日本学術会議に関してはツイッター上では任命拒否肯定派が批判派を上回りそうという話
日本学術会議任命拒否に関するツイッター上の反応の分類
日本学術会議が推薦した会員のうち6名を菅総理が任命しなかったことによって割と騒ぎになっているようです.
では,ツイッター上ではどのような意見があったのかクラスタリングしてみます.2020年09月24日~2020年10月07日19:30まで,「学術会議,任命,学問の自由,学士院」等を含む3,426,543ツイートを収集して分類してみました.なお,クラスタリングの手法についてはこちらの論文をご参照ください.
この図を見るとわかる通り,意見は大きく二つに分割されています.ざっくり言えば,菅総理の任命拒否を非難するツイート群と,日本学術会議を非難するツイート群ですね.
・菅総理の任命拒否を非難するツイート群は,72,647アカウントによって339,107回リツイートされ,偏りは1.7でした.
・日本学術会議を非難するツイート群は,82,047アカウントによって335,420回リツイートされ,偏りは1.3でした.
これらのツイート群ですが,どのくらいリツイートされていったのかを時間を追って調べてみました.その結果がこちらです.なお,ここではC00が任命拒否を非難するツイート群で,C01が日本学術会議を非難するツイート群を表しています.
ここから,10月1日には任命拒否に対する非難のツイート群が多数リツイートされていったのですが,10月3日ごろから日本学術会議に対する批判が増加している様子がわかります.10月7日の段階でおおむねリツイート数は拮抗してきているといえるようです.
ただし,リツイート回数を確認すると,
・任命拒否非難側のツイートの約50%を11.5%のアカウントが拡散
・日本学術会議批判のツイートの約50%を14.7%のアカウントが拡散
しているようです.ま,これまでの経験から,だいたいどんなデータ分析してもこんなもんですが.
これまでの記事でも書いている通り,決してツイートの数が世論というわけではありません.
とはいえ,学術側に属する身としても当初は「任命拒否は無理筋では?」と思っていたのですが,どうやらツイッター界隈では日本学術会議が(も)悪い,任命拒否は当然というツイートが増加しているようです.
当事者たる大学教員の反応
では次に,当事者の意見はどうなのか見てみましょう.
ここでは,日本学術会議関係者の中でも大学教員に絞ってみたいと思います.
とはいえ大学教員アカウント一覧とか持っていないので,仮にプロフィールに「教授」「大学 AND 教員」と入っているアカウントを「大学教員っぽい」として収集してみました.ちなみに,これの精度は相当悪いです.自らプロフィールに「教授」とか書く人ってそれほど多くない気もしますし,私の知り合いの先生にもあんまりいません.私も書いてないですし.むしろ書いている人にはある種のバイアスがあるのでは?説すら出てきましたが,まあ,ほかにやりようもないのでとりあえずこれでやってみます.
この条件で1,102アカウント見つけることができました.ただし,これらがすべて大学教員のアカウントとは限らないし,大学教員のアカウントを網羅しているわけでもない点はご注意ください.
というわけで,当事者っぽいアカウントによるツイート&リツイートのみを集めて,それぞれのクラスタのツイートをリツイートした回数の時間変化をみたものが次の図です.なお,ここでもC00が任命拒否を非難するツイート群で,C01が日本学術会議を非難するツイート群を表しています.
これを見ると,どうやら大学教員の間では,C00のリツイートが多い,つまり任命拒否を非難する側のツイートの方がリツイートが多いようです.
流石に関係者が多いからなのか,日本学術会議に対する批判派それほど大学教員の共感は得られていないようです.
なお,C00をリツイートした教員っぽいアカウントは291,C01をリツイートした教員っぽいアカウントは81ありました.
当事者(大学教員)のアカウントによるツイート
最後に,当事者(大学教員)っぽいアカウントがツイートした内容をリツイートしたアカウントに基づいてクラスタリングした結果を見てみましょう.
この結果およそ大きく3つに分割されていることがわかります.
このうち,左下にあるのは日本学術会議を批判するツイートが中心です.こちらは,ツイート全体における日本学術会議批判と被るところが多い内容でした.
この内容は,29,696アカウントによって69,028回リツイートされました.
次に,真ん中にあるクラスタですが,これは今回の件について問題点を指摘しているツイート群です.
これらは,政権批判ではなく今回の任命拒否そのものを批判したり問題点を指摘しているようなものが多いようです.
この内容は,28,2269アカウントによって63,644回リツイートされました.
そして,右端にあるのは菅総理批判ツイート群でした.
なお,ここのツイートはすべて同一アカウントから発信されたツイートです.
このツイート群は3,967アカウントによって9,006回リツイートされたようです.
というわけで,大学教員によるオリジナルツイートに関しては,任命拒否批判ツイート群から政権批判ツイート群が別のクラスタとして抽出されている,といった感じのようです.
ところで,今回の任命拒否に批判的なツイート群と日本学術会議に批判的なツイート群の間をブリッジするツイートがいくつか存在していました.これらは両方の立場の人たちからリツイートされていて,双方の立場から重要だと判断されたツイートといえるでしょう.その一つがこちら.
こういった複数のコミュニティからリツイートされるアカウントから発信されたツイートは,異なる立ち位置を持つユーザの視界にも入りやすくなります.今回のように意見が大きく分断される場合,なかなか自分が支持しないコミュニティのツイートはタイムラインに流れてきづらいものですが,このように両方をブリッジするアカウントは,双方のコミュニティをつなぐ貴重な存在といえるでしょう.
最後に
というわけで,日本学術会議の任命拒否に関するツイートの分析を行いました.
個人的に思っていたより任命拒否を肯定するツイートが多かったため,やはりデータを見ないと分からないことは多いなあと改めて感じました.
ところで,私自身もここ数年日本学術会議の端っこの隅の末端の下っ端として,とある分科会の特任連携会員というのを拝命していました.
その時に会合に出たりシンポジウムで講演したりしたのですが,
「日本学術会議ってこんなにお金がない組織なのか・・・」
と感心したのを覚えています.
会議の開かれる大学までの交通費はもちろんでないし,シンポジウムの講演料も当然無し.一応分科会に関連していたので自分の分が謝礼無しだったのは構わなかったのですが,出るところに出ればウン十万円の謝礼をもらってもおかしくない大先生をシンポジウムに呼んだ際にも,謝礼は公演中に飲むペットボトルの水一本だった時には,切なさを超えて笑ってしまいました.
日本学術会議に関連した研究者は大体この実情は知っていて,
「あれは手弁当で関わるボランティアだ」
と言っています.
日本学術会議に関しては,端っこの隅の末端の下っ端程度にしか関わっていないので任命拒否に関してはコメントしませんが,日本の学術を支えようと(なんなら持ち出しで)真面目にやっている研究者のことは嫌いにならないでもらえると嬉しく思います.
追記:
一部修正しました.