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国連事務総長「北朝鮮、対話」を――孤立するアメリカ…そして日本

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
米大統領、エルサレムをイスラエルの首都に認定(写真:ロイター/アフロ)

 国連事務次長の訪朝は、中国に取り込まれている事務総長の意向通り、「対話交渉」に終わった。トランプ大統領のエルサレム首都化宣言でも国連安保理はアメリカを非難。北朝鮮包囲網にひびが入り、日本にも影響する。

◆ニューヨークの「多維新聞」が

 ニューヨークに本拠地を置く中文メディアで、中国政府関係者が最も「こっそり」読んでいるウェブサイトの一つに「多維(Duo-Wei)新聞」というのがある。

 筆者が12月6日に本コラムで「国連事務次長訪朝の背後に中国か?」を書いたところ、それを中国語に翻訳して、多維新聞が「国連事務次長訪朝の黒幕」というタイトルで筆者の記事をそのまま転載している。但し、「日本のメディアの雅虎(ya-hu)(ヤフー)が報道した」という形であって、筆者の名前はない。他のウェブサイトも、この記事を転載。

 情報はこのようにして広がっていくのだろうと思うが、中国政府関係者が必ず読むことを知っているので、個人名が書いてないことは、ある意味では幸いなことかもしれない。

 

◆日本経済新聞が

 そうこうしている内に、日本経済新聞が9日、<国連事務総長、北朝鮮「対話による解決を」幹部派遣>という記事の中で、日経独自の取材結果を報じているのを発見した。高橋里奈という記者が、国連本部でグテーレス国連事務総長を直接取材したらしい。それによれば、グテーレス事務総長は、

 ――フェルトマン事務次長(政治局長)が北朝鮮を訪問したことについて「非核化を達成するための環境をつくり、事態が手に負えなくなる前に対話に基づく外交的、政治的解決を目指すものだ」と説明した。

とのこと。グテーレス事務総長はさらに、

 ――危機打開に向けて対話路線を構築すべきだとの認識を示した。緊張の緩和に向けて「建設的、オープンで有意義な対話により、非核化を実現しなければならない」と指摘。「我々は対話を促進するために、あらゆることをする」と力を込めた。

と記事にはある。これはまさに中国が主張する方向性と完全に一致している。やはり先般の筆者の推論は間違っていなかったことを示してくれており、その意味ではホッとしている。こういう直接取材の情報は非常にありがたい。

◆中国メディアは

 中国メディアは、「5日から9日にかけて訪朝したフェルトマン国連事務次長と北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)の会談により、北朝鮮と国連との間で、さまざまなレベルにおける交流を通した意思疎通を定例化することが合意された」と報道した。北朝鮮の「朝鮮中央通信」の情報に基づくとした。

 フェルトマンは9日、北京経由でアメリカに帰国したが、中央テレビ局CCTVは、フェルトマン訪中期間と重なる形で、4日から8日にかけて米韓が合同軍事演習を行なっていたことを紹介し、北朝鮮が「アメリカの対北朝鮮敵視政策こそが緊張の原因を作っている」と、アメリカを批判していると解説した。

 さらにCCTVはトランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認めた問題に関して何度も特集を組み、国連安保理が9日(日本時間)緊急会合を開いたことを報道した。番組の中では、各国からアメリカの決定に批判や懸念が相次いだこととともに、世界の主要メディアのアメリカに対する非難を紹介している。

 アメリカが拒否権を持っているので、アメリカに対する非難決議は採択されないだろうが、安保理の中の英仏を含むヨーロッパ勢5カ国がトランプの宣言に抗議する共同声明を発表し、アメリカの孤立ぶりが鮮明となったとCCTVは勢いよく報じた。もちろん中国の国連大使も抗議を表明したとのこと。

◆国連は中国主導になるのか?

 そうでなくとも中国は、自国がやがてアメリカを追い越し、「中華民族の偉大なる復興」を成し遂げ、「中国の夢」を実現する日に向かって、あらゆる戦略を練り、実行している最中だ。トランプ大統領のエルサレム首都化宣言は、北朝鮮包囲網を弱体化させるだけでなく、アメリカが中東平和を乱し好戦的であるという印象を世界に植え付け、北朝鮮問題で対話を主張してきた中国に圧倒的に有利となる。

 アメリカのヘイリー国連大使は安保理会議で、「イスラエルにはすべての国と同様に、首都を決定する権限がある」と詭弁を弄し、「国連は長年にわたり、イスラエルに敵対的な姿勢を示してきた」と国連を批判した。アメリカが国連を敵に回して、どのようにして北朝鮮問題で世界各国が「圧力と制裁」により結束できるというのだろうか?

 ヘイリー大使の顔は、対北朝鮮非難決議を主張した時のような勢いはなく、狼狽しているようにさえ見えた。

 もちろんグテーレス国連事務総長はトランプ大統領のエルサレム首都化宣言には絶対に反対で、中東平和を著しく乱すと表明している。  

 その事務総長と中国は仲がいい。

 拙著『習近平vs.トランプ 世界を制覇するのは誰か』で米中のせめぎ合いを書き、「最終的には民主主義が勝たなければならない」と期待したが、トランプがこのようでは、やがて国際社会がトランプを裁き始め、中国を喜ばせることになる。

 安倍首相は「100%、ドナルドと共にいる!」とトランプとの固い結束を宣言しているが、エルサレム首都化に関しても「100%、ドナルドと共にいる」のだろうか? だとすれば、「ドナルド」とともに徹底して北朝鮮に圧力をかけ続けていくとした安倍首相の宣言もまた、国際社会で孤立していくことになる。

 中国のCCTVは、エルサレム首都化に対する主要国の抗議声明を紹介する中で、「日本だけは態度を曖昧にしている」と強調している。真の友人なら、「ドナルド」を諭(さと)すべきではないだろうか。そうしないと、北朝鮮問題の「圧力と制裁による解決」は失敗し、北朝鮮に利する結果を招くのではないかと懸念する。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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