業者出演のテレビみて出演心が不安定に ひきこもり「自立支援」うたう悪質業者のトラブルに注意
先月から相次いだ殺傷事件の加害者や被害者が「ひきこもり」状態にあったと報じられたことで、今週にかけて、「暴力的支援団体」「引き出し業者」と呼ばれる、各地の共同生活型の「自立支援」施設を取り上げるメディアが増えた。
すべての共同生活型の支援施設にトラブルが起きているわけではないが、なかには、脱走者が頻出していながら、高い自立率をうたっている施設もある。「暴力的」と称されるわけは、入寮させる際に、罵倒を含めた長時間の説得や、手足を掴んで強引に運び出すといった拉致的な手法をとることもあるためで、家族会や全国の支援団体でつくる協議会がトラブルに巻き込まれないよう注意を呼びかけている。今回の一連の報道で、こうした施設の強引な手法の「支援」に激しく傷つけられた人のなかには、「平静でいられない」と訴える人も出てきた。
■3ヶ月の契約後、延長で追加契約も
暴力的手法をとる引き出し業者の特徴は、共同生活型で、法外ともいえる高額な契約を親や家族・親族と結び、ひきこもり等の対象者を強引に入寮させる点だ。1ヶ月で約60万円前後、3ヶ月で約200万円~500万円が相場といわれるが、「3ヶ月ではひきこもりは治らない」などとして、さらに数百万円の延長料金を出させる場合も少なくない。
こうした施設からの脱走者や卒業者らによると、施設側がウェブサイトなどで盛んに「自立支援」をうたう割には、自立プログラムは極めて脆弱で、「放置型」や、延長による追加支援を目当てにした「自立阻害型」も珍しくないのが実情だという。
■民放とネット放送局の計5局7番組
2016年の創刊時から、「暴力的支援団体」をテーマに発信を続けてきた、「ひきこもり新聞」の木村ナオヒロ編集長が5日までにまとめたところによると、川崎殺傷事件後からの8日間で、少なくとも民放とネット放送局の、計5局7番組が、こうした強引な手法を取る「自立支援」施設を取り上げた。
なかには、施設の関係者をゲスト出演させ、「専門家」や「有識者」のように扱っていた番組も複数あった。
また、4日に放送された番組で、ある「自立支援」施設が、自治体ごとに設置されている「ひきこもり地域支援センター」との連携体制があるかのように紹介している番組もあった。しかし、筆者が、その施設の所在する各自治体に確認したところ、いずれの担当課ともに、「知らない団体だ」「外部の支援団体に個別に紹介や連絡はしていない」「相談者の利益にはそぐわないため、相談者への情報提供も考えられない」との回答だった。
■各声明文にも、暴力的支援団体に関する注意喚起は掲載されている
31日以降、ひきこもりの当事者団体、家族会、支援団体が声明を発表し、メディアに対する慎重な報道姿勢を求めたその声明文のなかにも、暴力的支援団体や引き出し業者に関する注意喚起は、掲載されている。
また、「暴力的支援団体」とは触れていないが、国も2018年2月28日から、ウェブサイトで消費者被害防止に向けた注意喚起を掲載している。
■複数の裁判が進行中
現在、こうした強引な引き出し手法を行う業者を相手取り、被害者や契約した家族らが、施設の運営会社に損害賠償や慰謝料を求めた3件の裁判が東京地裁で進行してる。さらに、訴訟準備中の件もある。
筆者のもとにも、こうした施設を逃れてきた人たちから、被害を訴える連絡が頻繁に来ている。彼ら・彼女らも、この約1週間の報道内容をみていて、居ても立ってもいられずに、各局にクレームを入れた人もいる。
昨年、こうした施設のスタッフによって、連れ出されたという30代の女性Aさんは、「私を拉致しに来た人がテレビに出ていた。施設への怒りと、受けた心の傷の悲しみが同時に込み上げてきて、平静でいられない」と訴える。Aさんは、両手・両足を掴まれてひきずられるように車に運び込まれた。施設から脱走して数ヶ月が経ついまも、連れ去られる夢をみては叫び声を上げて飛び起きるなど、フラッシュバックが繰り返されているという。
