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キアヌ・リーヴス、還暦を迎える。ラーメンとバイクを愛する、究極にクールな俳優

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
キアヌ・リーヴスは9月2日で60歳になる(写真:REX/アフロ)

 キアヌ・リーヴスが、9月2日に60歳の誕生日を迎える。

 ルックスも若々しく、2023年の「ジョン・ウィック:コンセクエンス」でも相変わらずのアクションスターぶりを見せつけた彼が還暦とは、にわかには信じ難い。「〜コンセクエンス」はシリーズ4作の中で上映時間が最も長く、それだけにアクションシーンも多い。およそ100日間の撮影のうち80日はアクションに費やされたという。

「マトリックス」(1999)などでリーヴスのスタントダブルを務め、25年以上も親しい関係にあるチャド・スタエルスキ監督は、リーヴスのことを、「非常に仕事熱心。根気と情熱がある」と大絶賛する。リーヴスにどこまでできるかを知っているだけに、スタエルスキは限界に迫ることをやらせる。そしてリーヴスは毎回必ず達成してみせるのだ。

 だが、飾らないリーヴスは、年齢による体の変化を感じると、素直に告白。「人生とは、死に近づいていくことだ。僕も、もう以前のようには走ったり、ジャンプしたり、暴れ回ったりできない。その事実を認め、受け入れようとしているよ。悲しいけれどね」と、リーヴスは「〜コンセクエンス」アメリカ公開時の取材で語っている。

インディーズ映画として始まった「ジョン・ウィック」シリーズはリーヴスの代表作のひとつ(Lionsgate)
インディーズ映画として始まった「ジョン・ウィック」シリーズはリーヴスの代表作のひとつ(Lionsgate)

 リーヴスはレバノンのベイルート生まれ。父はハワイ出身で、ネイティブ・ハワイアン、中国、イギリス、ポルトガルの血が混じっている。母はイギリス人の衣装デザイナー。リーヴスが3歳の時に父は家を出ていき、リーヴスは母と共にシドニー、ニューヨークなどに住んだ後、母の再婚相手であるアメリカ人男性とトロントに落ち着いた。この再婚もうまくいかなかったが、離婚後も義理の父とリーヴスは良い関係を続け、高校を中退したリーヴスが俳優を目指してアメリカに行った時も、彼のおかげでグリーンカードを取得できている。リーヴスは今もアメリカ国籍は取得せず、カナダ国籍のみ。血のつながった父とはずっと疎遠のままだ。

 初期の代表作は、「ビルとテッドの大冒険」(1989)、「マイ・プライベート・アイダホ」(1991)、「ハートブルー」(1991)、「ドラキュラ」(1992)など。それらの違ったジャンルで才能を見せてきたリーヴスを大スターにしたのは、1994年の「スピード」だ。サンドラ・ブロックと共演した、このノンストップのアクションスリラー映画は、3,000万ドルで製作され、全世界で3億5,000万ドルを売り上げる爆発的ヒットになったのである。

「スピード」続編を断って受けた仕打ち

 当然、続編を作ろうということになったが、リーヴスはカナダのウィニペッグで「ハムレット」の舞台劇に出たかったため、出演を断った。それは20世紀フォックスを怒らせ、2008年の「地球が静止する日」まで14年間もフォックスからお声がかからなかったと、リーヴスはアメリカ版「GQ」のインタビューで明かしている。しかし、1作目の5倍以上の1億6,000万ドルの予算が投じられた「スピード2」の世界興収は1作目の半分以下で、赤字に。Rottentomatoes.comによれば、好意的な批評はわずか4%と、評価もボロボロだった。続編にも出演したブロックは、リーヴスの判断を「賢かった」と褒めている。

「スピード」プレミアに出席したリーヴスとブロック
「スピード」プレミアに出席したリーヴスとブロック写真:Shutterstock/アフロ

 フォックスから縁を切られていた14年間にも、ほかのスタジオで「マトリックス」とその続編2本、「恋愛適齢期」(2003)、「コンスタンティン」(2005)、「イルマーレ」(2006)など多くの作品に出演し、ヒットさせてきた。だが、「47 RONIN」(2013)以後は、主にインディーズを選んできている(2014年の『ジョン・ウィック』1作目も、インディーズとして製作されている)。

