スペイン・カタルーニャ州の独立問題は危険水域に ーラホイ首相は州議会を解散へ
今月上旬から、スペインでは東部の自治州カタルーニャ(州都バルセロナ、人口約750万人)の独立問題を巡り、中央政府とカタルーニャ州政府との攻防が過熱化している。
27日午後、独立派勢力が強い州議会はカタルーニャが「独立した共和国」という宣言を賛成可決したが、首都マドリードにあるスペイン上院ではカタルーニャに対する自治権を停止し、国の直接管理下に置く法案がこれも賛成多数で可決された。賛成は214票、反対は47票だった。
カタルーニャ州議会(定員135)では賛成が70票、反対が10票、棄権が2となった。独立に反対する州議員らは評決をボイコットした。
スペイン政府によるカタルーニャ州の自治権停止は憲法155条に基づくもので、ラホイ首相は国による直接支配はカタルーニャに「法、民主主義、安定」を取り戻すため、と説明してきた。155条の実施は現行憲法が制定された1978年以降、初めてとなる。
州議会は解散へ
ラホイ首相は27日夜の記者会見で、カタルーニャ議会を解散し、議会選挙を12月21日に行うことを発表した。
自治政府首相プチデモン氏やその内閣は罷免する、と述べた。州警察のトップも罷免するという。
首相は、前例のない措置はカタルーニャ州の正常化に必須だと説明した。「自治を取り上げるのではない。できうる限り正常化したい。正常化は法の支配から始まる。カタルーニャの人に法を戻したい」。こうした状況になったことは「悲しい」、「こんな事態になることは望んでいなかった」。
独立派は中央政府によるこうした措置に抵抗する可能性がある。例えば、州政府の官僚(約2万6000人)などが不服従の形で抵抗する、市民らが州政府の建物を取り囲んで抗議の意を表明するなど。また、プチデモン州首相が、すでにカタルーニャは独立した国になったと言う理由から、罷免を拒む可能性もありそうだ。
独立に向けた住民投票がきっかけ
スペイン政府とカタルーニャ自治政府の対立の直接のきっかけは10月1日に行われた、独立か否かの住民投票だ。自治政府によると、有権者の43%(約230万人)が参加し、90%は独立を支持したという。しかし、スペインの憲法裁判所はこの住民投票自体を違法としている。
プチデモン州首相は住民投票の結果が出た時点ですぐに独立宣言をすると見られていたが、これを「凍結」させてきた。独立宣言には署名しながらも、スペイン政府と話し合いを続けながら、その実施を先延ばしにしてきた。
スペイン政府はプチデモン氏に対し、独立したのかどうかを明確にするよう求めてきたが、同氏がそうしないままに時が過ぎた。ラホイ首相は直接統治への動きを開始せざるを得なくなった。
26日には、プチデモン州首相がいよいよ独立宣言を行うか、早期に州議会選挙を呼びかけると見られていたが、27日、最終的に選択したのは、州議会での投票による独立か否かの選択だった。今回の共和国としての独立宣言を憲法裁判所は違法とする可能性が高い。
BBCの報道によれば、州議会の周囲に集まった住民には独立支持派が大部分だったようだ。「これでやっと自由になれる。ここでは私たちは抑圧されている。自由のために戦ってきたのよ」とある女性は語っている。しかし、少し離れたところにいたある男性は「災難だ。全市民の声が反映されていない」という。
カタルーニャの位置
カタルーニャはスペインの中でも裕福な州の1つで、独自の言語(カタルーニャ語)と文化を持つ。教育や司法、社会福祉など幅広い自治権を認められている。スペイン全体の16%の人口がこの州に住み、国内の輸出の26.5%、GDPの19%を生み出す。外国からの投資の20.7%を占める。しかし、中央政府に対して520億ユーロの負債も抱えている。
10月1日の住民投票では投票を阻止しようとする州警察と住民との間で衝突事件が発生し、800人を超えるけが人が出たと言われている。これに抗議をする大規模なデモが発生した。
海外の反応、経済への影響
カタルーニャの独立について、欧州連合(EU)、ドイツ、フランス、英国、米国は「カタルーニャを国として認めない」姿勢を維持している。
カタルーニャに拠点を置く銀行の株は軒並み下落した。10月5日からは企業が続々と拠点をカタルーニャから外に移動させている。その数は現在までに約1600社と言われている。
今後の懸念は?
BBCのラジオ番組「PM」に出演した専門家によると、今後の懸念の1つは「カタルーニャ内での分裂」だという。独立支持派の声が目立つが、実際には「声には出さないが反対派の住民もたくさんいる」からだ。
BBCニュース(27日付)によると、今年行われたある世論調査では、独立支持派が41%、反対派が49%だったという。
「スペインだけの問題ではない」
英ガーディアン紙のコラムニスト、サイモン・ジェンキンズ氏は27日付のコラムの中で、「カタルーニャの独立運動はスペインだけの問題ではない」と書く。
現在までにEUはカタルーニャの独立問題は「スペインの内政問題」として、一切の干渉をしない姿勢を貫いている。
ジェンキンズ氏は欧州中で「中央集権的な勢力への強い反感が欧州全体を不安定にしている」、「EUは高まる地方自治への願いを無視することで危険を冒している」と指摘する。
「カタルーニャ問題はスペインの問題であると同時に欧州の問題でもある」。
ガーディアンは欧州各地で発生している地方自治・分離への動きをインフォグラフィックスにして紹介している。