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慢性化した北朝鮮の「豪雨被害」 それでも韓国の支援は拒否!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
平安北道新義州の水害(朝鮮中央通信から)

 北朝鮮が「戦勝記念日」と称している朝鮮戦争休戦協定日の7月27日から降り続いた豪雨により中朝国境を流れる鴨緑江が氾濫し、平安北道・新義州市と義州郡では約4100世帯の家屋と3000ヘクタールの耕地、公共施設、道路、鉄道が浸水した。人命被害も少なくとも800人以上と推定されている。中国と国境を接している慈江道でも豪雨による被害が発生し、道路や鉄道及び公共施設などが破壊され、甚大なダメージを受けていた。

 しかし、北朝鮮の洪水被害は驚くにはあたらない。恒例化、慢性化しているからだ。北朝鮮はこれまでも何度も台風、豪雨に見舞われ、大きな被害を出してきた。主な災害を年度別にみると、以下の通りである。

 ▲2005年 朝鮮半島解放60周年のこの年は6月から8月にかけて断続的に降った集中豪雨で死者・行方不明者500人浸水家屋1万4千戸の被害を出した。

 ▲2007年 史上初の核実験を行った翌年の2007年8月は平壌市、黄海北道、平安南道、江原道を中心に降った大雨で死者・行方不明者600人浸水家屋24万戸被災民は90万人に達した。さらに9月も18日から21日の3日間の集中豪雨で家屋1万4000戸が浸水し、約13万ヘクタールの農耕地が冠水した。

 ▲2012年 6月から8月にかけ北朝鮮全域が水害に見舞われ、死者300人、行方不明者600人、被災者29万8050人も出している。倒壊、浸水家屋は延べ8万7280戸に達した。

 ▲2015年 経済特区に指定された咸鏡北道・羅先市で洪水が発生し、死者40人、被災者1万1000人を出し、公共施設99棟、鉄橋51か所が倒壊、流出、破損した。

 ▲2016年 咸鏡北道一帯で8月29日から9月2日の間に発生した洪水被害は死者138人、行方不明400人倒壊、流出家屋2万9800戸被災者延べ14万人。この他に、破損した公共施設900棟、道路180か所、崩壊した橋60本以上、そして2万7440ヘクタールの農耕地が浸水した。ちなみにOCHA(国連人道主義業務調整局)の報告書(7月20日)によると、配給は一人当たり300グラムに減少し、170万人の幼児を含め1050万人が食糧不足に陥った。国連が飢餓防止のために定めた最低量458グラムである。

 ▲2020年 新型コロナウイルスを防止するため国境を封鎖していたこの年は8月初旬に穀倉地帯である黄海北道、黄海南道が記録的な洪水被害に見舞われた。被害状況について北朝鮮当局は「1万6680棟の家屋と630棟の公共施設が破壊され、3万9000ヘクタールの農耕地が被害を受けた」と発表していた。江原道地域も9月に台風が直撃し、中心都市・元山市(人口約36万人)は降水量が9月2日から3日にかけて200ミリに達する暴風雨に見舞われ、9月4日の時点で数十人の死者を出した。

 被災地を訪問することのない金正恩(キム・ジョンウン)総書記が珍しく自ら被災地の黄海北道・銀波郡大青里に赴き、自分用に備蓄しておいた穀物や物資を被災者に支援するよう指示したほど集中豪雨の被害は深刻だった。当時、韓国の情報機関・国家情報院(国情院)は「金正恩が最高指導者に就任してから最大の被害を記録した2016年よりも農地の冠水被害が大きかった」と分析していた。

 ▲2023年 台風6号、7号が直撃した穀倉地帯の平安南道南浦の安石干拓地で堤防が決壊し、水稲を植えた270余ヘクタールを含む総560ヘクタールの干拓地区域が冠水した。江原道の高城郡では20時間に324ミリの豪雨を記録し、そのため大雨と高潮で堤防が決壊し、200ヘクタール余りの農地が冠水し、平壌近隣も例外でなく、公共建築物の損壊や農作物の被害などがあった。

 何といっても北朝鮮にとって建国以来最悪の年は1995年であろう。

 この年は7月31日から8月18日に北朝鮮全土を襲った集中豪雨と洪水による被害は、死者・行方不明者こそ不思議なことに68人と少なかったものの、国連人道援助局(DHA)の報告では▲国土の約75%にあたる8つの道(県)と145の市、郡が被害にあい▲全人口(2300万人=当時)のうち520万人が被災し、そのうち10万世帯、約50万人が家を失っていた被害総額は驚いたことにGNPの4分の3にあたる150億ドルに達していた。

 当時、北朝鮮の1日の配給は100グラムしかなく、ユニセフやWFP(世界食糧計画)の報告では7才以下の児童の栄養失調状態は62%に達していた。2年後の1997年に韓国に亡命したファン・ジャンヨプ元労働党書記の証言ではこの飢饉で「50万人が餓死した」とされている。

 韓国政府及び赤十字社は「北朝鮮に人道支援を行う用意がある」と手を差し伸べているが、北朝鮮は融和的だった文在寅(ムン・ジェイン)政権下の2020年の時ですら「外部からの支援は受けない」(金総書記)と断っていた。

 北朝鮮にとっては尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権下の今の韓国はもはや同胞ではなく「敵国」扱いにしていることから韓国の援助を受け入れる可能性はゼロに等しいであろう。現に、今朝の労働党の機関紙「労働新聞」は社説で「我々の力で、我々の手で乗り切れる」と、人民に自力更生を呼び掛けていた。

 北朝鮮は過去には韓国から1995年15万トン、2000年30万トン、2002年40万トン、2004年40万トン、2005年50万トン、2006年10万トン、2007年40万トン、2010年5万トン、2019年5万トンとこれまで合計で235万トンのコメ支援を受けてきた。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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