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英幼児殺害事件の実行犯の写真がツイッターに ー法務長官が法廷侮辱罪適用に動く

小林恭子ジャーナリスト

20年前に、英イングランド地方北西部リバプールで、2歳の幼児ジェームズ・バルジャー(James Bulger)ちゃんが、10歳の少年二人に惨殺されるという痛ましい事件があった。

ロバート・トンプソンとジョン・ベナブルズは幼児の誘拐・殺人罪で有罪となり、少年院に収監された。釈放されたのは2001年。新しい名前、身分が与えられての再出発だった。

このとき、両者の新しい身元についていかなる情報の出版も禁ずる命令が裁判所から出された。今でもこれは有効である。

現在までに、両者についての報道は現住所や容姿、現在の名前などが分かるような形ではほとんど出ていない。2010年にベナブルズが児童ポルノ規正法違反で逮捕されたときも、司法省はその詳細を公表しなかった。

しかし、バルジャーちゃんが殺害された1993年2月12日から20年を過ぎた今月14日ごろから25日ごろまでの間に、ツイッター上に現在30歳になるベナブルズあるいはトンプソンのものとされる写真が出た(ベナブルズの写真のみという報道もある)。

25日、ドミニック・グリーブ法務長官は、ベナブルズあるいはトンプソンのものであると称して写真を出したツイッター利用者に対し、法廷侮辱罪を適用する手続きを開始すると述べた。

法務長官の事務所のウェブサイトに掲載された、法廷侮辱罪の手続き開始の声明文によると、その写真が「ベナブルズあるいはトンプソンのものであった場合、また、もし実際には当人の写真でない場合でも、禁止令に違反と見なす」という。

法務長官は写真をただちに削除するよう、要請しており、26日現在、英国のネット上で関係者の名前を検索エンジンに入れても出ない状態となっている。

ベナブルズやトンプソンに似ている人物が当人と間違われ、危害が及ぶ危険性もあるため、報道禁止令が順守されることで、「ベナブルズやトンプソンばかりではなく、両者だと間違われた市民を守ることになる」。

報道禁止令の違反とみなされた場合、罰金の支払いあるいは禁固刑、あるいは両方の刑罰が下る場合がある。複数のツイッター利用者が対象となる可能性がありそうだ。

法務長官の声明文の最後のほうには、「暴力行為を奨励する、あるいはオンライン上で悪意ある情報を出版することは犯罪行為となる」という表記もあった。

果たして、これがネット上に写真が出回ることを抑制できるのかどうかは不明だが、少なくとも、警告はされたことになる。

26日午後、下院の内務問題委員会は、ソーシャルメディアと電子犯罪について公聴会を開いた。委員会に召喚された一人が、ツイッターの欧州・中東・アフリカ部門のパブリック・ポリシー担当者であった。

内務問題委員長キース・バーズ議員が、ベナブルズなどの写真掲載問題について尋ねると、ツイッターの担当者は、「個々のアカウントに関してはコメントできない」としながらも、「司法当局には協力している。違法なコンテンツがあった場合、こちらに連絡が来て、適切な処理をしている」と答えた。

ツイッターとしては、「世界中でネット上に出るつぶやきに対し、問題が起きる前に監視するわけにはいかない」とし、「オンラインでもオフラインでも、違法なものは違法だということに利用者が気づくことが重要だ」と述べた。

ツイッターのつぶやきが法律とぶつかったケースとしては、BBCの番組内で性的虐待の実行者として暗示された政治家(マカルパイン卿)が、ツイッター利用者相手に訴訟を起こしたケースが思い浮かぶ。

BBCの番組自体は政治家の名前を出さなかったので、ツイッター上で憶測を基にした情報が出回り、最終的に名前が特定されてしまった。しかし、BBCが人違いをしていたことが、後で判明した。BBCはマカルパイン卿に謝罪した。

マカルパイン卿はBBCから名誉毀損で巨額の賠償金を得た。当初はツイッター上で名前を特定した人全員を対象に訴訟を起こすつもりだったが、500人以下のフォロワーを持つ人は除外することにしたという。

ベナブルズの写真をツイッターに出したケースと、マカルパイン卿の名前をツイッターでつぶやき、損害賠償を求められたケース。

この2つのケースから私が感じるのは、「ネット上での情報の流布を止めるのは難しい・不可能だ」ということよりも、ツイッターがいかにメインの通信手段の1つになったか、社会的影響力が大きくなったかを示すエピソードだな、ということだ。

ネットは情報発信がとてもしやすい。しかし、オフラインで違法なことはオンラインでも違法・・・先のツイッター担当者の言葉が強く響くのである。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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