また、2016年に別の施設で連れ去りに遭った関東地方の女性Bさん(当時20代)は、ひきこもっていなかったのに「暴力をするひきこもり」として扱われ、連れ去られた。脱走してから2年近くが経ついまも、重いPTSDに苦しんでいる。Bさんは、アルバイト探しを希望しても、当初は「あなたにはまだ早い」などと先延ばしされ、自立を阻害されていたという。
Bさんを施設に入れるために、3ヶ月で約570万円もの契約をしてしまった60代の母親は、今回の一連の報道を観て、「娘や私と同じような被害者が出てほしくない」と、テレビ局にクレームを入れたひとりだ。
「子どものことで悩み、親として何かにすがりたい状況のときに、『今なんとかしないと大変なことになる』などと煽られる報道が続いている。業者にその『なんとかしたい』気持ちを利用された私の場合は、結局、お金を取られただけだった。娘への自立プログラムもなかった。テレビには、自立を果たしたような当事者たちが映されているが、施設にとって都合のいいひと握りだと知ってほしい」(Bさんの母親)
また、都内に住む30代の男性も、大学生だった数年前、連れ去り被害に遭った。就職活動中に脱走を試みたことはあるが、本来のルートを外れると、後を付けてきていた複数の監視スタッフに後ろから羽交い締めにされ、施設へ連れ戻された。男性は、「そういう施設が、『良い支援』をしているかのように取り上げられるのは、普通におかしい」と話す。
■専門性はあるか 確認できるか 自由はあるか
共同生活型の施設の利用は、人権上、吟味すべきポイントがある。入寮時の「同意」は、強制やだまし討ちといった手法でないか。子どもの個々の事情に応じた支援計画や、それに応じた専門家の存在や、事前の説明通りに支援が実施されているかを「客観的に」「いつでも」「自由に」確認できるかどうか。また、子が望んだり、親が望んだ際に、施設側に管理されずに自由な状態で会えるか。外鍵や内部の監視カメラの存在で、子どもの生活空間が、物理的・心理的な自由を制限するものでないか。さらに、施設でカウンセリングやインターネットの利用をしても、プライバシーが守られるか、といった点だ。身体障害や精神障害を持つ人を、遠方の施設に連れ去り、長期間通院もさせていなかったという報告もある。
親は、決死の思いで脱走した子どもが実情を訴えたり、心を殺してやり過ごして「卒業」した後に、初めて、真相を知るという場合も少なくない。
Bさんの母親は、こう言い切る。
「威嚇するような連れ出し方をする施設のやっていることは、支援などではありません」
■当事者有志と連動し、家族会が被害把握へ
ひきこもり当事者・経験者の有志でつくる「暴力的『ひきこもり支援』施設問題を考える会」は先月下旬、全国に53支部をもつKHJひきこもり家族会連合会に対し、協議の場の設置と、暴力的な手法で引き出すひきこもり「自立支援」業者についての態度を公式に表明するよう要望した。
要望書のなかで、同会はこう訴えている。
「子どもの将来を思って、業者と契約したいと考える親も多いと思います。でも、暴力的な手法を厭わない業者を用いて、本人の意志に反して引き出す行為を強いれば、子どもに一生拭えないほどの傷を負わせ、家族の間の信頼関係も決定的に崩壊することになります」
同会では、すでに、「ひきこもり当事者の権利宣言」や「報道ガイドライン」の作成に着手しており、今後は家族会や当事者団体とも連携し、識者や業界の声も集めながら、草案を練り上げていきたいとしている。
同会からの要望を受け、KHJ家族会も、今月から対応に乗り出すことを決めた。まずは今月下旬、内部の会議で、連れ去りの被害者からヒアリング行う予定だ。