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<ガンバ大阪・定期便24>開幕戦で刻んだ小野瀬康介の『1』と、宇佐美貴史との絆。

高村美砂フリーランス・スポーツライター
小野瀬の同点弾は今シーズンのガンバの第一号ゴールになった。写真提供/ガンバ大阪

 2月19日に戦った鹿島アントラーズとのJ1リーグ開幕戦。小野瀬康介は自身にとって約1年半ぶりのとなるJリーグでのゴールを決めた。相手選手のクリアボールが溢れてきた瞬間、打つと決めていたという。

「試合の前日練習でも似たような感じでこぼれ球からゴールを決めていたので、鹿島アントラーズ戦も(チャンスが)きそうだな、という予感はありました。運もあって自分のところに溢れてきて、バウンドもあわせやすいタイミングだったし、いい感じで足に当てることもできた。ふかさないようにだけ気をつけて、狙った通りのコースに飛んでくれた。去年はガンバに来て初めてリーグ戦で1本もゴールを決められずにシーズンを終えた中で、今年はなんとしてもこの状況を変えてやる、変えなきゃいけないと思っていました。自分にとっては、この先のキャリアを続けられるかどうかの瀬戸際に立たされているというか、サッカー人生のターニングポイントになるシーズンだという危機感もありました。開幕戦も、そのプレッシャーを自分に向けて臨んでいたし、これ以上、応援してくれる人たちを裏切るわけにはいかないと思っていたからこそ、勝てなかったのは悔しいけど、『ゴール』という数字を残せたことだけは良かった」

 その言葉にもある通り、昨年は小野瀬にとって、ガンバに加入してもっともゴールから遠ざかるシーズンになった。最初の公式戦となった富士ゼロックススーパーカップやJ1リーグ開幕戦で右サイドバックを預かったように本来とは違うポジションで苦戦した部分もある。またチームとしても、シーズンを通して守備にパワーを割く試合が続いた中で、彼自身のプレーも守備に引っ張られ、本来の持ち味が形を潜めたのも『ゴール』から遠ざかった理由の1つだ。

 それでも、自分に課せられる使命は『ゴール』だと感じていたからこそ、いつまでたってもゴールネットを揺らせない悔しさがつきまとった。

「サポーターのみなさんが僕に求めているものって、やっぱり明確な数字だと思うんです。たとえ後ろのポジションで出ることが多かったとしても、そんなことは関係ないというか。結局、シーズンが終わって僕のデータを見て、ゴールがなければ『ああ、小野瀬ってゼロだったんだ』という印象しか残らない。昨年は改めて、自分の評価はやっぱりそこなんだと感じたシーズンだったし、でも、攻撃を持ち味としている一人としてそういうふうに見られている嬉しさもあったりして…だからこそ、とにかく今年は絶対に数字を残してやると思っていました」

 もう1つ、改めて自分の力のなさを痛感するに至ったのは、プライベートでも仲がいい宇佐美貴史の存在だったという。先に書いた開幕戦でのゴール後、喜びの輪が少し解けてから、最後まで宇佐美と抱き合っていた姿が印象的だったため、二人の間で何か特別な会話があったのかと尋ねたところ「いや、普段はサッカーの話には全然ならない」と笑ったあと、胸の内を明かしてくれた。

普段は冗談ばっかり言っていますけど、おそらく昨年の戦いの中でお互いに対して抱いた感情があって…というか、少なからず僕は貴史を見て感じたことがすごく多かったし、それがあの喜びにつながったというか。きっと僕も貴史が決めたら同じように喜んだと思うし、貴史もきっと同じ思いで喜んでくれたんじゃないかと思ってます。あ…貴史って、呼び捨てにしてるけど(笑)」

