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「お前なんか勘当だ!!」~法的に親子の縁を切ることは可能なのか

竹内豊行政書士
親子の縁を切る「勘当」は、法的にできるのでしょうか。(提供:イメージマート)

加藤昭一さん(仮名・65歳)の長男・太郎さん(仮名・28歳)は、大学に入学してから遊びをおぼえ、バーに入りびたり、女性関係も派手で、とうとう大学を中退してしまいました。昭一さんが何度も就職先を探してやっても長続きせず、「まじめにやり直すから」と言っては昭一さんから金をせびり、「結婚する」と言っては資金を出させるといった始末です。

先日のお盆休みに、太郎さんがひょっこり実家に戻ってきて、昭一さんに「オヤジ、今度こそ真面目にやり直すから、開業資金に1千万円貸してくれないか」と言ってきたので、「何をするんだ?」と聞いても具体的な話は全くありませんでした。

昭一さんは、さすがに堪忍袋の緒が切れて「お前に今までいくら金を貸していると思っているんだ!お前とは親子の縁を切る。勘当だ!」と怒鳴ったところ、太郎さんは逆切れして昭一さんを突き飛ばしてしまいました。

「勘当」とは、一般に、親子の縁を切るということを意味します。そこで、今回は、「勘当」を法的観点から見てみたいと思います。

親子関係は「実子」と「養子」の2つがある

親子関係の始まりは、一般的に子の出生による血縁に基づく実子と人為的に親子関係をつくる養子縁組の2つがあります。

養子縁組を解消する場合、養親と養子の両者の合意によって解消することができます(民法811条1項)。

民法811条1項

縁組の当事者は、その協議で、離縁をすることができる。

一方、血縁関係の親子の縁を切る、いわゆる「勘当」は法制度としては存在しません。ただし、相続資格を剥奪する廃除という制度はあります。そこで、廃除について見てみることにしましょう。

相続人の「廃除」とは

廃除とは、被相続人(相続される立場の人)からみて自己の財産を相続させるのが妥当でないと思われるような非行や被相続人に対する虐待・侮辱がある場合に、被相続人の意思に基づいてその相続人の相続資格を剝奪する制度です。

民法892条(推定相続人の廃除)

遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が、被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは、被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。

廃除は相続権の剥奪という重大な効果が発生するため、被相続人の恣意(思いつき)で行われることを防ぐ必要があります。そこで、民法は廃除を行うことができる条件として、被相続人に対する虐待もしくは重大な侮辱または、その他著しい非行がある場合に、被相続人から家庭裁判所に廃除の請求をすることができるとしました。また、遺言によっても廃除の意思を表示することができます(民法893条)。

民法893条(遺言による推定相続人の廃除)

被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

このように、実の親子の縁を切るという「勘当」は、法的には存在しませんが、間接的に廃除によって相続の場面で「勘当」に相当する意思を実現する道があります。

子どもから虐待を受けている、侮辱をされている、または子どもの著しい非行に悩まされているといったことで、相続権を剥奪したい場合は、廃除という手段があることを覚えておくとよいかもしれません。

※この記事は、民法と判例を基に作成したフィクションです。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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