快進撃を続ける若手ミュージカルスター・三浦宏規、全身の痛みに耐え闘う理由とは!?
5歳で熊川哲也さんに憧れてバレエを始め、数々のコンクールで入賞して将来を嘱望されるも、ケガで断念。ミュージカルの世界に飛び込み、『レ・ミゼラブル』では史上最年少でマリウス役に抜擢され、『千と千尋の神隠し』ではメインキャスト・ハク役で更に評価が高まりました。確実にキャリアを重ねる三浦宏規(ひろき)さんが、最新作『キングダム』で帝国劇場初主演を務めます。
―バレエ少年だったそうですね。
5歳の時に熊川哲也さんをテレビのドキュメンタリーで見て、すべてに魅了されました。ジャンプも回転もカッコよくて、舞台を降りたらサングラスをかけて車に乗っている姿もまたカッコイイ~!他の子供が「仮面ライダー」に憧れたのと同じ感覚で、僕にとってはそれが熊川さんでした。
すぐに近所のバレエ教室に通い始め、中学校からは本部のある愛知県名古屋市に、三重県から通いました。卒業したら今度は東京で…というところだったのですが、ケガをしたため手術をしたら膝のラインがボコっと出てしまったんです。
リハビリのおかげで痛みはないから踊ることに支障はないのですが、白タイツになった際に足のラインが美しくないと意味がないんです。どれだけ高く飛んでも、どれだけそらしても、足が伸びて見えない。バレエダンサーとしては致命的です。これがバレエを諦めた大きな理由です。
―そこからミュージカルに?
最初に『恋するブロードウェイ♪』というコンサート作品に出ることになって、初めてバレエ以外のエンターテインメントに触れました。それまではバレエ以外何も知らなくて、ジャニーズの「嵐」も知らなかった。給食の時間に流れている音楽を聞いて「これが『嵐』なんだ」というレベル(笑)。通学中に聴く音楽もクラシックだったので、人間が初めてエンターテインメントに触れたような衝撃を受けました。
それまで、自分は何でもできると思っていたんです。バレエの技なら何でもできたし、勉強もスポーツもそれなりにできたので「僕は何でもできる」と思っていたのが、15歳で鼻をへし折られました。歌の経験がなかったので当然歌えない。
周りは海宝直人さん、内藤大希さんと上手い人ばかりの中で全然歌えなくて、こてんぱんに言われました。その悔しさがエネルギーになり、「何でもできるようになってやる!」と歌を練習して作品を見たりしているうちに、気がついたらミュージカルを好きになっていました(笑)。
―ミュージカルの『テニスの王子様』『刀剣乱舞』等、2.5次元で人気が出ましたね。
10代の青春すべてを捧げた作品です。まだ何もない自分がいられた場所で、そこで会った仲間・スタッフさんは宝物です。『テニスの王子様』は大人のキャストさんがほぼいない、10代の男の子ばかりで、演出家や振り付けの先生は大変だったと思います。今でも(『刀剣乱舞』で兄弟役を演じていた)高野洸は戦友であり、親友です。
―ミュージカルの魅力は?
劇場に入って客席に着いて、ざわざわした雰囲気がシーンとした空気に変わっていく、オーケストラのチューニングが始まって幕が開く瞬間の高揚感ですね。そして素晴らしい作品を見た後、カーテンコールの拍手までの一瞬の間がたまらないです。あれを体感できるのが生の舞台の夢を与えてくれる時間だと思います。
最初にすごく感動したのが『レ・ミゼラブル』で、ジャン・バルジャン(主人公=苦しみの中、慈愛に溢れる人生を送る)がカーテンコールで笑って出てきたことに大号泣しました。作品の良さもさることながら、すべてに虜になりました。その後、同作にマリウス役で出演できたことは、苦労は多かったですが貴重な経験です。
―一番の苦労は何でしたか。
経験がなさすぎることです。バレエ一筋でやってきただけで右も左も分からない。各所で揉まれ、先輩方のお芝居を観て話を聞いて、すべて現場で学びました。もちろん自分でレッスンにも行きますが、実際に現場で悔しい思いをして、どうにか掴みに行こうとした時が一番自分のポテンシャルを発揮できる、伸びる瞬間だと感じます。それが分かっているので、毎回苦しい舞台が多いですが、また次のステージに進めると思えるし、「悔しい」という気持ちが僕にとっては大事です。
―2022年の『千と千尋の神隠し』では、演じたハクが回転して飛ぶところで「三浦宏規のトリプルアクセル!」と話題になりました。
実際は2回転です(笑)。トリプルアクセルは3回転半ですからね。あれはオーディションの時、演出家のジョン・ケアードさんに“ハクが竜に変わるところを舞で表現する考えがある”と聞いていたので、自分で振り付けを作って見てもらいました。
ハク役に決まって稽古に入ったら、やはり竜に変わるシーンは舞で表現したいとおっしゃって「何かできる?」と聞かれました。「このルートを通ってジャンプで竜に入れ替わること」は決まっていたので、ジャンプの仕方・高く飛ぶ・平行に飛ぶ・回るなど色々提案した中で決めていただき、確かに効果的なシーンになったと思います。
―最新作は『キングダム』ですが、決まった時の心境は?
