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冷たい川のラフティングで、猛暑を乗り切ろう 家族での川の体験学習にもってこい

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
保津川の急流の名所をラフティングで下る(筆者撮影)

 連日続く猛暑日。冷たい水を求めて川遊びに出かけたくなる今日このごろ。いきなり知らない川に飛び込むような危険な体験をせずに、ラフティングを通じて安全に気をつけながら、川の素顔を学んでみませんか。

 筆者ら水難学会は、京都府にある明治国際医療大学保健医療学部救急救命学科2年生の学生を対象に、ウオーターレスキュー実習という4日間にわたる集中講義を行いました。今回は最終日に行われたラフティング実習を例にとり、ラフティングを通じて川のどのようなことが学べるのか、実習の様子をお伝えします。

ラフティングを楽しむための装備装着と安全点検

 今回は、京都・保津川のラフティングを学生らが体験しました。この日を迎えるにあたって、ゴムボートの操艇を3日間にわたり学びました。

 ラフティングを楽しむための装備としては図1の通りです。普段の生活ではお目にかかれないような格好ですが心配いりません。通常はラフティング業者が必要な装備一式について準備して皆さんをお待ちしています。

図1 装着装備とその安全点検(筆者撮影)
図1 装着装備とその安全点検(筆者撮影)

 まず、救命胴衣が目につきます。顔を水面上に出すほどの十分な浮力を持ちます。浮力が強い分、身体に密着していないと救命胴衣が身体から抜けてしまうことがあるので、乗艇前にしっかりとベルトを増し締めします。

 ここに来る前に、ヘルメットをしっかりとかぶり、顎紐を確実に締めています。救命胴衣の下にはウエットスーツを着ています。これで岩などに身体がぶつかった時の怪我の程度を軽くします。日焼け防止のために長そでのラッシュガードも着用しています。足には簡単に脱げない靴を履いています。指先がそのまま出ているサンダルを履くと、あちこちにぶつけて大変痛い目にあうことになります。

和船の川下りと同じコースを下る

 保津川ラフティングではゴムボートで下りますが、同じコースを和船も下ります。ラフティングのゴムボートには1艇あたりインストラクター含めて7人乗りますが、和船の定員は船頭を含めて28人です。人数からすると和船の方がゆっくりと下りそうなのですが、実は和船の方が断然速く下っていきます。

 図2は和船の川下り出発地点です。和船のお客さんは、多い時で6割ほどが外国から観光にこられた方々。和船からラフティングの学生たちに声を掛けたり写真を撮ったりしてくれたので、10艇ほどに分乗した学生たちは張り切ってボートを漕いでいました。

図2 和船の乗船場付近を通過するラフティング集団(筆者撮影)
図2 和船の乗船場付近を通過するラフティング集団(筆者撮影)

 この先で最初の急流に差し掛かります。図2の和船がラフティング集団を途中抜いていったので、この和船を先頭に学生のボートが続きました。保津川では要所にこのような急流が続きます。「キャーキャー」叫ぶばかりでは勉強にならないので、なぜ急流ができるのか学生には学んでもらうことになります。

急流ができる理由

 図3は保津川下りの中でも一番の急流。その急流を進む直前の写真となります。急流と言っても種類があります。一般的に川の流れを分けると平瀬、早瀬、淵となります。平瀬ではしわが寄ったような水面となり、流速は次第に強くなります。水深は比較的浅くなっています。そしてその水深のまま、河床が傾斜を持つと流速はさらに強くなって白波が立つようになります。こういった流れを早瀬と言います。

図3 手前が平瀬、奥が早瀬 川底がうっすら写っているのがわかる(筆者撮影)
図3 手前が平瀬、奥が早瀬 川底がうっすら写っているのがわかる(筆者撮影)

 図3では手前が平瀬、奥が早瀬となっています。平瀬の部分では川底がうっすら見えています。ここの水深は浅くなっていることがわかります。写真では川が右に曲がりながら急流を形成している様子が写っています。前を進むボートの先に見える左岸では壁が垂直に切られているのがわかるでしょうか。このようにして川の水を左岸の壁にぶつけることで、川の流れを左側に寄せてその下流で強い流れを作っています。そしてさらに先にて河床を段々に落とすことによって魅力あふれる早瀬を作っています。

 一方、図4は自然に形成された早瀬です。ここではかなり水深が浅くて、しかも大きな岩が川底の至る所にありますから、そういった岩に当たったりして水面が白く波立っています。

