Yahoo!ニュース

DUCATI「Xディアベル」試乗レポート 【ドゥカティが初めて挑んだロースピードの美学】

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
DUCATI XDiavel S

Xディアベルはクルーザーの世界感である低速でのリラックスした走りやロングツーリングでの快適性と、ドゥカティ本来の洗練されたイタリアンデザインや先進のテクノロジーとハイパフォーマンスという2つの相反する世界を妥協することなく融合した、ドゥカティの中でも異端とも言える存在である。

画像

ディアベルとは異なる個性

従来のディアベルとはどこがどう違うのか?

これは多くのユーザーが疑問とするところだろう。強烈な個性を放つスタイリングはどこから見ても、紛れもなくディアベルであることは疑う余地もないのだが、ディテールを見ていくと同じところがほとんどないと言ってもいい。

顔つきも違えば、そこからつながるタンクやカウル形状、エンジンそのものも違えばそのフレームへの搭載の仕方、ホイールやマフラーのデザイン、後輪の駆動方式さえ異なる。

キャスター角やホイールベースなどの車体ディメンションもだいぶ違っている。粗っぽい言い方をすると、ディアベルを前後に引き伸ばして上から潰して、とびきりゴージャスに仕上げた仕様とも言える。つまりは、まったく異なるモデルなのだ。

その意味では、ディアベルではない新しい名前をつけても良かったかと思うほど。その証拠にドゥカティでは、Xディアベルで初めて「クルーザー・セグメント」という表現を使っている。

画像

ライポジは完全なクルーザー

跨ってみると、シート高は750mmと数値的にはSTDのディアベルと同じで、クルーザーとしてはやや高めだが、車体が絞り込まれているため足着きは良い。ほとんどの日本人が両足ベタ着き可能なレベルだろう。

ただ、異なるのはライポジで、ディアベルに比べるとハンドルが遠めで、ステップ位置がだいぶ先のほうにある。ディアベルがミッドコントロールなのに対し、Xディアベルは完璧なフォワードコントロール。明らかに北米マーケットを意識した大柄なライポジで、この事実をもってまずはクルーザーと定義できると思う。

画像

トルクに乗せたローレブな走りが気持ちいい

搭載するエンジンは、ストロークアップによって排気量を65ccアップの1262ccとした、テスタストレッタ DVTデュアルスパーク L型2気筒水冷 デスモドロミック4バルブ。

スーパーバイク並みの156psの最高出力もさることながら、特筆すべきはディアベルより1000rpm以上低い5000rpmで13.1kgmの最大トルクを、さらにはわずか2,100rpmでその8割近いトルクを発揮するエンジン特性にある。ちなみに最大トルクは「ムルティストラーダ1200」と同じ数値を誇る。

画像

「ロースピード・エキサイトメント」のコンセプトどおり、高速巡航でも速度はそこそこに抑えつつ、一段高めのギヤで3000rpmぐらいで流すのが「X」流の楽しみ方。ロングストロークLツインらしいドコドコ感を最も鮮明に味わえると思う。

新型ムルティに初めて投入されたDVT(デスモドロミック可変タイミング)システムがこの「X」にも採用されたことで、全回転域でスムーズかつ力強いトルクがスロットルひとつで取り出せるようになった。その気になれば、いくらでも回せるエンジンではあるが、一番美味しいのはやはりローレブゾーンだ。

DVTの恩恵は日常域でも発揮された。今回の試乗コースは都市部が中心で途中、首都高の渋滞にも巻き込まれたが、ほとんど歩くような速度域でも粘りが効いていてエンストの恐れなし。従来のドゥカティLツインがやや苦手としていた極低速でのコントロール性が格段に高まっていると感じた。日本の道ではことさら有難いことだ。

画像

身のこなしは見た目以上に軽やか

ハンドリングだが、STDのディアベルの「あの形」にして驚異的な旋回性能に比べると幾分穏やかではあるが、そこはドゥカティが定義するクルーザーだけにそのセグメントには似つかわしくない切れ味を持っている。ロングホイールベースを生かして高速巡航での安定感は抜群だが、いわゆるビッググルーザー的などっしりとした重厚感とは異なる次元の軽さを持っている。

画像

たとえば、レーンチェンジなどでも、前に投げ出した足でステップを軽く踏んだり、ワイドなハンドルバーに少し入力するだけで機敏に車体が反応してくれる。大黒PAのひたすら続く長いループでは、240ワイド扁平タイヤの絶大なグリップ感に身を任せながら、車体をペタッと寝かせて豪快なコーナリングを楽しめたし、一方では都心の交差点でヒラリと身を躍らせる爽快感も味わえた。予想どおりだが、ハンドリングは見た目以上にスポーティである。

画像

スーパーバイク譲りの電制を惜しみなく投入

スーパーバイク譲りの電子制御も際立っている。雰囲気を楽しむクルーザーは一般的には先端技術から最も遠い存在になりがちだが、こと「X」にはライディングモードやボッシュ製加速度測定ユニット(IMU)に裏打ちされた、ドゥカティ・トラクション・コントロール(DTC)やライディングモード、コーナリングABSなどが標準搭載されている。

ちなみにライディングモードは「スポーツ」「ツーリング」「アーバン」の3種類で、ボタンひとつでけっこう変わり映えするが、都会をゆったり流すにはエンジンに急かされない「アーバン」が気持ちいい。トラコンやABSも作動時のキックバックが少なく滑らかだ。

画像

新たに装備されたクルーズコントロールは首都高レベルでは本領を発揮できなかったが、きっと新東名などでは快適だろう。また、スロットル全開のまま安全にフル加速をコントロールしてくれるドゥカティ・パワー・ローンチ(DPL)も、公道ではもちろんトライすることはできず、機会があればサーキットなどで体験してみたいと思った。

マシニング加工の煌めくパーツ類と光沢を放つブラックボディが印象的な上級モデルのSタイプは、Xディアベルの中でも特に美しいモデルだ。ある意味で1299パニガーレとは対極にある優雅さのフラッグシップとも言えるかも。

性能だけでは語り切れないエレガントな魅力を持ったモデル、タキシードやドレス姿が似合う数少ないモーターサイクルだ。

画像

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

佐川健太郎の最近の記事