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ポイント還元は消費税制度の信頼を損なわないように

森信茂樹東京財団政策研究所研究主幹 
キャッシュレス決済(写真:アフロ)

消費税率の引き上げは、時の政権にとって最大の難事業だ。同一政権の中で2度も引き上げることとなった安倍総理には、まずは賛辞を贈りたい。

一方で、経済への悪影響を緩和するためと称してポイント還元制度が来年6月までの時限措置として実施される。消費税は、物価を引き上げることによって税収を調達する税制なので、消費増税はダイレクトに消費行動に影響を与える。14年4月の8%への引上げが消費に打撃を与えたことは事実であり、そのような経済混乱は繰り返してはならないし、将来に備えて、消費増税の「成功体験」を作る必要があるので、その趣旨は分からないでもない。

しかし、今回の消費増税の予算スキームをみると、この2年間は国家に入ってくる税収以上の歳出増(幼児教育無償化、低年金者への一時金など)を見込んでおり、マクロ経済的には十分な対応がなされているといえる。

それに加えてのポイント還元制度である。わが国の遅れたキャッシュレス化を推進するというもう一つ別の政策目的もあり、消費増税と直接の関係があるわけではない。加えてその内容が5%、2%、還元なしと分かれ、複雑怪奇なので、いまだ国民に浸透しておらず、消費者の混乱は頂点に達している。

筆者がポイント還元制度について問題だと思う点は以下のとおりである。

第1に、制度が複雑すぎて、消費者が混乱している。例えば適用基準が資本5千万円以下の事業者は5%還元が適用されるが、外からは容易に判別できない。シールを張るといっても、一瞥してわかるかどうか疑問である。

第2に、事業者間での取引にも適用されることもあり、不正にポイント還元を得る業者が出る可能性が指摘されている。その場合、だれがその監視を行うのか。この問題の根源をたどると、そもそもポイント還元制度が、根拠となる法律を作らずに、予算措置で安易に対応している点につきあたる。

第3に、期限の来る2020年6月に、ポイント還元が廃止できるだろうかという問題がある。5%の還元の廃止は、5%の値上がりを意味する。中小事業者が、突然5%の値上げをするということになれば、大きな打撃となる。また、廃止前の、かけこみ、反動減は、これまでにない大きなものとなる可能性がある。なぜなら、消費税率は3%、5%、8%、10%と、これまで5%幅で引き上げられたことはないからである。

それを避けるために政府部内では、マイナンバーカードを使ったポイント還元として6月以降継続することが考えられているようだが、これはまた、カード推進という別目的に政策が絡んできて、混乱を招く可能性が高い。

延長を繰り返せば、さらなる財源が必要となり、子育て世代を中心とした全世代型社会保障に回るはずの資金が削減されることになりかねず、何のための消費増税かわからなくなる。

このような制度が消費者の混乱を招くことになれば、わが国の社会保障充実のために消費増税はやむを得ないと思っている多くの国民の信頼を裏切ることになりかねない。また、消費税制度の信頼を揺るがすようなことになりかねない。期限が来れば、直ちに廃止すべきだ。

軽減税率とポイント還元、意味のない愚策の二重唱となったが、消費税制度の信頼を貶めるようなことにだけはならないように願っている。

東京財団政策研究所研究主幹 

1950年生まれ。法学博士。1973年京都大学卒業後大蔵省入省。主に税制分野を経験。その間ソ連、米国、英国に勤務。大阪大学、東京大学、プリンストン大学で教鞭をとり、財務総合政策研究所長を経て退官。東京財団政策研究所で「税・社会保障調査会」を主宰。(https://www.tkfd.or.jp/search/?freeword=%E4%BA%A4%E5%B7%AE%E7%82%B9)。(一社)ジャパン・タックス・インスティチュートを運営。著書『日本の税制 どこが問題か』(岩波書店)、『税で日本はよみがえる』(日経新聞出版)、『デジタル経済と税』(同)。デジタル庁、経産省等の有識者会議に参加

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