 もう少し突っ込んで尋ねてみる。

 果たして、小野瀬は、昨年の宇佐美に何を感じ取っていたのか。

「そこは、単純に『これだけの人でも苦しむんだ』ということが全てでした。貴史のことは…そのまま呼び捨てでいきますけど(笑)、プレーヤーとしても尊敬しているし、人としても大好きだし、選手としても才能に溢れていて…。これだけガンバやJリーグで実績を残してきた貴史でも、この世界で長くプレーしていたら苦しむ時期はあるんだな、と。でも、どんなに苦しくても普段の練習も含めて、貴史は点を取ることから逃げなかったし、どんな状況でも戦い続けていたし、実際にチームが苦しい試合、大事なところで点も取ってくれた。その姿を見ていて、まだまだ自分は及ばないし、努力も足りないと突きつけられたというか。ポジションは違いますけど、そんな姿を近くで見せられて、でも自分は結局ゼロで終わって情けないし、このままではいられないな、と。そのことを昨シーズンが終わって、もう一度自分に突きつけて今年を迎えていた中で、開幕から1つ…まだ1つだし、勝ちにつなげられなかったのは悔しいですけど、でも、1つ数字を残せたのは…そこだけはよかったなと思います

苦しんだシーズンがあったからこそ開幕戦で決められた喜びも大きかった。写真提供/ガンバ大阪
苦しんだシーズンがあったからこそ開幕戦で決められた喜びも大きかった。写真提供/ガンバ大阪

 もっとも、勝利は掴めなかったとはいえ、小野瀬は今、『片野坂ガンバ』としてのスタートを素直に楽しめていると言う。日々のトレーニングから学ぶことも多く、それを自分のものにできれば、確実に自分の成長につながると感じられているからだ。

「カタさんの(片野坂知宏監督)サッカー感から学ぶことはすごく多いし『こういう考え方もあるんだ』と得るものも多くて、それを体現できれば自分自身も変化していくんじゃないか、とか、もっと結果に直結するプレーができるんじゃないかという自分への期待もある。もちろん、後ろからしっかり繋いでやっていくという…ここ数年のガンバにはなかったチャレンジをしている中では開幕戦も然り、まだまだミスも多いのは事実だと思います。動きながら状況を把握して判断するとか、ポジショニングを取ることを目指す上ではちょっとしたズレというか…そのちょっとしたところが大きいミスになっているのも間違いないし、まだまだカタさんのサッカーを習得しきれていない今は、戦術的な難しさを感じるところもあります。もともと能力に頼ってプレーしてきたタイプの僕は…近年、経験を積むことで頭を使うことを覚えるようにはなったけど、それでも、まだまだ頭と体の連動が必要だと痛感させられることも多いです。でも、それさえも今は楽しいと思いながらチャレンジができているし、信じてやり続けたいとも思う。と同時に、昨年の反省からどんな状況に置かれても、どれだけサッカーの内容に手応えを感じても、やっぱり、それを勝ちに繋げなければいけないと思うので。開幕戦、ルヴァンカップのセレッソ大阪戦の負けからしっかり学んで、修正して、なおかつ勝ちに繋げられるように、みんなでやり続けたいと思います」

 今シーズンの目標は、彼自身が「いちばん結果を残せたシーズン」だと振り返る19年を超えること。ウイングハーフを預かることの多い自分がそれを実現できれば、必然的にチームとしても躍動し、勝利を引き寄せられる試合も増えると考えている。

19年のJ1リーグ戦が7ゴールだったので、最低でもそこは超えたい。今のサッカーでウイングハーフの僕がそれくらい獲れたら、きっと前線の選手はもっと獲れるだろうし、そうなれば勝つ確率もあがっていくはずだから。開幕戦で久しぶりに点を獲って、あの感覚、雰囲気を感じて、やっぱり最高だなって思ったので、今年は去年の分もいっぱいその瞬間を味わえるように、応援してくれている人たちの想いに応えられるように、これからも覚悟をもって戦っていきたいと思います」

 自分のゴールに沸く、勝利に歓喜するサポーターの姿を思い描きながら。

フリーランス・スポーツライター

雑誌社勤務を経て、98年よりフリーライターに。現在は、関西サッカー界を中心に活動する。ガンバ大阪やヴィッセル神戸の取材がメイン。著書『ガンバ大阪30年のものがたり』。

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