「忠臣蔵」をモチーフにしたアクションファンタジー大作「47 RONIN」は、興行面でも批評面でも失敗。しかし、リーヴスは撮影体験をとても楽しんだようだ。2017年の筆者とのインタビューで、リーヴスは、日本人キャスト、とりわけ真田広之のことを絶賛していた。

「みんなとても優しかったよ。真田さんは刀を使ったアクションがものすごく上手。あまりに上手いから、僕みたいな下手くそな人もましに見せてくれるんだ。彼の動きは素早くて美しい。僕は野蛮なキャラクターだから、僕の動きが荒っぽいのは大丈夫だったんだが、真田さんは自分もわざと時間をかけた動きをして、僕のペースに合わせてくれた。それに、僕のひどすぎる日本語のせりふを共演者たちがバカにしなかったことにも、感謝している」。

 真田広之が「〜コンセクエンス」に出演することになったのは、リーヴスがずっと望んでいたことが形になったものだ。「〜コンセクエンス」の舞台に日本を入れることは、もともと日本好きなリーヴスとスタエルスキが、3作目「ジョン・ウィック:パラベラム」(2019)のために来日した時に思いついたのだという。

 ラーメンを愛するリーヴスが、しばしば仕事に関係なく日本を訪ね、ラーメンを食べ歩くのは、もはやよく知られた話。筆者とのインタビューでも、「僕にとって、こだわりのひとつになっちゃったんだよね。それ以外に日本でやることは、とくにないな」と述べていた。「毎回、すごいと思えるラーメンに出会えることを願っている」というリーヴスが、そのインタビューの前の来日で食べたのは、ファイヤーラーメン。近年はロサンゼルスにもラーメン屋が増えているが、リーヴスは、「この街の店も何軒か試したけど、いまひとつ。ここではまだ美味しいラーメンに出会っていない」とのことだった。「でも、努力し続けるのは良いことさ。(日本の)ラーメンのシェフは、ラーメンに全人生を捧げているんだから」とも、彼は続けている。

誇りを持って世に送り出す1,140万円のバイク

 もうひとつ彼が愛するのは、バイク。リーヴスにとって初のバイク体験は22歳の時、映画の撮影でカワサキ。撮影が終わってロケ地から家に帰ると、最初のバイクとしてノートンを買った。その後、スズキやモト・グッツィなどにも乗っている。

 2011年、リーヴスは、バイクのデザイナーで修理工のガード・ホリンジャーと共に、ロサンゼルス郊外ホーソーンにカスタムバイクの会社ARCHモーターサイクルを設立。ふたりが友達になったのは、リーヴスが、2005年のハーレイ・ダビッドソンのカスタマイズをホリンジャーに依頼したのがきっかけだ。この会社のアイデアは、乗り心地も最高で見た目も美しい究極のカスタムバイクを作ってみようというところから始まっている。何年もかけて出来上がったそのバイクは、7万8,000ドル(今日の換算レートで1,140万円)。そこからビジネスへと拡大したのだ。

 自分たちが作るバイクのどこに誇りを感じるかと筆者が聞くと、「デザイン、フィニッシュ、性能、すべてにおいて職人技が反映されている。動き、ターンの仕方なんかも最高だ。音も、匂いもいい。値段は高い。ものすごく高いかどうかはわからないけれど、高いのはたしかだね」と答えている。

キアヌ・リーヴスとアレクサンドラ・グラント
キアヌ・リーヴスとアレクサンドラ・グラント写真:REX/アフロ

 さらに、リーヴスは、2017年、ビジュアルアーティストのアレクサンドラ・グラントと、小さな出版社Xアーティスツ・ブックスを立ち上げた。長年の友人で、過去にも一緒に本を出版しているリーヴスとグラントがカップルであることを公にしたのは、2019年。2003年のロサンゼルス現代美術館のイベントでは、レッドカーペットでキスも交わしてみせた。今年に入ってからも、ロサンゼルスのレストランで仲良く食事をするふたりの姿が目撃されている。

 すでに撮り終えている映画は複数あり、「コンスタンティン」続編など準備中の作品もいくつかあるが、現在、リーヴスは何も撮影をしていない。今は、愛する人とバイクのためにたっぷり時間を使っているのだろうか。この究極にクールな俳優が、私生活でも、キャリアでも、これからも順調な人生を歩んでいくことを願いたい。

 お誕生日おめでとうございます。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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