 一般的に渓流釣りの人を除いては、このような川に川遊びの家族が入り込むことはありません。そのため見た目通りの急流で水難事故が発生するかというと、稀です。

図4 川の水深が比較的浅い所に発生する早瀬の様子(筆者撮影)
図4 川の水深が比較的浅い所に発生する早瀬の様子(筆者撮影)

淵では水難事故がよく発生する

 川の水の流れが穏やかになる所ではしばしば水深が深くて、そういう所を淵と呼びます。このところ全国の河川で子どもや若い人が水難事故で亡くなるニュースをよく聞きますが、それらはたいていが淵で発生した事故です。

 図5をご覧ください。ここは早瀬のすぐ下流にあって水深が水量によっては十メートル近くに達する場所になります。川幅がそれほどない分、川岸からすぐに深くなります。だから深さを確かめずに急に入水すると溺れることになりかねません。

 淵はむしろ岩の上から飛び込むのには適した場所になります。実際に図5の左岸には飛び込み体験の人々が岩をよじ登っている様子が見て取れます。飛び込むときには、しっかりと知識と経験を積んだインストラクターの助言に従って、しかも装備や救助システムを組んだ上で行いましょう。初めての人が我流で飛び込んでいいものではありません。

図5 淵の流れは穏やかだが、水難事故は発生しやすい(筆者撮影)
図5 淵の流れは穏やかだが、水難事故は発生しやすい(筆者撮影)

川で遊ぶ際には膝下の水深で

 救命胴衣は、ボートから落水した時に呼吸を確保するために着装する救命具です。従って、深い川を泳ぐための装備ではありません。だからこそ、川遊びでは救命胴衣を着装していても膝下までの水深で遊びます。

 図6では、崖の上を保津川名物トロッコ列車が通過しています。ここにいる学生全員がトロッコ列車に手を振っています。トロッコの乗客も手を振り返してくれるので、みんな列車に気をとられていました。ほとんどの学生が膝下水深を守って川遊びをしていたのですが、ある学生が1人、本流に出すぎて流れに乗って流されました。学生たちは誰も気づきません。

図6 トロッコ列車に手を振る学生たち。誰も流された学生に気づいていない(筆者撮影)
図6 トロッコ列車に手を振る学生たち。誰も流された学生に気づいていない(筆者撮影)

 まさに「子どもから目を離した瞬間もこれだ」と言えます。このまま誰にも気づかれずに流ていけば行方不明となるところですが、この下流で2重、3重に救助システムを組んであったので大丈夫です。また、学生たちは前日までに河川の短距離を泳ぐアグレッシブスイムの訓練を受けているので、この学生は結局自力で岸に泳ぎ着きました。

川遊びの醍醐味は、冷たい水

 ラフティングの途中で、図7のように何度も和船の通過を待ちました。和船のお客さんには日除けがあるけれども冷たい水を浴びる機会はなさそうです。一方、日除けのないラフティングの学生たちは通過待ちの時間を使ってしっかりと水浴びをします。ラフティングの3時間半の間に思ったほどのどが渇かなかったのは、この水浴びのお陰かもしれません。

図7 和船の通過待ちをしつつ、川の清流で身体を冷やすラフティング集団(筆者撮影)
図7 和船の通過待ちをしつつ、川の清流で身体を冷やすラフティング集団(筆者撮影)

 図8は河原の傾斜がきつい場所にて和船の通過待ちをしていた学生グループの様子です。ここで学生たちは、河原の傾斜のまま水深が深くなることを体感します。写真では入水している学生の水深が河原から少し離れるだけで深くなる様子がわかります。また河原の斜面にて、のった石とともに崩れて斜面を滑るようなことがあれば、水中でも同じように川底の石や砂が崩れて斜面を滑るように沈んでいくことも体験しました。河原から入水してすぐに溺れる人の特徴です。

図8 傾斜のきつい河原では、川の水深も大きく変わり、水難事故が発生しやすい(筆者撮影)
図8 傾斜のきつい河原では、川の水深も大きく変わり、水難事故が発生しやすい(筆者撮影)

まとめ

 ラフティングを体験しながら、川の持つ様々な顔を学習することができます。この夏、各地の川で行われているラフティングにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

 以上の様子を次に示す動画でも公開しています。どうぞご覧ください。

動画 ラフティングの様子(筆者撮影、4分47秒)

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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