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二学期に備えよ! #一斉休校 より #多様な学習 #生徒のワクチン接種 #念のため欠席 を当たり前に

末冨芳日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員
(写真:アフロ)

1.政府は全国一斉休校要請はしない

政府は全国一斉休校を要請しないという萩生田文部科学大臣の方針表明がありました(日本テレNEWS24・8月20日)。

一斉休校は最悪の選択肢であることは、子どもの虐待・自殺やストレスの深刻化、子育てする女性の失業率悪化などのエビデンスにもとづき、すでに指摘しました。

萩生田大臣だけでなく子どもの貧困対策担当大臣を経験しておられる加藤官房長官も、全国一斉休校をしないと明言されているのは(毎日新聞8月20日)、やはり子どもや保護者へにもたらした深刻なダメージを把握されてのことだろうと推測します。

もちろん地域や学校単位での休校や学級・学年閉鎖等は可能です。

二学期は、昨年と同様に学年・学級閉鎖や短期休校の繰り返しになる地域・学校も出てくるはずです。

地域の感染状況次第ですので、若い世代へのワクチン接種が進み感染拡大が抑え込めた地域では逆に学年・学級閉鎖や休校の必要は低くなっていくでしょう。

ここからは二学期に備えて、3つのことを考えたいと思います。

一斉休校より「多様な学習」の必要性

生徒のワクチン接種、とくに小中高生世代(12歳以上)へのワクチン接種のための情報提供の必要性

家族や自分のちょっとした体調不良でも「念のため欠席」を当たり前に

保護者や子どもの居場所、食の保障については別記事でまとめたいと思います。

2.日本は一斉休校を誤解してないか?文科省方針の整理

休校でも学びの保障

1人1台のタブレットPCは配備済

オンライン授業と対面授業の併用、給食付き短縮授業等を実施方針の自治体も

まず2学期に備えよ!の具体論を始める前に、一斉休校を求める大人は、その言葉にどのようなイメージをもっているのでしょうか?

誤解なさっているのではないかと心配な方もSNSで散見されます。

いま休校になっても、子どもたちは学び続けることが前提です。

家になにもせず閉じこもるわけではありません。

休校でも地域や学校の状況に応じて学びの保障をする、それが文科省の方針です。

萩生田文科大臣は、この方針を踏まえ、全国一斉休校はしないという方針を示したのです。

コロナ休校に関する文科省のQ&A
コロナ休校に関する文科省のQ&A

文科省の方針は「新型コロナウイルスに関連した感染症対策に関する対応について・Q&A(学校設置者・学校関係者の皆様へ)」にわかりやすくまとめられています。

また教育委員会や教職員のみなさんはこちらもご参照ください。

文部科学省「感染症や災害等の非常時にやむを得ず学校に登校できない児童生徒に対する学習指導について(通知)(令和3年2月19日・最新版)

文科省方針をシンプルにまとめるとこうなります。

臨時休業や出席停止等(濃厚接触等による自宅待機等)の場合でも学びの保障をする。

可能な限り学校で授業や学習活動を行うべきだが、オンライン授業も可能。

非常時ゆえにオンライン授業も「特例の授業」として認定できること

すでに児童生徒1人1台のタブレットPCも配備済で、このような緊急事態に備えて取り組んできた学校・自治体では当たり前のようにオンライン授業ができるようになっています。

いっぽうで、変化を恐れ、対面指導にこだわることしかできず進化が遅れた自治体・学校ほどいま慌てふためいているはずです。

みなさんのお住まいの自治体、教職員の勤務する自治体・学校はいかでしょうか?

全国の夏休み延長や、二学期オンライン授業と対面指導の方針を示す自治体もすでに複数出現しています(マナプリ・2学期の学校対応(分散登校、時差通学、時短授業、登校中止、夏休み延長、臨時休校、オンライン授業など)、動き出した自治体は?(2021.8.21更新))。

岐阜県は県立学校では感染状況が深刻な地域では9月12日までオンライン授業、市町村立学校も感染状況に対応しつつオンライン授業と分散登校。

北九州市給食付き短縮授業を公立小中学校で打ち出し、オンライン授業の活用も打ち出しています。

個人的には北九州市方式は子どもたちの食や居場所ニーズにも、そして基礎疾患等があったり家族がエッセンシャルワーカーなどの感染不安のある子ども・家族への対応にも、両方可能にするものとして参考にされるべきだと思います。

