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米大統領選挙直前時点で「マスメディアはクリントン氏にえこひいきをしている」との認識は52%

不破雷蔵「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者
↑ 米報道では演出と称する形で様々な印象操作に見える「報道」も

アメリカ合衆国の新大統領にトランプ氏を選択することとなった大統領(選挙人)選挙において、多様な方面で物議が交わされ、問題が指摘され、現在もなお尾を引いている。その一つが、選挙期間におけるマスメディアの報道姿勢。日本と異なりアメリカ合衆国では、虚言や不正、偽造行為でない限り、政治的な中立性が義務付けられているわけでは無く、組織・企業・媒体単位で支持政党や支持候補者を明言し、それに沿った情報公知をすることが認められている(エンドースメント)。

無論、公明正大・政治的中立が視聴者や読者から求められているニュース部門と、主義主張を成す編集委員会(による記事)は分離独立していると各マスメディアは主張しているが、それを信じている人は少なく、実際に記事や番組の上での区別はし難い。今回の大統領選では、その問題が改めて問われる状況を作り出したともいえる。今回は同国の民間調査会社ギャラップ社が2016年11月3日、つまり大統領選の直前に発表した調査結果「Majority of U.S. Voters Think Media Favors Clinton」※を元に、その状況を確認していく。

大統領選挙時においては多分の同国マスメディアがクリントン氏支持を表明し、その意に沿った(ように見える)報道、情報公知を成したことはよく知られた話ではある。日本ではマスメディアの情報はすべて公明正大・政治的中立性のあるものとの前提で外電として伝えられる傾向があるため(例えば「日本の」放送法では政治的に公平であることが定められているが、当然他国ではその縛りは通用しない)、確からしさ・中立性の点ではおかしなレベルの話が多分にそのまま伝わったことは否定できない。それが選挙後に日本において「伝えられていた情報と実情が違う」との違和感につながった大きな原因であろう。

今回の大統領選挙におけるマスメディアの情報公知、報道に関して、当事者であるアメリカ合衆国の大人たちはどのような印象を持っただろうか。報道に期待されている政治的公平性が果たされていたと認識していただろうか、それともいずれかの候補にひいき目な伝え方をしたように見えただろうか。各属性別に尋ねた結果が次のグラフである。調査は大統領選挙の選挙人選挙直前に行われたことに注意。

↑ 今回の大統領選挙に関しマスメディアはいずれかの候補にえこひいきをしたように思えましたか、どちらの候補も同等に扱ったように思いましたか(2016年10月27~28日、アメリカ合衆国)
↑ 今回の大統領選挙に関しマスメディアはいずれかの候補にえこひいきをしたように思えましたか、どちらの候補も同等に扱ったように思いましたか(2016年10月27~28日、アメリカ合衆国)

選挙登録者とは大統領選挙の選挙人選挙に投票する登録をした人のこと。回答者全員の回答状況も似たようなもので、グラフでは省略した。その登録者全体では52%が「マスメディアはクリントン氏にえこひいきをしている」と認識しており、公正明大に同等の扱いをしているとの見解を持つ人は38%。トランプ氏にえこひいきをしているとの認識は8%でしかなかった。

支持候補者別では如実な違いが出ている。クリントン氏支持者では同氏へのえこひいきとの認識は23%に留まり、公平感を覚えた人は63%。しかしトランプ氏支持者においては90%の人が「マスメディアはクリントン氏にひいきをしている」との見解を有している。これでは両候補者の支持者間で、マスメディアに対する印象が異なるのは仕方が無い。

支持政党別でも大よそ同じ結果が出ている。クリントン氏の民主党では25%がクリントン氏へのひいきを感じていたが、平等感を覚えた人は63%。しかしトランプ氏の共和党では80%もの人が「マスメディアはクリントン氏にひいきをしている」と感じていた。興味深いのは支持政党別で中立派にある人たちの回答で、この属性でも4割が「クリントン氏ひいき」と認識し、同等扱いを覚えたのは52%、トランプ氏へのひいきを感じたのは2%に留まっている。

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多くのマスメディアが企業・組織・媒体単位でクリントン氏の支持を表明し、それに基づく行動を見せたのは事実ではあるが、公明正大性が強く求められる「報道」の部門における情報公知にて、その意思に基づいて仕事が成されたのか否か、明確な指標による判断は不可能。例えば街頭インタビューで特定候補を非難する人ばかりを伝える、映し出される候補によって微妙に明るさやカメラの角度を工夫して見栄えの良し悪しを変える、語りの巧みな編集で印象を変える、解説者の口調や表情を意図的に変化させる、これらを具体的に数字化して比較することなど出来るはずがない。

とはいえプレス(報道)とオピニオン(論評)が多分に混じり合った状況では視聴者・読者が同一視してしまうのは無理が無く、また世論誘導的なものや印象操作の類が行われていた可能性も否定できない。発信力のあるマスメディアには、それだけの力がある。結果として、クリントン氏を支持する人ですら2割強の人が、トランプ氏支持者では9割もの人が、マスメディアの不公平感、クリントン氏へのえこひいきを感じていたことは事実ではある。

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※Majority of U.S. Voters Think Media Favors Clinton

今調査は2016年10月27日から28日にかけてアメリカ合衆国内に住む18歳以上の男女に対して電話応対方式で行われたもので、有効回答数は1017件。そのうち940人は大統領選挙人選挙において投票権を有していた。また携帯電話経由は6割、固定電話経由は4割で、それぞれ。RDD方式での選択となっている。

大統領選挙関連で問題視されている「電話応対や直接面談方式における『リスク』回避のための回答バイアス」だが、今件ではどちらの候補を支持するかの回答率ではなく、支持候補を答えた上での別の選択肢に対する回答であるため、実情との誤差は最小限に抑えられているものと考えられる。ただし実際には支持候補者回答時に、トランプ氏を支持しているにも関わらずクリントン氏を支持すると答えた者が少なからずいた可能性は否定できないため(逆はまず想定できない)、両候補者支持の属性間の差異は、現実にはもう少しそれぞれ極端な方向に動いたものである可能性がある。

「グラフ化してみる」「さぐる」ジャーナブロガー 検証・解説者

ニュースサイト「ガベージニュース」管理人。3級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)。経済・社会情勢分野を中心に、官公庁発表情報をはじめ多彩な情報を多視点から俯瞰、グラフ化、さらには複数要件を組み合わせ・照らし合わせ、社会の鼓動を聴ける解説を行っています。過去の経歴を元に、軍事や歴史、携帯電話を中心としたデジタル系にも領域を広げることもあります。

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