【高崎市】8分19秒で風を撮る~鉾井喬「風はどこで生まれたのか?」ギャラリーで制作過程も公開!
中之条ビエンナーレに3回連続 (2017,2019,2021) 参加したアーティスト 鉾井喬(ほこい たかし)さんは、
風を可視化するインスタレーションや 風を撮影する「ウィンドグラフ」で自然とエネルギーの関係性を考え、表現しています。
今日は、ギャラリーの中にアトリエを設置して「アートの展示 ⇔ アーティストの制作のようす」をいろいろな見方で楽しめる鉾井喬さんのプロジェクト『風はどこで生まれたのか?』をご紹介します。
鉾井喬 TAKASHI HOKOI
『風はどこで生まれたのか?』Atelier⇔Gallery Project
会期:2023/4/29(土) ~ 5/29(月)
OPEN: 毎週 土・日・月曜 12:30~18:30 (最終入場 18:20まで)
入場料無料
会場:ビエント アーツ ギャラリー 高崎市問屋町2-7
鉾井喬さんは「アトリエで手を動かしている最中に何かを思いついたりするので、作家が普段何を考え どのように制作しているのかを見ることで、何かを感じ取ってもらえたらいいなと思います」と仰っていました。
会期中に 壁に貼られた図案や制作品などがどんどん増えていくようです。
何度も足を運んでアートの制作過程を観察できる貴重な機会ですね。
展示作品を鑑賞し 制作の工程を観察したら、たくさんの発見がありそうです。
鉾井喬さんに質問したり説明をお願いするのも歓迎だそうですよ。
風の写真を撮る Windgraph
こちらは、鉾井喬さんが制作した「風を捉える三脚」です。
風見鶏のように風上を向き 更に上下方向の風も拾う三脚の上にピンホールカメラを据え付けて、長秒時露光で8分19秒掛けて1枚の 風の写真「ウィンドグラフ」を撮っています。
8分19秒というのは、太陽で生まれた光が地球上の自分の元に届くまでの時間と言われています。
鉾井喬さんは、長い時間を掛けて1枚の写真を撮るピンホールカメラの特性を利用して、世界各地で「風上の光を捉え 風の風景を可視化」しています。
鉾井喬さんがウィンドグラフの撮影を始めたのは2020年。当時はデジタルで試行錯誤していたそうです。
最初は、アメリカのバーモント スタジオセンターのアーティスト イン レジデンスに滞在中に極寒の雪が積もった森の中で撮影。
次は、風の強いアイスランドのレジデンスに滞在中に撮影した「溶けかかっている氷河」や「深く浸食した滝の裏側から」「白夜に近い季節の夕陽」など。
解説を聞くと なるほどそのように見えてくるロマンチックな写真です。
ぐっと身近な群馬県・野反湖畔で撮影された写真もありました!
ニッコウキスゲの黄色に野反湖らしさが感じられます。
風が見てきた風景と私の記憶の中の風景が、ぼんやりとリンクしたのがうれしかったです。
野反湖の撮影からフィルムでの撮影に変更したそうです。
見えない風を可視化するというコンセプトには、光を直接物質に変えるフィルムの方が相応しいと考えました。
美しい風の写真の現像は鉾井喬さんご自身での手焼きです。所属する東京藝術大学の施設を利用して特殊な焼き方をしています。
※ デジタル撮影とフィルム撮影の発色の違いや 風が集めた繊細な光の陰影は、私の撮影画像とPC・スマホの画面越しにはお伝えできません。
ぜひビエント アーツ ギャラリーでご自身の眼でご鑑賞ください!
福島の人々から教えてもらった大切なこと
鉾井喬さんは 東京藝術大学 大学院卒業後、NHKに就職しカメラマンとして福島に赴任されました。
都会育ちの鉾井喬さんにとって、福島で出会った人々が豊かな自然と共に慎ましく生きる姿や感謝の気持ちを大切に生活する姿から学ぶことがとても多かったそうです。
鉾井喬さんは現在も福島県の裏磐梯に拠点を構えています。
↓ 裏磐梯・レンゲ沼で撮影…凍結して雪原のようになったレンゲ沼に少し朝日が差し込んでいます
↓ 同地点・同時間帯 風向きが変わりカメラが森の方を向いて撮影
※ 鉾井喬さんが NHKでの仕事中に遭遇した東日本大震災の経験については、下のリンク記事(ハフィントンポスト 2021/3) をご一読ください。
「なぜ自分が撮ってしまったのか」 津波を生中継した元NHKカメラマンは 今も葛藤の中で生きる【東日本大震災】
テーマ「自然とエネルギーの関係性を問いかける」
2019年の中之条ビエンナーレで展示予定の場所で鉾井喬さんが見た風景の中に「送電線」があり、地元の人から「あの送電線を流れる電気は福島から来ているんだよ」と教えてもらいました。
震災直後に発生した原発事故にも間近で遭遇した鉾井喬さんは、その後ずっと”エネルギーと自分との関わり”について深く考え続けてきましたが、
中之条町で見た送電線がきっかけとなって 基本的なテーマを「自然とエネルギーの関係性を問いかける」と決めることができたそうです。
中之条ビエンナーレ2019 鉾井喬「存在と痕跡」(YouTube)
『風の見てきた風景 2011+11』
『風の見てきた風景 2011+11』は3部作。
福島県浪江町「請戸漁港」、福島県「猪苗代湖」、東京都「隅田川」の3地点の風上の光の写真です。
↓ こちらは、福島県浪江町「請戸漁港」で撮影したウィンドグラフです。
福島原発から北へ20km弱 6kmのところにあり、震災直後は避難区域に指定されていました。(※ 距離を訂正5/8)
同じ福島県内であっても、避難区域であった町と「猪苗代湖」のある会津地方では、時間が経過とともに考え方が違ってきてしまっているようです。
また、エネルギーの大消費地・東京では (電力不足で計画停電などがあった当時から)どのような考え方の変化があったのでしょうか。
時間が経つ中で忘れ去られてしまっている大切なものがあるのではないか?という思いで、鉾井喬さんが「水辺」という切り口で3地点を選び、風上の写真を撮影しました。
この3部作は、インスタレーションもあります。
透ける布地にプリントした3地点の写真が見事に重なり、その奥に置いた電球(=エネルギーの象徴)の灯りが ひとつになった風景を照らします。
ぜひ実際に「風の見てきた風景 2011+11」の前に立って体験してみてください。
「風はどこで生まれてきたのか?」 まとめ
美しく神秘的な 8分19秒の風を捉えた写真をゆっくりと鑑賞しながら「風はどこで生まれてきたのか?」という問いに思いを巡らせてみませんか?
鉾井喬さんは「作品をその背景も含めて観ていただけたらうれしいです」と仰っていました。
4月29日(土)から始まったビエント アーツ ギャラリーでの鉾井喬さんのプロジェクトは、5月6日(土)から第2週目に入ります。
鉾井喬さんは「出来る限り在廊して制作をする」予定です。ぜひ早めに一度ご覧になって、最後にもう一度(いや、何度でも)ご覧になると より楽しめると思います。
また、鉾井喬さんは「中之条ビエンナーレ 2023」にも参加されます。
今年はどんなインスタレーションを制作するのでしょう。とても楽しみです!
【詳細情報】
ビエント アーツ ギャラリー
公式HP. .公式Instagram
※アーティスト在廊の有無はInstagramで告知します
住所:高崎市問屋町2-7(ビエント高崎1F西側)(GoogleMap)
営業日:土・日・月曜
営業時間:12:30-18:30(最終入場18:20まで)
駐車場:あり 無料