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ホテルに電子レンジは必要か?

瀧澤信秋ホテル評論家
いまや定番アイテム?(筆者撮影)

ホテルと食事

コロナ禍は様々なホテルサービスを変容させたが、宿泊そのものの概念が変化しつつあることも実感する。1週間○○万円、30泊○○万円など、宿泊というよりも“住まうホテル”をイメージするようなプランも見受けられるし、中には以前からあったものの、サービスアパートメントやレジデンスホテルのようにホテルとマンションをミックスしたような形態も注目されている。

一定の期間に渡る滞在となれば、おのずと一般のホテルにないような設備やグッズが注目されることになる。冷蔵庫はマストアイテムとしてほとんどの客室に設置されていることは改めて言うまでも無いが、電子レンジもそんな需要のある備品のひとつといえるだろうか。電子レンジの機能は飲食物を温めることが基本であり、ホテルで電子レンジが必要ということは、すなわち持ち込んだ飲食物をホテル内で摂ることを前提としていることになる。

テイクアウトできるお店がホテル近くにあると助かることも(筆者撮影)
テイクアウトできるお店がホテル近くにあると助かることも(筆者撮影)

ところで一口にホテルといっても様々な形態がある。ビジネスや観光での宿泊、食事に結婚式から待ち合わせなどホテルを利用するシーンは様々であろうが、到着すると荷物を運んでくれるような高級ホテルもあれば寝るだけといったビジネスホテルもある。とにかく“ホテル”と名の付く施設の形態は多様。共通しているのは宿泊する客室やスペースを提供するという点でそれこそが基本的な機能でありホテルたるゆえんでもある。

そのような基本的なサービスに加え、レストランや宴会場など供食も含めた多彩なサービスが提供されるホテルは「シティホテル」と呼ばれ、その提供されるサービスの多さから業界では“フルサービス”のホテルといわれる。一方、ビジネスホテルは宿泊に特化したサービスの提供から“リミテッドサービス”といわれ「INN(イン)」とも称される。業界では宿泊特化型ホテルともいわれる。

ビジネスホテルと電子レンジ

そうした意味で、朝食以外の飲食サービスを提供しないビジネスホテルにおいて、ホテル内での食事=客室へ持ち込んだ飲食物が基本となり、最近ではコンビニエンスストアがテナントで入っているビジネスホテルも人気であり、ホテル開発に際してコンビニエンスストア入居を前提とすることも増えている。いずれにしても気軽に購入して客室へ直行できるのは確かに有り難い。ホテル内とはいわずとも近隣のコンビニエンスストアの有無はホテル選びの条件という人もいるかもしれない。

軽食もある自販機スペースに箸やポットも置かれたコーナー(ベッセルホテル福岡貝塚/筆者撮影)
軽食もある自販機スペースに箸やポットも置かれたコーナー(ベッセルホテル福岡貝塚/筆者撮影)

ひとり客室で食事というケースではやはりコンビニエンスストアの存在はありがたい。食べ物はもちろん各種飲み物も豊富に揃う。コンビニエンスストアには高性能な電子レンジがあるわけで温めることは叶うが、それも食べる直前のタイミングであることが前提だ。コンビニエンスストアならずとも、事前にどこかで購入してあった場合などはやはりホテル内に電子レンジがあると役立つ。

そうしたゲストが多いのか、ビジネスホテルを中心に電子レンジを設置するホテルはかなり多い。ホテルで電子レンジを利用する人が多い証左である。電子レンジの設置場所でよく見かけるのが、自動販売機などが置かれた場所や朝食会場になるラウンジといったスペースだ。気の利いたホテルになると写真(ベッセルホテル福岡貝塚)のように、軽食も販売する自販機、電子レンジと共にポットや割り箸など置かれているケースも見かけるが、電子レンジをはじめとしたこのようなアイテムは、いまやホテルのホスピタリティをアピールできるアイテムといった見方もできる。

客室にも電子レンジ

宿泊に特化したビジネスホテルと電子レンジの親和性という観点で述べてきたが、確かに高級ホテルで電子レンジは見かけない。ラグジュアリーなパブリックスペースにやはり電子レンジは似合わないか。こうしたホテルにはレストランがあるとはいえ、予算的においそれと利用できないという人もいるだろう。特にひとりではハードルが高いというのは筆者も同感であり、高級ホテル泊でも客室でひとり食事という場合も大いに想定出来る。

そうした需要も鑑みているのか、最近シティホテルで電子レンジをみかけたことがあった。ただし外資系ラグジュアリーのようなホテルではなく、よりコミュニティホテル的な施設で目立たない場所ということで違和感はなかった。いずれにせよ、冒頭で述べたような長期滞在プランで何かと話題になるのは高級ホテルということもあり、コロナ禍とホテルといえば客室ステイにフィーチャーされてきた中で、今後様々なカテゴリーのホテルで電子レンジ需要はますます高まっていくのではなかろうか。

ホテル グランビュー高崎(筆者撮影)
ホテル グランビュー高崎(筆者撮影)

ところで、ホテルの電子レンジといえばパブリックスペースに設置されていると前述したが、最近では客室へ個別に設置されているのを見かけることがある。筆者がはじめて客室で電子レンジをみたのが15年以上前になるだろうか、長野県佐久市の「アクアホテル佐久平駅前店」だったと記憶している。大浴場や露天風呂も設置されていて、いま思えばビジネスホテルの流行を先取りしていたホテルであった。

たびたびメディアで紹介している「ホテル ココ・グラン高崎」でも2012年8月開業時直後に出向いた際、客室に電子レンジが設置されていた。客室に電子レンジといえば、運営面からすればスペース確保やインテリアといった部分で難があると推測できるが、ココ・グラン高崎はその辺りも見事にクリアしていて唸ったものだ。そうした点で、オシャレな家電が増えるいま、客室と電子レンジといえばインテリアの邪魔をしないようなオシャレなイメージを持っている。

hotel MONday Premium 京都駅東九条(筆者撮影)
hotel MONday Premium 京都駅東九条(筆者撮影)

記憶を辿ると「ホテルバリタワー大阪天王寺」に宿泊した際にも電子レンジがあって助かった記憶がある。時間が経ってしまった新世界のテイクアウト串カツをも温かくいただくことができた。最近注目されているレジデンスタイプやアパートメントスタイルのホテルではよくみかけるようになり、滞在の際には助かることも多い。そんな筆者とホテル客室電子レンジあれこれであるが、実はいまも「hotel MONday Premium 京都駅東九条」の客室で電子レンジを眺めながらこの原稿を書いている。

ホテルと電子レンジ、使う使わないは別として“ゲストに安心感を与えるアイテム”という点は他にも共通するホテルサービスのキモでもある。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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