長野県は、「対面授業とオンライン授業の併用や、部活動、学校行事の原則中止を求める通知を出し」「市町村教委や私立学校にも参考にするよう」求めています。

長野県はこのほかに、県や市町村、教育委員会やPTAをあげて「新型コロナ『デルタ株』と闘う県民共同宣言」を採択し、「適切な感染対策を行い、感染拡大を食い止めます」だけでなく「思いやりと支えあいの心を持ち、社会経済活動を行います」「誹謗中傷や差別的言動は、絶対に許しません」など、県の大人も子どももお互いに守り合う姿勢を明確にしています。

長野県・新型コロナ「デルタ株」と戦う県民共同宣言
長野県・新型コロナ「デルタ株」と戦う県民共同宣言

3.一斉休校より「多様な学習」

二学期が短期休校の繰り返しになる地域・学校も

オンライン学習・課題学習や分散登校の柔軟な組み合わせ

ポイントは「生活リズム」と「学校での受容感」

地域での短期休校は十分にあり得ますが、学びを止めるのではなく、オンライン学習や課題学習、分散登校の「多様な学習」の組み合わせで、児童生徒の生活習慣と学習に向かう姿勢(学習規律)を守ってください。

また在宅学習が難しい小学校低学年・中学年児童を中心に分散登校は必要だと考えています。

「多様な学習」についてすでに学校は昨年度から経験を蓄積してきているはずです。

2020年一斉休校で、全国に先駆けてオンライン授業を実施した熊本市でも昨日(8/20)すでに市長が「オンライン授業や分散登校、部活動の見直し等」の検討を教育長に要請されたそうです。

オンライン授業への取り組みについては、最先端自治体とされる熊本市でも、地道な努力を積み重ねてきており、どの自治体・学校でも取り組みが可能なものになっています。で

熊本市での教員歴の長い前田康裕先生が監修された『GIGAスクール・マネジメント 「ふつうの先生」がICTを「当たり前」に使う最先端自治体のやり方ぜんぶ見た。』 ( 佐藤明彦著)は、二学期にあたり、どのようにオンライン授業をすすめようかと悩む学校の教職員のための一冊です。

2020年一斉休校の経験からわかっているのは、「生活リズム」と「学校での受容感」が子ども若者の学びを支えたということです。

中原淳編著『学校が止まった日ウィズ・コロナの学びを支える人々の挑戦 』はデルタ株まん延による休校に備えても教職員がぜひ読んでおくべき本です。

オンライン授業等や保護者の声かけ、自由時間を作るために中高生が自分でたてた計画などによる「生活リズム」が、学習時間や中高生の成長実感に影響したことが明らかになっています。

計画をたて自由時間で友達と交流したり、部活の自主トレや趣味を楽しむなどのメリハリをつけられたことで、中高生が自分に自信を持つ機会にもなったのです。

また、休校前からの「学校での受容感」が、休校中も学び続けることに加え、生徒の心身の健康にも影響を及ぼしています。

一斉休校の経験や昨年度の学校閉鎖等の経験から学んだ学校・教職員であるほど、児童生徒との信頼関係づくりを大切にしてきたはずです。

それはたとえ対面での学校がなくても、在宅での子どもの学びを支える基盤になるからです。

重要なのは、学校ごとに、児童生徒や家庭の状況に合わせたアプローチを採用することです。

教員との信頼関係が成り立っていれば課題学習でもよいのです。

ただし教員の課題チェックやオンライン授業の負担もあります。

学校の教職員を支えるサポートスタッフやICT支援員の雇用・増員・活用も必要になります。

全国の首長・教育長・校長先生、休校が長引くようであればできれば分散登校の機会を作ってください。

多くの児童生徒は家に閉じこもっており、家から出られない友達と会えないストレスや孤立が深刻になったことが、国立成育医療センター調査などからもわかっています。

短時間でも、先生や友達と会うことが、子ども若者の学びを支えます。

また家族クラスターでは最長3週間程度の家での滞在が必要となる児童生徒生徒も出てくるでしょう。

自分や家族に基礎疾患がある等で、登校できない児童生徒も多くなる可能性もあります。

対応が遅れている自治体では前述した文科省方針にしたがい、オンライン授業により出席認定し成績を認定していく仕組みの整備も急がれます。

小規模自治体は都道府県教育センター等でオンラインコンテンツ配信を支援する仕組みの整備も必要ではないでしょうか。

4.生徒のワクチン接種

受験生優先接種も必要では?

