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トイレットペーパーなんかいらない?!新型コロナ騒動から問い直す日本のトイレと世界の関係

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
トイレットペーパーが各地で入手困難に(写真:アフロ)

 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、デマが発端の買い占めでトイレットペーパーが品薄になり、スーパーやドラッグストアに行っても、なかなか買えないということが続いている。こうした事態を受け、既に国民全員の3週間分もある在庫の放出が促され、メーカーではさらなる増産を行っているという。ただ、これを機にお尻を拭くためだけに、貴重な森林資源を消費すること自体を見直してみることも重要なのではないか。

◯トイレットペーパーが森林破壊

 森林をトイレに流している-国際環境団体の「自然資源防衛協議会」と「スタンドアース」が2019年2月にまとめた報告書は、トイレットペーパーなど米国での「木材パルプの大量消費と北米カナダの森林破壊の関連性を指摘し、再生紙や竹などの持続可能な代用素材を使用することの重要性を訴えた*1。

*2トイレットペーパーの環境負荷は高い

https://www.sustainablebrands.jp/news/os/detail/1191796_1531.html

環境団体がまとめたトイレットペーパーによる森林破壊についての報告書
環境団体がまとめたトイレットペーパーによる森林破壊についての報告書

◯日本人は年970万本の木を伐採してお尻を拭いている

 トイレットペーパーによる森林破壊は日本にとっても他人ごとではない。日本は紙の原料となるパルプ材の約7割を海外からの輸入に依存している(日本製紙連合の統計より)。経産省によれば、現在、トイレットペーパーの在庫は「国民全員の3週間分」に相当する3億5000万ロールあるとのことだから、1年分では、約60億6632万ロール。そのうち、再生紙によるトイレットペーパーが6割程だから、いわゆるバージンパルプとして、森林資源を消費してつくられるトイレットペーパーは年間で約24億2653万ロール。これは、約970万6120本の立木*2に相当する

 日本にパルプ材を輸出している国々は、ベトナム、オーストラリア、チリ、米国といった国々。いずれも貴重な生態系を持ち、かつ森林伐採の影響が懸念されている国々だ。つまり、日本の我々は、トイレでおしりを拭くためだけに、こうした国々の生態系に悪影響を及ぼしている、と言えるのではないか。

◯環境に配慮したトイレの在り方

 では、どうした良いのか。まず、誰でも可能な方法としては、再生紙やFSC認証*3を受けた紙を使用する等、より環境への負荷が小さいトイレットペーパーを使うことだ。竹パルプを原料としたトイレットペーパーも良いかも知れない。竹は成長が早く、広葉樹、針葉樹を伐採している通常の紙より環境負荷が小さいとされている。日本では、使い道のない竹やぶが山林を覆っていることが問題となっており、国内の竹が有効活用されるようになれば、森林管理という点でも望ましい。竹パルプ製のトイレットペーパーはネット通販で入手できる他、イオンなどでも販売している。

 そもそも、トイレットペーパー自体の消費を減らすことも必要なのだろう。筆者は紛争地取材等で幾度も中東の国々を訪れてきたが、乾燥した気候で樹木が貴重であるためか、現地の人々は伝統的にトイレットペーパーをあまり使わない(ただ、最近はトイレットペーパーを置いてあるホテルや飲食店も多い)。では、どうしているかと言うと、お尻を水で洗っているのだ。トイレに小さなシャワーが備え付けられていることが多く、これを使ってお尻を洗うのである(昔ながらのやり方では、容器に汲んだ水を手ですくい洗う)。

携帯式のお尻洗浄器
携帯式のお尻洗浄器

日本でも温水洗浄便座*4を活用するなどして、トイレの「紙削減」or「ペーパーレス化」を進めるべきではないか。自宅のトイレを温水洗浄便座に改修するには、数万円のコストがかかるが、旅行用などの携帯式のお尻洗浄器は安いものなら1000円台で手に入る。

◯かけがえのない生態系を守るために

 昨年秋から今年2月にかけてのオーストラリアでの大規模森林火災は、日本の国土の6割という広大な面積を焼きつくし、10億匹以上もの野生動物が犠牲になったと言われている。これらの大規模森林火災は、高温や少雨などの温暖化による異常気象が原因と見られているが、今回の火災以前からオーストラリアでは森林伐採による生息域減少がコアラなどの野生動物の脅威となっていた。

 新型コロナウイルスの流行はいずれ終息するであろうが、世界的な森林破壊は私達がそのライフスタイルを見直さない限り続いていく問題である。今回のトイレットペーパー不足騒動を契機に、より地球に優しいトイレの在り方を模索していくのも良いのではないだろうか。

(了)

*2 立木は高さ8メートル、直径14センチを想定。イトマン株式会社の試算を元に筆者が計算。参考↓

https://e-itoman.jp/recycle-effect.php

*3 FSC認証とは、森林環境を適切に保全し、地域の社会的な利益にかない、経済的にも継続可能な森林管理を推進することを目的とした認証制度。

https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3547.html

*4 温水洗浄便座の電力消費がエコではないとの見方もあるが、他の電力消費と同じく、再生可能エネルギー由来の電力を使うことでCO2排出を少なくできる。

※本記事は志葉玲の公式ブログの記事から一部、動画等を追加したもの。

https://www.reishiva.net/entry/2020/03/18/114231

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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