「話したら死刑」金正恩の“方言矯正”で苦しむ女性教師30人
韓国の首都ソウルから、北朝鮮の開城(ケソン)までは直線距離で60キロに満たない。鉄道でも73キロ、最速で1時間20分の距離にあった。日本に例えると東京から小田原、大阪から加古川ほどの距離だ。
言葉もソウルと同じ京畿道(キョンギド)方言に属しており、平壌の言葉よりは柔らかいとされている。韓国を敵視してきた北朝鮮だけに、かつては「控えるべき」とされていた開城の方言だが、同国内でも韓流が密かなブームとなっている今、むしろポジティブな受け止め方をされている。
一方、韓国文化の影響を取り除くことに必死になっている北朝鮮当局は、大々的な方言矯正プロジェクトに乗り出している。
平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、当局は、平壌に近い南浦(ナムポ)教員大学を卒業した若い女性教師30人を開城市内の小学校に派遣し、標準語である平壌文化語を教えている。
北朝鮮は昨年1月、韓国式の言葉を使ったり流布させたりした場合の最高刑は死刑と定めた「平壌文化語保護法」を制定しており、それに従って、方言撲滅に躍起になっているのである。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
当局は、開城の方言を撲滅するため、派遣する教員の数を増やす計画だ。彼らは、ありがたくも平壌の言葉を教えてくれるという意味合いで「贈り物教員」と呼ばれている。
ただ、彼女らは現地で相当な苦労を経験しているようだ。情報筋は、彼女らが現地での生活に「馴染めていない」と伝えており、市民から不満をぶつけられたり、よそ者扱いされたりしている様子がうかがえる。
それもそうだろう。彼女たちから教育を受けた子どもたちは、家に帰ってきて親の話す言葉を聞いて「間違っている」と指摘する。すると親たちは、文字通り言葉を失ってしまうのだ。
方言撲滅計画に、子を持つ親はもちろん、市民全体が不満をいだいている。
そもそも自分たちが使っている言葉は、昔からの開城の方言で、南朝鮮の言葉とは考えたこともなく、ただ話しているだけで逆賊扱いされるのは酷いと感じているのだ。
「国が開城の人々を変人扱いしている」(開城市民)
「国は本当にくだらないことをしている」(同)
「地元の言葉を変えるのは、代々受け継がれた地域固有の特性を抹殺しようとするのものではないか」(同)
ただ、開城に全く韓国の影響が及んでいないとも言えない。開城には2004年から数多くの韓国企業が進出していた開城工業団地があり、情勢悪化で2016年2月に操業が停止されるまで、多くの市民が働いていたからだ。言語を含めた韓国文化がここから北朝鮮に流れ込んだ部分は、間違いなくある。