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「ヤギ殺し食べた」金正恩“エリート党員”も空腹限界

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
金正恩氏(平壌写真共同取材団)

北朝鮮が、全国的に進めている農村での住宅建設。機材が足りず、あっても燃料が不足して使えないため、都会から人を送り込み、人海戦術で進められている。

その中には、朝鮮労働党の党員からなる「党員突撃隊」がいる。都市党員は金正恩体制におけるエリート層だが、あまりにも素行が悪く、鼻つまみ者扱いされている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

現地の情報筋が伝えたのは、道内の雲興(ウヌン)郡の日建(イルゴン)労働者区にある精錬所での出来事だ。8月22日の深夜、11人の保衛隊員は武装した状態でトウモロコシ畑の警備を行っていた。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

そこに現れた2人の男。畑に忍び込んでトウモロコシを盗もうとしたところ、あっという間に保衛隊員に見つかり、激しい暴行を受けた。肋骨を折る重傷を負った2人は、病院に運ばれた。彼らは遠く離れた江原道(カンウォンド)からやって来た党員突撃隊員で、現地の事情に疎く、よりによって地元でいちばん警備の厳しい畑で盗みを働こうとしたのだった。

事件はこれだけにとどまらない。郡内の大五是川(テオシチョン)労働者区では同月14日、個人所有の畑でトマトを盗んでいた党員突撃隊員が、家の主人に見つかって激しい暴行を受けた。肩と腕を骨折した隊員は、もはや働けなくなり、江原道に帰っていったという。

別の情報筋によると、現地にやって来た党員突撃隊員は、基本的な食糧と塩、味噌以外のいっさいの補給を受けていない。

食糧とは言っても、量は1食あたり200グラムに過ぎず、中国産のコメとロシア産の麦を半々で混ぜたものだ。それすらも、突撃隊の指揮官が横流ししてしまい、実際に隊員に供給されるのは150グラムに過ぎない。また、味噌は、地元の恵山(ヘサン)基礎食品工場で製造されたものだが、単なる塩の塊に過ぎないという。

空腹に耐えかねた彼らは、食べ物欲しさにあちこちで盗みを働いている。豊西(プンソ)郡に派遣された咸鏡南道(ハムギョンナムド)の党員突撃隊員2人は、白菜を盗んだ罪で労働教化刑(懲役刑)2年、金正淑(キムジョンスク)郡に派遣された慈江道(チャガンド)の隊員4人は、協同農場から盗んだヤギを殺して食べた罪で、うち2人に労働教化刑2年、残りの2人に労働教養隊8カ月の刑が下された。

当局は厳罰で対応しているが盗みは収まらず、被害があまりにも広範囲に及んでいるため、全容すらつかめていない。警備を強化しても、広大な農場のすべてに監視の目を光らせるのは困難だ。農場の幹部は効果的な対策が立てられず、頭を抱えているという。

派遣先で盗みを働くのは、党員突撃隊員だけではない。災害復旧のために被災地に派遣された朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士も、現場で窃盗を繰り返す。金正恩総書記は激怒し、「盗みを働いた者は銃殺にする」と警告するも、あまり効果はなかったようだ。

充分な食事と生活必需品の供給さえあれば、ほとんどの被害は防げるのだが、まるで旧日本軍をお手本にしたかのように補給を軽視し、人を送り込むだけなのが北朝鮮のやり方だ。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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