まず、『キングダム』を舞台化するということに驚きでした。そして自分が主役の“信(しん)”を演じること、しかも帝国劇場で。「何のこっちゃ、わけがわからない!」が最初の心境です。しかも、これまでやってきたミュージカルでもない…喜びと驚きと様々な感情が入り乱れました。あの世界をどうやって舞台でやるのだろうと想像がつかないところから、ワクワクする気持ち、そして自分がやるというプレッシャーへ、時間とともに色々な感情が交錯しています。
―かなり稽古が大変だと聞きました。
間違いなく、これまでの中で最も大変です。戦いの話なので、立ち回りや殺陣がもちろん多くて。そのうえ、自分が演じる“信”は、下僕から成り上がっていく、キャラクターとしてもすごく泥臭くてやんちゃな少年役なので、ずっと戦っているんです。
その戦い方も、圧倒的に強いから勝つのではなくて、絶対に勝てない相手に自分の限界を超えたところで勝つ、という内容。もう、リミッターを外しきっていかないといけないシーンの連続なので、稽古もなかなか冷静にできません。
お芝居もテンションも100%でやりたいですけど、そうすると頭に血が上ってずっと叫んでいるので、本当に周りも見えなくなります。でも、100%でやっておかないと、後で調整するのが大変になるのでやらざるを得ない。立ち回り・セリフを覚えて100%で床を転げ、階段を転げ、人に蹴られ…という日々です。
―切れのある動きは三浦さんの強みですよね。
普通よりは動ける方だと思います。ダブルキャストの高野洸も体がすごく動くんです。だから「僕たちは体が少し動く方だから良かったね」という話はしましたが、それでもしんど過ぎて体がバキバキになってます。これまでやってきたダンスと、人を殺しに行く動きは全く違います。
―体がバキバキなのは筋肉痛ですか。
筋肉痛ではありますけど、どういう痛みか自分でも分からないです。ダンスやバレエをやっていても筋肉痛になることはありますし、どんな作品でもどこか痛いものです。でもここまでの痛みは初めてです。背中・腰・お尻・足・足首全部です。
ケガはしていませんが、じっとしていると固まって冷えてしまうので常に動かしておかないといけないし、今座っているだけで痛いです(笑)。でも早い時期に自らを痛めつけておいた方が後々楽だし、不思議なもので稽古になれば体は動くんです。これを読んでもらう頃にはしっかりできるようになっているはずです(笑)。
―今後やりたいことは?
いっぱいあります!アメリカのブロードウェイを見てみたいし、オーディションも受けてみたい!いろいろなものに触れて視野を広げたいですし、日本でも素敵な作品をクリエイトしていきたい。今回の『キングダム』がそうですけど、日本オリジナルの作品を世界に発信していきたいです。
■インタビュー後記
これまで舞台を拝見してきて、高い身体能力と動きの美しさに目を引かれてきました。そんな三浦さんが、満足に座っていられないほどの稽古を積んで取り組んでいる姿は、絶対に舞台で観たいと思わせてくれます。素顔はまだ少年っぽさを残していて、周りにいる人たちが親のような目で見守っていたのも印象的でした。
■三浦宏規(みうら・ひろき)
1999年3月24日生まれ、三重県出身。5歳からクラシックバレエを始め、「第22回全国バレエコンクールin Nagoya」男子ジュニアA部門1位、「第18回NBA全国バレエコンクール」コンテンポラリー部門第3位など、数々のバレエコンクールで入賞を果たす。2015年『恋するブロードウェイ♪』に出演後はミュージカルの舞台に進出。2016年ミュージカル『テニスの王子様』、2017年ミュージカル『刀剣乱舞』で人気を博し、2018年に『刀剣乱舞』で『NHK紅白歌合戦』に出演。2019年『レ・ミゼラブル』のマリウス役に史上最年少で抜擢される。以後、『GREASE』『千と千尋の神隠し』『ヘアスプレー』など話題作でメインキャストを務める。『キングダム』は2/5~27、東京・帝国劇場にて。東京公演後、大阪・梅田、福岡・博多、北海道・札幌でも上演予定。