増加する精神科医、減る外科・産婦人科・内科医
過疎化が進むに連れ、過疎地域における医師不足が社会問題としてスポットライトを当てられるようになった。また少子化の原因の一つに、産婦人科医・病院の減少によって、出産場所の確保が困難である現状を指摘する人も少なくない。それでは日本の医師数はどれほどで、どのような変化を遂げているのだろうか。今回は医療インフラを支えるさまざまな要素(救急車による搬送システム、病院施設、医師)のうち、医師数の動向について、厚生労働省の公開資料を基に現状の確認を行うことにする。
元データとして用いたのは厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」。これは2年おきに行われている調査で、現時点では2012年分のものが最新の値。この直近値において、「主たる診療科」で答えてもらった場合の医師数は次の通りとなる。
圧倒的な内科の多さ、整形外科の意外な多さが見て取れる。また、外科や小児科が多いのは素人目にも理解できるが、精神科や整形外科が多いのには驚かされる。
なお歯科医は兼業が難しいなどの事由から別扱いされているので今件グラフでは取り上げていないが、2012年末時点で届出されている歯科医師数は10万2551人(「医療施設の従事者」はそのうち9万9659人)。内科医をはるかに超える数を示しており、都心部で良く聞く「歯医者さんが雲霞の如く点在している」との話も冗談ではないことが分かる。
直近では内科の医師数が一番多く、次いで整形外科、小児科、外科、精神科との順だが、数そのものはどのような変化を示しているのか。公開値でもっとも古い1994年の値を基準値の1.00とし、主要診療科別医師の推移を示したのが次のグラフ。
総数もあわせ多くの科の医師数が増加している一方で、外科と産婦人科が減少を続けている。また内科も減少に転じている(これはグラフ中にある通り、診療科名の定義細分化によるところも大きい)。ただし産婦人科については社会問題化したこともあり、やや持ち直しの雰囲気もある。
とりわけ下落が著しい外科・産婦人科の減少が再確認できるのが次のグラフ。1994年から2012年における変移を計算したものだが、産婦人科は1割近くも減少している。外科に至っては2割近い。
診療科名の定義変更が(特に外科で)生じている可能性は高いものの、その他の年の動向も合わせ見るに、大きく減少していることに違いは無い。精神科は需要に応える形で増加、小児科は少子化傾向にあるもやや増加など、ほとんどの科で増加しているため、外科と産婦人科の減り具合が目立つ。また、内科が減少に転じているのはやや意外なところか。医療の発達で治療内容が専門化しているのが一因かもしれない。
冒頭で触れた通り、そして自身や周辺の人が体感している人も多いだろうが、特に産婦人科の医師数の少なさは社会問題化している。その産婦人科や外科では、社会正義を振りかざす一部の過剰・偏見・無知識による報道がきっかけで風当たりが強くなり、訴訟リスクが急増し、いくら医師本人の志が高くとも「現状では続けることはかなわない」と医学の道を断念したり外れる人が相次いでいる。また後に続くものの意志をもへし折りかねない。
もっとも尊い「生命の誕生」にたずさわる者たちが、半ば「いらぬ茶々」、さらには加害側の名誉欲のために仕事を追われ、あるいは志を断念させられる状況は、決して健全とは言えない。一部の声高な人のため、ではなく出来る限り多くの人のため、そして正しい選択をしている人のため、しかるべき人が働き、動ねばならないだろう。
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