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客がいらないといったPontaポイントを自分のカードにつけたらどうなる?

園田寿甲南大学名誉教授、弁護士
大手家電量販店 ポイントカード(写真:アフロ)

■はじめに

富山県のあるローソンで、買い物をした客がPontaカードを呈示しなかったので、アルバイト店員が自分のPontaカードにそのポイントをつけていました。その行為に気付いた客がレシートを渡すよう要求したところ、Pontaカードを提示していないにも関わらず4698ポイントが貯まっていたということです。客がtwitterでこれを告発したところ、たいへんな話題になり、ローソンは「加盟店従業員のポイント不正取得についてのお詫びとお知らせ」をホームページに掲載しました。

ローソン店員が客の会計で私物のPontaカードを使用 告発ツイートが話題に

ポンタポイント不正取得 店員がカードない客の買い物で自分に付与 富山のローソン

さて、このような行為についてどのように考えればよいのでしょうか。

■客が捨てた割引券を拾ったのと同じか?

買い物をした際に、店から割引券をもらうことがよくありますが、あまり行く機会のない店ならば、そのまま捨ててしまうこともあります。かりに店員がそれを見ていて、客が捨てた割引券を拾って、別の店で使ったとします。何か問題はあるでしょうか?

これは特に何も問題はないのではないかと思います。その割引券は誰でも使えるものですし、使用について特別な制限はなされていないからです。他人からもらった割引券を使う場合も、何も問題はありません。

Pontaカードの場合もこれと同じでしょうか?

この店員は、客がいらないと言ったポイントを自分のカードにつけただけなのでしょうか?

ちょっと違う気がします。

Pontaカードについての「Ponta会員規約」を見てみます。

まず、第3条1項1号で、「ポイントプログラム参加企業での商品のご購入及びサービスのご利用に際し、会員証を提示又は会員ID番号とパスワードを入力された会員に対し、商品のご購入金額及びサービスのご利用額等当社が別途定める条件(以下、「サービスご利用額等」といいます。)に応じてポイントを発行いたします。」と書かれています(太字は筆者)。

さらに、第8条1項3号に、「会員証又は積み立てられたポイントを第三者に譲渡(但し、当社所定の手続きに従って行う場合を除く。)若しくは貸与し、又はこれらに担保を設定した場合。会員証に対して設定したパスワードを第三者に開示し又は使用させた場合」には、会員証の使用停止や除名などの処分を行うことがあるとされています。

つまり、ポイントは買い物をした特定の「その人個人」に積み立てられるものであり、自分のカードをレジに通した店員には有効なポイントはつかないということになります。

この点で、Pontaポイントは、何ら使用制限のない割引券とはまったく別のものであるということが分かります。

店員がつけたポイントは無効ですが、問題はそれを超えて、店員に何らかの刑法的問題が生じるかということです。

■電子計算機使用詐欺罪の可能性が

刑法246条の2に〈電子計算機使用詐欺罪〉という規定があります。

第246条の2 人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。

この条文は、昭和62年に新設されたもので、詐欺罪を補充するためのものです。コンピュータが多くの取引で使用されるようになってきて、まったく人を介さずに事務が処理される場面が多くなってきたことがその背景にあります。

詐欺は、人を騙(だま)して、錯誤(勘違い)に陥らせ、財産を処分させる犯罪です(たとえば、ゴッホのニセの絵を本物だと騙して高額で売る)。ところが、コンピュータは入力された情報の通りに処理をするので、「騙される」ということがありませんし、「錯誤する」ということもありません。したがって、たとえば銀行員が、実際には入金がないのに、入金があるように「虚偽の情報」を入力して、銀行口座の残高を増やしたような場合、ATMから預金を引き出せば窃盗が考えられますが、自動振替で引き落とされてしまえば処罰する規定はなく、また誰も「騙していない」ので詐欺も難しいし、なかなかピッタリとくる条文がなかったのでした。

ローソンの店員の行為も、実はこの電子計算機使用詐欺罪に該当する可能性があります。

まず、本罪が成立するためには、客体が「人の事務処理に使用する電子計算機」であることが必要です。本件では、レジはポイントカードシステムとつながっているコンピュータですので、問題はありません。

次に、「虚偽の情報」ですが、これは、「当該事務システムにおいて予定されている事務処理の目的に照らして、真実に反する情報」のことを意味しますので、本件の場合は、買い物をしていない店員のカードをレジにスキャンして読み取らせた情報は「虚偽の情報」だということになります。

そして、そのような「虚偽の情報」を入力して、自分のPontaカードのデータ(電磁的記録)を書き換え、「財産上不法の利益を得」た、ということになります。

以上のように、店員の行為はまさに電子計算機使用詐欺罪(最高10年の懲役)に当たると思います。(了)

[追記]

本件に関して、Facebook上で高木浩光氏及び板倉陽一郎氏と議論する過程で、有益なご意見をいただきました。お礼申し上げます。

甲南大学名誉教授、弁護士

1952年生まれ。甲南大学名誉教授、弁護士、元甲南大学法科大学院教授、元関西大学法学部教授。専門は刑事法。ネットワーク犯罪、児童ポルノ規制、薬物規制などを研究。主著に『情報社会と刑法』(2011年成文堂、単著)、『改正児童ポルノ禁止法を考える』(2014年日本評論社、共編著)、『エロスと「わいせつ」のあいだ』(2016年朝日新書、共著)など。Yahoo!ニュース個人「10周年オーサースピリット賞」受賞。趣味は、囲碁とジャズ。(note → https://note.com/sonodahisashi) 【座右の銘】法学は、物言わぬテミス(正義の女神)に言葉を与ふる作業なり。

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