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新興国でも財政赤字拡大で国債増発、頼みは中央銀行

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 むかし、むかし、国王と呼ばれた人は財政難となった際に国民に借金をしたが、その金利は非常に高かった。これは踏み倒されるリスクが高いからであった。しかし、欧州の一部の国で、王様ではなく議会が借金をするという仕組みを作った。その担保は将来の税収となった。これが国債である。この国債の金利は国王への借金の金利に比べて低く抑えられた。将来の徴税権という担保があったことで、信用度が格段に違ったのである。

 そして、通貨を発行する機関として中央銀行という仕組みも欧州で始まった。中央銀行は、市場の資金調節の一環として国債を売ったり買ったりする仕組みも取り入れた。そして、景気の浮揚策、もしくは止むに止まれず、日本やドイツなどで中央銀行が国債を直接引き受けるという仕組みが取り入れられた。しかし、これは結局、国債そのものの信用度を低下させ、ハイパーインフレの原因とされた。このため、欧米の主要国、そして日本でも中央銀行による国債引き受けは禁じられている。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により、各国は財政出動を余儀なくされ、これは新興国も同様となり、中国をはじめとする新興国主要40か国の財政赤字は急激に拡大していると27日付けの日本経済新聞が報じた。

 新興国全体の財政赤字は3兆ドル超と前年の2倍強に膨らみ、大半を国債で賄うと仮定すれば、新規発行額は3兆ドル前後にのぼる。過去に発行した国債の借り換え(1.5兆ドル前後)を含めた発行総額は5兆ドル近くに膨らむ可能性がある(27日付け日本経済新聞)。

 この国債の買い手として存在感を高めているのが中央銀行である。国債などの債券購入プログラムを公表した新興国の中央銀行も多い。なかにはインドネシアのように中央銀行が政府から国債を直接買う直接購入にも乗り出した国も出てきた。

 新型コロナウイルスの感染拡大は収まるような兆候はない。ワクチン開発への期待も強いが、仮にワクチンが開発されても、新型コロナウイルスの感染拡大が収まるには時間を要しよう。その間、頼りになるのは国の財政政策であり、その原資は国債で補われ、その債務へ大きく関与するのが中央銀行となる。

 この動きは現状、致し方がない。すでに日本の予算規模も補正を合わせると160兆円という規模に膨らんでいる。国債の増発も過去最大規模となっている。

 新興国も同様に債務が大きく膨らんでいる。それを中央銀行が助ける格好となっている。MMTという言葉も最近は聞かなくなっているが、新型コロナウイルスによってMMTという考え方が試されているともいえる。MMTとは自国通貨建てで政府が借金して財源を調達しても、インフレにならないかぎり、財政赤字は問題ではないという主張である。これは果たして正しい見方なのであろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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