米FRB、7月会合で「米経済の進展」を強調―8月下旬にも量的緩和縮小を表明か(下)
最新の6月のCPI(消費者物価指数)は前年比5.4%上昇と、5月の5%上昇から加速し、物価目標の2%上昇の2倍超と、2008年以来13年ぶり高水準となったが、それでもジェローム・パウエルFRB議長は、「インフレ率はさらに加速し、思ったより長く続く可能性はある」と認めるものの、「インフレの加速は経済が再開されたことによるもので短期的で、中期的には低下する」とし、また、「サプライチェーンのボトルネック(制約による品不足)の(インフレ加速への)影響が思ったよりも大きいが、ボトルネックがいったん収まれば経済が正常化し、物価は低下する。最近の企業の値上げの動きも1回限りの可能性が高い」とし、物価上昇圧力が広範囲に及ばないとの認識を示している。その上で、インフレ率は来年ごろには減速し、物価目標に向かって収束するとの見方を示している。
また、パウエル議長は、テーパーリング(量的緩和(QE)の縮小)について、「FRBは米国経済への支援から手を引くタイミングに近づいている」としたが、「(テーパーリングの開始時期や方法、ペース配分などの)決定はまだ数カ月先の話だ」と慎重な姿勢だ。また、議長は「それ(テーパーリングの開始)は米経済にとってショックとなる」とし、将来の調整に辛抱強く(patient)なる必要性を強調している。
市場ではFRBは米経済が約40年ぶりの速いペースで拡大しているにもかかわらず、景気回復が着実に進む見通しが明確になるまでは金融緩和政策のスタンスは変えないとみている。大方の予想では今夏にFRBはテーパーリングについて議論し始め、年末までに買い入れた国債の満期償還金を再投資する、いわゆるロールオフ(過剰流動性を吸収するための不胎化政策)を示唆し、その後、利上げの議論に入るとみている。FRBはテーパーリングを行う場合、第1弾として現在の月1200億ドル(約13.2兆円)の資産買い入れペースをゼロにまで縮小させ、その後に利上げに転換するとみている。前回6月会合で発表された最新のFOMC(連邦公開市場委員会)メンバーの金利予測では早ければ2022年、遅くとも2023年末までに2回の利上げが予想されている。
米経済通信社ブルームバーグによると、米証券大手ゴールドマン・サックスは今年下期(7-12月)にテーパーリングが示唆され、2022年初めごろからFOMC会合ごとに国債買い入れを150億ドル(約1.7兆円)ずつ縮小すると予想。FRBは年間8回のFOMC会合を開催しているので、計1200億ドルの削減になるとみている。また、FRBが年内にテーパーリングを決めれば、実施は早くて2022年後半からとの見方や、今後の雇用統計で強い数字が出れば、FRBはテーパーリングに関する新しいフォワードガイダンスを示すとの見方もある。
FOMCの議論の多くはテーパーリングをいつ、どうやって行うかに集中しているが、エコノミストの大半は早ければ8月26-28日の世界主要国の中銀総裁ら金融当局や大手金融機関のトップが参加してワイオミング州ジャクソンホールで開かれるFRB主催の国際経済シンポジウムか、9月21-22日のFOMC会合で示され、12月に正式決定し、2022年1-3月期から減額が実施されるとみている。FRB傘下のボストン地区連銀のエリック・ローゼングレン総裁は9日、AP通信のインタビューで、9月に1200億ドルの買い入れ減額を発表し、今秋から減額開始の見通しを示している。
■「インフレ加速は想定以上に加速」―FRB議長
当面の金融政策について、FRBは声明文で、前回会合時と同様、「FRBは長期にわたり、雇用の最大化と2%上昇の物価目標の達成を目指す。このため、インフレ率が物価目標を執拗に下回っていることから、FRBはインフレ率が当分の間、緩やかに物価目標の2%上昇をオーバーシュートすることを目指す」とし、一定期間の平均でインフレ率を物価目標に収束させる、いわゆる「平均インフレ目標政策(AIT)」のフォワードガイダンス(金融政策の指針)の継続を改めて強調。その上で、「雇用市場の状況が雇用の最大化と判断できる水準に達し、また、インフレ率が2%上昇に達し、当分の間、緩やかに物価目標の2%上昇をオーバーシュートする軌道に乗るまで、現状のゼロ金利水準を継続することが適切だ」との文言も据え置いた。
最近のインフレの加速については、声明文では前回会合時と同様、「インフレは主に一時的要因で加速している」とし、最近のインフレ上昇を認めたものの、「一過性」と判断し、インフレ懸念がないことを改めて強調した。FRBがインフレ加速は一時的との見方に固執しているのは、インフレが加速している一方で、雇用の伸びが予想を下回って依然弱いためで、経済活動の再開が今後も続けば雇用も加速するとみている。3月の雇用統計では新規雇用者数は速報段階で91.6万人増だったが、その後、78.5万人増に下方改定されており、4月も26.9万人増、5月も61.4万人増、ただ、6月は93.8万人増、7月は94.3万人増と、2カ月連続で加速したが、以前のような数百万人増には程遠く、依然として、パンデミック前に比べ568万人(7月統計)の雇用が回復しておらず、雇用市場の回復には程遠い状況だ。
また、FRBは今回の会合でも結果重視のフォワードガイダンスを再確認した。FRBは声明文で、「FRBの2つの使命である雇用の最大化と物価目標の達成に向かって、さらなる大きな前進が見られるまで国債買い入れを継続する」とした。FRBは昨年11月会合で、「今後数カ月、国債とMBS(不動産担保証券)の買い入れを少なくとも現在のペースで増やす」と、「数カ月」と時間軸で示していたが、昨年12月会合で「所要の結果が出るまで」としている。
FRBは昨年の3月15日の緊急会合で、パンデミックによる米経済のリセッション(景気失速)リスクを回避し、景気を支援するため、FF金利の誘導目標を1%ポイント引き下げ、ゼロ金利としたほか、金融システムに流動性を潤沢に供給し、金融市場の混乱を回避するため、QE措置として、今後数カ月にわたり、新たに7000億ドル(約77兆円)の資産買い取りを開始することも決めた。その後、3月23日の緊急会合でQEの資産買い取りを無制限とし、6月会合では6-7月以降の国債買い入れ額を月800億ドル、また、MBSを月400億ドルの計1200億ドルとすることを決めている。
FRBは今回の会合でもQEの資産買い入れ規模を据え置いたが、声明文で、「2つの目標(雇用最大化と物価目標)の達成が妨げられるリスクが生じれば、金融政策を調整する用意がある。新型コロナの感染状況や雇用市場の状況、インフレ圧力、金融状況や国際情勢を含めた幅広いデータを考慮する」との文言を残し、インフレ率をオーバーシュートさせるため、国債買い入れ政策を調整し、景気刺激を一段と強める可能性を示している。
また、FRBは今回の会合でも既存のQE政策の継続も確認した。これは償還期日が来た国債の全額をロールオーバー(売り戻さず、持ち越しによる長期保有)するほか、MBS元本の償還金の全額を国債とMBSへの再投資を行うもの。特に、MBSの月ベースの買い入れ額は既存と新規を合わせると計960億ドル(約10.6兆円)となる。(了)