小中高校生のワクチン接種のメリットとリスクの情報があまりに少ない

若い世代にもワクチン供給を

医療ジャーナリストの岩永直子さんが、国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治先生にインタビューされた記事でも、年齢が高い順に受けていくべきだが、受験生への優先接種などの必要性も指摘されています。

「高校生は要注意」 夏休み明けの学校、これまでとは違うレベルの警戒を

小中高生のワクチン接種については以下のように指摘されています。

今の段階で全体を考えると、年代順に接種していって、親が先に接種して「ワクチンは安全だ」と子供にも安心してもらい、受験生だけは機会があれば優先することを検討するのがいいでしょう。

また小学生より相対的に感染リスクの高い中高生はとくに、ウレタンマスクではなく不織布マスクを徹底することも重要と指摘されています。

二学期開始する際に、家庭でも徹底されるべきでしょう。

すでに高校生を優先接種の対象としている千代田区のようなケースもあります。

しかし小中高校生のワクチン接種のメリットとリスクを子ども若者向けに発信する政府・自治体の情報があまりに少ないのです。

日本小児科学会「新型コロナワクチン~子どもならびに子どもに接する成人への接種に対する考え方~」では以下のように説明されています。

子どもへのワクチン接種は、先行する成人への接種状況を踏まえて慎重に実施されることが望ましく、また、接種にあたってはメリットとデメリットを本人と養育者が十分に理解していること、接種前・中・後におけるきめ細かな対応を行うことが前提であり、できれば個別接種が望ましいと考えます。

デマにまどわされず保護者と子どもでよく考えるためにも、政府・自治体からの小中高校生や保護者向けの情報発信が急がれます。

また接種したくても予約できないのは小中高校生も同じです。

政府は若い世代へもワクチン供給を急ぐ必要があります。

5.軽い体調不良でも「念のため欠席」をあたりまえに

校長は児童生徒や教職員をデルタ株から守るために出席停止の柔軟な運用を

日本の学校の場合には、具合が悪くても休まない学校文化がデルタ株まん延の原因になると考えます。

発熱がなくても、喉の痛みや頭痛など軽い体調不良でも「念のため欠席」を児童生徒も教職員もルールにしていくことも重要でしょう。

前述した岩永直子さんの記事でも国際医療福祉大学の和田教授は次のようにおっしゃっておられます。

ーー子供たちには新学期、どう行動してもらいたいですか?

高校生の人には体調に敏感になってほしい。咳や喉の痛み、熱がある時に、「もしかしたら感染しているかも」と考えて休んでほしい。検査にも行ってほしいですが、受診するかどうかは親とも相談して判断してください。

もう一つは、周りの人は休んだ時に「彼はコロナなんじゃない?」と噂するようなことは絶対にしないでほしい。自分が具合が悪い時に跳ね返ってきます。むしろ休んだ人を助けてあげてほしい。

そして、ウレタンマスクはもうやめて不織布マスクにして、部活も休めるようにする。

少なくともいま感染拡大の中心となっている親世代や20代30代のワクチン接種がすすみ感染が落ち着くまでは、学校や教育委員会は「念のため欠席」を推奨すべきだと私は考えています。

家族や自分の体調不良でも、友達や先生を守るためにも「念のため欠席」が大切です。

実は児童生徒が「念のため欠席」した場合でも欠席日数にカウントされないという文科省の方針が示されています。

すでに新型コロナウイルス感染や、濃厚接触、また感染不安などにより学校を休んだ場合には、欠席ではなくインフルエンザ等と同様に出席停止とする方針があるのです。

感染症予防場合でも、在学での学習をした場合には、学校長が履修や単位認定、成績評価を積極的に認めましょう。

そもそもコロナ前から、日本では無理をしてでも学校に行くことが賛美されすぎています。

だからこそ毎年インフルエンザが大流行し、インフルエンザで命を落とす児童生徒もいたのです。

これを機会に、「念のため欠席」「念のため在宅学習」をあたりまえにしていくことで、感染症にも強い日本の学校になっていきます。

友達や先生を守るために家にいる児童生徒が、在宅学習できる環境も日本のあたりまえにできるはずです。

オンライン授業もあたりまえになりつつある令和の日本で、昭和の悪しきルールにこだわり児童生徒を感染症の危険にさらすのか、それともより良いルールに進化するのか、文科省・教育委員会だけでなく私立学校含め、学校にかかわる大人の実力が問われています。

※続編は、保護者に必要な支援や子どもへの食や居場所の保障について近日中に配信予定です。

こちらの記事もご参照ください。

#夏休み延長 日本はまた子育て罰を親子に課すのか?命と学びは置き去り?#一斉休校 は最悪の選択

日本大学教授・こども家庭庁こども家庭審議会部会委員

末冨 芳(すえとみ かおり)、専門は教育行政学、教育財政学。子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店,編著)など。

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