会議」を作り、民間代表、特区担当大臣、自治体の長が進めて行く事になる。
国家戦略特区においては、元の法律には手を着けず、例えば農地法や建築基準法のそれぞれの条文については、「特区においては適用除外とする」といった規制改革の項目のリストを作った。
旧来の特区では、特区を認定した後に個々の法律を変える事になっていたため、動かなかった規制があったが、国家戦略特区では、特区指定されたところは、自動的にこのリストにある規制改革項目が適用できるようになっている。こうした規制改革自体までを国主導で行うことに今回の特色がある。
これまでの総合特区、構造改革特区が、地方からの改革項目の提案であり、その中心が地方活性化の観点から行われてきたのに対し、国の成長戦略の一環として国主導での規制改革である事が大きく異なる。国も加わって検討して区域計画を立て都市計画決定になるところに意味がある。
農業に関しても、例えば、現行の農地法では、担保として土地を取れないため、銀行は農業に金を貸せないが、農業だけ摘要除外になっている経産省の中小企業に金を貸していて返せなかったら保証する制度を適用すれば、農地法を変更しないでも可能になる。
こうした改革は、規制改革会議等でも長年の懸案だったが、国家戦略特区で初めて改革されていく事になる。
岩盤規制に穴を空ける農業特区シンポジウムを「万年野党」が都内で開催!
安倍首相は、「自分自身が既得権益の岩盤を打ち破るドリルの刃となり、 2年ですべての『岩盤規制』に突破口を開く」と明言している。
とくに「養父市」の事例には、何としても岩盤に風穴を開ける具体的な特区指定がしたいという特区諮問会議のメンバーの思いも感じられる。今回の国家戦略特区の地域指定においてもその姿勢はハッキリとした。
今後さらに既得権勢力による抵抗が強くなる事も予想できる。しかし、これを突破口に岩盤規制へドリルで穴を空けるのはもちろん、スピード感を持って「この短期間でここまでできるのか」というアーリーサクセスを一気に創って世界に発信していかなければならない。
NPO法人万年野党では、早速、都内で、シンポジウム『養父市の挑戦 ~国家戦略特区で日本農業はどう変わるか?』を開催する。
「名だたる農業生産地を差し置いて、なぜ養父市が特区に選ばれたのか」、「養父市と地縁のない農業生産法人新鮮組が、養父市と共同で特区提案しているのはなぜなのか」「養父市と新鮮組で、何を実行しようとしているのか」、「養父市の挑戦は、どのような意味で『国家戦略』としての価値を持つのか」、「日本農業をどう変えていく可能性があるのか」といった多くの方々にとっての疑問に答えるとともに、この国の成長戦略につなげていくための議論、日本農業の未来像を明らかにしていきたい。
国内に留まらず、海外に向けた発信にもしていこうと考えており、パネリストには、いま農業分野で最も注目すべき、改革の主要プレイヤーたちを招く。
6つの国家戦略特区のひとつとして選定された、広瀬栄 養父市長、養父市との連携を表明している「闘う農家」、農業生産法人新鮮組の岡本重明代表取締役のほか、特別ゲストとして、国家戦略特区を提案・主導してきた竹中平蔵 慶應義塾大学教授(元経済財政担当大臣)による日本の農業による成長戦略について発信できればと思っている。
とりわけ、農業政策や農業の未来に関心を有する方々、農業・食品ビジネスに携わられている、あるいは参入を検討されている企業等関係者の方々にとっては、最前線の当事者たちから直接、最新動向と展望を聞くことのできる機会になる。
日本の成長戦略の転換の瞬間を是非、共有してもらいたいと思う。
特定非営利活動法人「万年野党」
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