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全豪オープン13日目現地リポート:車いすの絶対王者・国枝慎吾と最強ライバルの友情と切磋琢磨

内田暁フリーランスライター

※この記事は、テニス専門誌『スマッシュ』のfacebookからの転載です。連日、全豪オープンの模様をレポートしています。

国枝慎吾 62 62 Stephane Houdet

昨日、共に戦いダブルスのタイトルをつかみ取った盟友ステファン・ウデと、本日はシングルスの頂点を懸けて対戦した国枝慎吾。武器であるフォアの強打、そして低く滑るバックのスライスは、多くの選手たちが「速くなった」と声を揃える今年の全豪のサーフェスで、更なる冴えを見せたようです。序盤から試合の主導権を握った国枝は、最後のゲームではフォアの鮮やかなウイナー2本をストレートに叩きこむ。マッチポイントでは、ストレートに流し込むスライスがラインを捉えたのち、懸命に追いすがるウデから逃げるように切れていきます。相手の返球が地面を二度叩いた時、国枝は「イェーーーー!!」と叫び、両手を天に突き上げました。

これで国枝は、ウデに8連勝。世界ランキング1位と2位として共に車いすテニス界をけん引する2人は、それこそ数え切れないほどの回数を、頂点を懸けラケットを交えてきました。そしてその度に、両者共に次も勝つため、あるいは次こそリベンジするため、自分と向き合ってきたのです。

2013年の全仏決勝でウデに敗れた時、国枝は、チェアの高さを上げることを考えました。ウデの強烈なスピンに対抗するためには、自分も打点を高くした方がいいと思ったためです。しかしチェアを高くすれば、最大の持ち味であるチェアワークが落ちてしまうかもしれない――そのような激しく繊細な葛藤の末、国枝が辿りついたのは、なんと7ミリの高さ変更でした。

「7ミリで、かなり違うものなんですよ」

昨年、連勝街道を走る絶対王者は、そう笑顔で言いました。ウデという好敵手がいたがために、妥協を許さず研鑽に研鑽を重ね至った、爪の先ほどの長さの変更……正に匠の境地です。

そんな国枝の存在を、そして両者の関係性を、ウデは「ライバルであり、友情」だと言いました。

「彼とは数え切れないほど対戦してきた。だがシンゴとの試合はいつも楽しいし、大好きなんだ。フェデラーとナダル、ジョコビッチとマリーやバブリンカのような関係だよ」

そう言うと強面のフランス人は、「唯一の違いは、僕はシンゴに圧倒的に負けているってことだけれどね」とチャーミングに笑います。しかしだからこそ、国枝の存在は自分を高めるために必要不可欠なのだと、彼は言いました。シンゴの強さはわかっている。そのために、自分がやるべきことを模索してきた――そしてウデは、こう言います。

「この3月には、チェアを変えるんだ。シンゴを倒すためにね」

その変更とは、ひざを折り曲げて座るチェアに変えることで、打つ際に太股の力も使えるようにすること。「そうすれば、よりパワーのあるショットが打てる。特にバックでのリーチが増すはずだ」。秘策を隠すこともなく、ウデは明快に説明してくれます。

「だから3月以降の戦いを楽しみにしていてよ、特にローランギャロスをね!」

そう言い史上最強の世界2位は、笑顔を浮かべ自信ありげにウインクしました。

最強のライバルにして、最高の友――そんな言い方をするとなんとも陳腐に聞こえるかもしれません。それでもこの2人の関係を言い表すのに、それ以上の表現がないのも事実でしょう。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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