日本は金正恩氏の対話路線を「徹底的にじゃま」すべきだ
北朝鮮メディアが、相変わらず日本に噛みついている。
内閣などの機関紙・民主朝鮮は4日、日本が「朝鮮半島の情勢緊張をさらに激化させてそれから自分の利をむさぼろうと必死になって狂奔」していると非難する論評を掲載した。
論評は、安倍政権が北朝鮮に対する制裁緩和の条件として核兵器の完全で検証可能かつ不可逆的な廃棄を挙げ、それが実現するまで最大の圧力を加え続けるべきだと主張していることに言及。「これは政治いびつに非難される島国一族の愚かなあがき、一寸の先も見通すことができない政治食客の笑止千万な醜態だ」などと罵詈雑言を並べている。
韓国の文在寅大統領が先月29日、安倍晋三首相との電話会談で伝えたところでは、金正恩党委員長は27日の南北首脳会談で「日本と対話する用意がある」と表明したという。
しかしその割には、北朝鮮メディアの日本非難は止まる様子がない。北朝鮮メディアはこのところ、韓国政府への非難を手控える一方で、米国批判は続けている。しかし昨年に比べると攻撃性は弱まっており、日本に対してだけ、辛辣さが増している。
(参考記事:「孤独な島国の断末魔」北朝鮮、NHKを罵倒)
北朝鮮のメディア戦略は金正恩氏が直々に統括しているはずなのだが、いったい彼の真意はどこにあるのか。
(参考記事:金正恩氏が自分の“ヘンな写真”をせっせと公開するのはナゼなのか)
翻って、日本はどうか。安倍政権もまた、日朝首脳会談を望んでいると伝えられている。日本人拉致問題を進展させるには、それがいちばんのやり方かもしれない。その点では無論、筆者も日朝対話に賛成である。
しかし現状では、日本側には北朝鮮から譲歩を引き出すための「切り札」が欠けていると言わざるをえない。
朝日新聞(電子版)4月29日付は、次のように書いている。
「北朝鮮は1965年の日韓国交正常化に伴う経済支援などを参考に、日朝国交正常化が実現すれば、100億~200億ドル(約1兆90億~2兆180億円)の経済支援が望めると計算しているという」
にわかには信じられない話だ。金正恩政権の日本に対する態度をひと言で表現するなら、「無関心」である。政権中枢に日本通はおらず、むしろ金正恩氏と妹の金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長がいちばん、日本とのつながりが太いくらいだ。
(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈)
誰が対日外交を指揮するのかもハッキリしない。本来なら統一戦線部長を兼ねる金英哲(キム・ヨンチョル)朝鮮労働党副委員長のはずなのだが、同氏はまだ、在日本朝鮮人総連合会の幹部と一度も会ったことがないと伝えられる。
たまに、日本における北朝鮮工作員の動きが伝えられるが、その役割は対韓国工作の支援活動であり、日本への働きかけではない。
日本から1兆円とか2兆円とかいう大金をせしめようとしているなら、ここまで対日外交を放ったらかしにするだろうか。
もしかしたら、現在の日本は北朝鮮にとって、いちばん面倒くさい相手なのかもしれない。対話をすれば必ず拉致問題を持ち出されるが、この問題で、日本を完全に満足させられる答を出すのは北朝鮮としても困難だ。仮に、存命の拉致被害者があと数人いるとして、彼ら全員を返しても「もっといるはずだ」と迫られるのは明らかだからだ。
そうなったら、いったいいつになったら国交正常化に行きつくのか、いつになったら経済支援を受けられるのか、とうてい計算が立たない。
そもそも、日本はこれまで10年以上にわたり、欧州連合(EU)とともに国連で北朝鮮の人権侵害追及の旗を振ってきた。それだけに、北朝鮮国内の人権状況が改善せずしては、経済支援などを実行しにくいのだ。
とりわけ、国民虐待の温床である政治犯収容所が維持されたままでは、国際社会の手前もあり、日本は対北支援に動けない。
(参考記事:北朝鮮、拘禁施設の過酷な実態…「女性収監者は裸で調査」「性暴行」「強制堕胎」も)
恐怖政治と表裏一体の北朝鮮の人権問題は、体制の根幹に関わるものであり、金正恩氏は対話にすら応じようとしないだろう。
ならば、こうなったらいっそ日本は、北朝鮮に対話の秋波を送るのではなく、逆に人権侵害を猛烈に非難した方が良いのではないか。人権問題の改善なしには北朝鮮と接近すべきではないと国連などで強硬に主張し、韓国や米国が、簡単には歩み寄れない雰囲気を作るのである。
そうしてこそ北朝鮮に、「対話を進展させるには日本に黙ってもらう必要がある。黙ってもらうために、日本の要望を受け入れるしかない」と思わせることができるのではないか。その結果として、拉致問題が解決に向けて進展し、北朝鮮の人権問題が少しでも改善されるなら、こんなに良いことはないと思うのだが。