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L.A.の元祖セレブスポット、フレッド・シーガルが閉店。映画やドラマにも登場

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
フレッド・シーガルのメルローズ店に買い物に来たクリスティーナ・アギレラ(写真:Splash/AFLO)

 L.A.ファッションを確立し、数々のトレンドを生み出した有名店フレッド・シーガルが、華やかな歴史に幕を閉じた。西海岸時間7月30日をもって、メルローズ通りの第1号店とマリブの支店がクローズしたのだ。

 それ以外の支店はすでに閉店しており、オンラインショップも閉鎖された。メルローズ店の建物は、インパクトのある赤と青のロゴが外され、ショーウィンドウも空っぽで、今やかなり地味な雰囲気だ。ただし、店内のカフェは別経営であるため、引き続き営業している。

 2019年にライセンス契約をし、店を経営してきたグローバル・アイコンズ社によれば、パンデミックで大きなダメージを受け、その後も回復できなかったのが原因とのこと。パンデミック前にはさらに支店を拡大する計画を立てていたとのことだが、その頃にも、かつてのような勢いはもはや失われていたといっていい。

メルローズの第1号店だった建物からは赤と青のロゴの看板が消え、地味な印象に(筆者撮影)
メルローズの第1号店だった建物からは赤と青のロゴの看板が消え、地味な印象に(筆者撮影)

 フレッド・シーガルは、セレブスポットの元祖。古くはエルヴィス・プレスリーやビートルズらに愛され、90年代以降も、ジェニファー・アニストン、ブリトニー・スピアーズ、アンジェリーナ・ジョリー、ニコール・キッドマン、パリス・ヒルトン、リンジー・ローハン、キアヌ・リーヴス、ジュード・ロウ、ジェラルド・バトラーなど数多くのセレブが目撃されてきた。

 それらのセレブが買ったアイテムはたちまちメディアに取り上げられて、大ヒット。フレッド・シーガルに商品を置いてもらえることは、おしゃれ認定を受けるようなもので、駆け出しのデザイナーにとっては多大なる意味を持つことだった。ここから成長していったブランドには、ジューシー・クチュール、アール・ジーンズ、ハードキャンディ・コスメティックスなどがある。かつてミラ・ジョヴォヴィッチが親友と立ち上げたファッションブランドも、この店だけに置かれていた。

 L.A.カルチャーの一部であるこの店は、L.A.を舞台にした映画やドラマにも時々出てくる。若手ハリウッドスターの日常をコミカルに描く「アントラージュ★オレたちのハリウッド」の第1話は、まさにこの店のカフェで主人公と友人たちがランチを楽しんでいるところからスタートしたし、「キューティ・ブロンド」(2001)には、リース・ウィザスプーン演じる主人公が「フレッド・シーガルでキャメロン・ディアスがヘンテコな服を買おうとしているのを見て、止めてあげた」というシーンがある。「クルーレス」(1995)にも、アリシア・シルバーストーン演じる主人公が「ルーシー!フレッド・シーガルで買った白のシャツはどこ?」というシーンがあった。若者の人気を集めたドラマ「ビバリーヒルズ青春白書」、ロバート・ダウニー・Jr.が出演する「レス・ザン・ゼロ」にも登場する。

フレッド・シーガルで買い物を済ませたケイト・ベッキンセール
フレッド・シーガルで買い物を済ませたケイト・ベッキンセール写真:Splash/アフロ

 L.A.を訪れる国内や海外からの観光客、ファッション関係者にとっても、長い間、ここは絶対立ち寄らなければならないスポットで、筆者自身も日本の芸能人を何度か目撃した。ただし、この店が扱う商品は全体的に値段が高く、庶民は見て楽しんでもなかなか手が出ないのも事実だった。フレッド・シーガルで好きなだけ買い物ができるというのは、一般人のあこがれだったのだ。

 フレッド・シーガルは、創業者の名前。シカゴに生まれ、L.A.に育った彼は、パンツ・アメリカというジーンズの専門店を立ち上げ、1965年、メルローズ通りとクレッセント・ハイツ通りの角の敷地に移転。同時に店名を自らの名前に変えた。

 その辺りは店など何もない完全な住宅街で、シーガルは、隣接する不動産をひとつずつ購入し、十分な駐車場を備えた大きい店を建設。広い店内を違ったデザイナーや業者に割り当て、ひとつ屋根の下に複数の店が混じり合っているという、当時において非常に斬新なアプローチを取った(それらの業者やデザイナーの中でも、ロン・ハーマンは飛び抜けたトレンドセッターだった)。

ハル・ベリーもフレッド・シーガル内のロン・ハーマンでショッピング
ハル・ベリーもフレッド・シーガル内のロン・ハーマンでショッピング写真:Splash/アフロ

 1985年には、やはり周辺に何もなかった場所を選び、サンタモニカ店をオープン。2012年からはニューヨークを拠点とするサンドー・メディア社がこのブランド名を所有し、グローバル・アイコンズに売るまでの間、ロサンゼルス国際空港やサンセット通りなどに支店を展開。一番多かった時期、カリフォルニア州には9店舗があった。シーガル本人は、2021年に87 歳で死去している。

 グローバル・アイコンズのオーナー、ジェフ・ロットマンが「Los Angeles Times」に語ったところによれば、新たな経営者のもとでフレッド・シーガルがビジネスを再開するかどうかは、シーガルの遺族の判断によるということ。21世紀も4分の1が終わろうとしている中、60年の歴史を持つこのブランドが再び最大のセレブスポットとして人々を惹きつける日は来るだろうか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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