電力小売自由化を補完するため、電力先物取引も開始される
政府は2月28日の閣議で、商品先物取引の対象に「電力」を追加する商品先物取引法改正案を閣議決定した。
現行の商品先物取引法では、農産物や鉱物などの「有体物」のみを対象としているため、いわゆる「無体物」の取引は一切認められていない。このため、海外の商品先物市場では一般的な電力や天候などの先物取引も、国内では一切行われてこなかった。しかし、電力小売の自由化に向けて「電気事業法等の一部を改正する法律案」が閣議決定される中、それを補完する体制の一つとして電力を売買できる先物市場の創設が目指されることになる。
政府は今国会での改正法案成立を目指しており、今後は東京商品取引所(TOCOM)も具体的な商品設計に入ることになる。TOCOMは2013年度~2015年度の中期経営計画において既に「経済産業省において検討が進められている電力自由化の議論の方向性を注視しつつ、電力先物取引について検討を進める」と記しているように、電力先物取引開始に向けての動きは規定路線だった。その意味では今回の閣議決定は「漸く決まったか」というのが率直な印象だが、商品先物取引の歴史において一つの変革期を迎えているのは間違いない。
実際の電力先物上場にあたっては、商品取引所を管轄する経済産業相の認可も必要であるが、16年度中の上場が目処というのが市場関係者の見方である。
■電力自由化と電力先物は一体
東日本大震災の原発事故を受けて「電力」供給が日本経済のボトルネックの一つになる中、政府は電力システム改革を進めている。第1弾としては、既に電力が足りない地域への他地域からの電力供給体制が構築されている。そして、第2弾が電力小売の自由化、利用者が好きな電力会社を選択できるシステムであり、16年を目処に電力会社が独占している家庭向けの電力小売を自由化することになる。
電力小売を自由化すれば、携帯電話の通話料金のようにニーズに応じた様々な価格体系が提供されることや値下げ競争、更には機動的な電気料金の変動によって電力消費量そのものを削減することも期待できる。
ただ、電力会社にとっては電力価格変動のリスクを抱えることになるため、経営が不安定化する危険が高まることになる。こうしたリスクを軽減するために、電力先物取引を提供することで、電気価格変動による不確実性を排除することが目指されている訳だ。例えば、他社から電力を調達して販売する業者にとっては、猛暑などで電力価格が上昇すると、調達コストが売却価格を上回り損失が生じかねない。しかし、先物取引を活用すれば、あらかじめ夏場の調達価格を固定することが可能であり、電力価格に左右されない安定的な経営環境を実現できる。
また、これまで大手電力会社の意向によってほぼ一方的に決まっていた電力価格に市場原理を導入することで、経済合理性にかなった需給システムの構築に寄与することも期待できる。供給が足りない時は価格が上昇して需要を抑制するなど、これまでに十分に機能してこなかった需給理論によって、電力供給体制そのものの安定化も期待できる。
電力自由化で先行する欧州の例をみても、自由化の動きと電力先物取引拡大の動きは一体化しており、北欧では実際の電力消費量の2~3倍が先物取引で売買されているといわれる。
もちろん、投機マネーの流入によって先物価格が乱高下し、電力現物価格が不安定化する懸念が存在しない訳ではない。ただ、世界の潮流は電力先物取引にはそれ以上のメリットがあるというものであり、日本経済にとってもプラス効果を及ぼすことを期待したい。