名古屋発バラエティなぜ好調?『デララバ』『愛知あたりまえワールド』『PS純金』『オモウマい店』が人気
高視聴率に公式ファンブックはベストセラーに
CBCテレビ『太田×石井のデララバ』、テレビ愛知『愛知あたりまえワールド』とここ1、2年の間にスタートした名古屋発のバラエティ番組が好調です。この流れをつくったともいえる中京テレビ『PS純金』(ピーエスゴールド)と全国放送の『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』は、番組公式のファンブックが名古屋地区でベストセラーになり、ローカルスターを続々輩出するなど社会現象を巻き起こすほど。名古屋のテレビ局の新感覚バラエティは何が面白く、何が視聴者にウケているのでしょうか?
爆笑問題・太田光がロケに出る『デララバ』
CBCテレビ『太田×石井のデララバ』(以下『デララバ』)は2023年10月スタート(毎週水曜夜7時~)。味噌カツの矢場とん、ひつまぶしのあつた蓬莱軒、あんかけスパゲッティのヨコイなど、名古屋グルメを中心に1時間1テーマでその魅力や人気の秘密に迫る内容。芸人の太田光とフリーアナウンサー石井亮次のコンビが現場に出て、視聴者代表らを交えて実食、考察していくのも大きな特徴です。大物タレントを起用し、CBCテレビとしてはゴールデン帯のレギュラー番組は11年ぶりということからも、局の力の入れようが伝わってきます。
愛知県の全市町村に光を当てる『愛知あたりまえワールド』
その前年の2022年10月に始まったのがテレビ愛知『千原ジュニアの愛知あたりまえワールド☆ あなたの街に新仰天!』(以下『愛知あたりまえワールド』/毎週土曜夜6時30分~)。コンセプトは愛知県の“地元のあたりまえ”を取り上げる県民特化型バラエティ。県内69市区町村の各地域に焦点を当て、山盛りすぎるグルメやユニークな店主、不思議な風習などを紹介します。
デジカメ1台でスタッフが現場に密着
両番組ともに、単発の特番を何度か重ね、ノウハウを構築した上でゴールデンタイムのレギュラー化を果たしています。また全国で活躍する有名タレント(太田光、千原ジュニア)を起用し、相手役に名古屋にゆかりの深い人物(石井亮次は元CBCアナウンサー、大久保佳代子と須田亜香里はともに愛知県出身)を組み合わせるキャスティングにも共通点が。そして何より、スタッフが密着して時間をかけて取材し深掘りするという点が、従来のグルメ情報番組とは異なる魅力となっています。
「グルメ情報番組の場合、リサーチした上で台本をしっかり書き、それに沿って映像を撮ってくるのが一般的。対して『デララバ』では、ロケハンをせずにまずお客さんにインタビューして、そのお店がなぜ愛されてるのか、とにかくリアルな声を集めることを重視しています。密着するのは100時間が目安。それだけ現場にはり着けば、これまで知られていなかったものが見えてくるだろう、と思うんです」というのは『デララバ』プロデューサーの尾田真一さん。
『愛知あたりまえワールド』もスタッフが軽快なフットワークで取材を重ねます。「ディレクターがデジカメ一台を手に、店主や常連さんと接しています。ディレクターは入社間もない20代もいれば、30代の現役ミュージシャンや、普段はカメラマンの30代もいる。いろんなタイプのディレクターが何日もかけて現場に足を運び、町の魅力を引き出すことを心がけています」(プロデューサーの藤城辰也さん)
ド定番のグルメやマニアックすぎる調査劇が高視聴率を獲得
夜7時台のゴールデンタイムは東京キー局の番組が強く、ローカル局の自社制作番組が割って入るのは至難の業。そんな中で『デララバ』『愛知あたりまえワールド』ともに高視聴率を獲得しています。
「最も視聴率が高かったのは名古屋駅ホームの『きしめん住よし』の回。世帯視聴率10%を超える時間帯もあり、特に若い女性層(20~34歳)の時間帯視聴率は1位でした。『きしめん住よし』をテレビで紹介するのは珍しくありませんが、店に密着することでお客さんやパートさんの人間ドラマまで垣間見えたことが、これまでにない内容になり視聴者に響いたと感じます。ラーメン『スガキヤ』の回も好評でした。誰もが食べたことがあるもので共感を呼びやすいと同時に、意外と知られていなかったところまで掘り下げることで、ワクワクして見てもらえているのではないでしょうか」(『デララバ』尾田さん)
「時間帯視聴率1位になった回もあり、当社制作のゴールデンタイムの番組としては歴代の中でもかなりいい数字を取れています。配信の再生回数がダントツに多いのは、半世紀前に海底に沈められた市電車両の撮影に成功した回(2023年6月17日放送)。専門家も地元の漁師さんも見つけられないと口をそろえていたのですが、粘り強く取材したことが実を結びました。その他、刈谷高校の応援団の回や、東三河(愛知県東部)だけを2時間半紹介する回など、他の局があまり取り上げていなかったマニアックなネタや地域を紹介するとグッと数字が上がる傾向にあります」(『愛知県あたりまえワールド』藤城さん)
ドキュメンタリー的バラエティの先鞭をつけた中京テレビ
『デララバ』『愛知あたりまえワールド』に共通するのが、ドキュメンタリー的な取材手法。スタッフが最少人数で現場に足を運び、過度な演出を排して時間をかけて取材対象と接していく。それが予定調和ではない映像となり、笑いだけでなく驚きや時に感動を引き起こします。そして、この路線の先駆けといえるのが中京テレビ『PS純金』(ピーエスゴールド/毎週金曜日夜7時~)と『ヒューマングルメンタリー オモウマい店』(以下『オモウマい店』日テレ 毎週火曜日夜7時~ ※全国放送)です。
(関連記事:「名古屋ローカルから全国ゴールデンへ!中京テレビ『PS純金』『オモウマい店』はなぜ面白い?」 2021年8月31日)
『PS』は2024年で30周年を迎える同局の看板番組。シリーズ4作目の『PS純金』は2015年4月に始まり、それまでの日曜夜10時半から金曜夜7時のゴールデンタイムに初めて進出しました。
「『PS純金』になってから、お店以上にお店の人が面白い!と着目し、その人間味や人情にフィーチャーするようになりました」とプロデューサーの宮木千佳さん。
『オモウマい店』はそのノウハウを全国に広げる形で、2021年4月に放送開始。地方局がゴールデンタイムの全国放送の番組を手がけるのはきわめて異例です。
「料理のボリュームだったり安さだったりサービスだったり、おもてなしに特化したお店が東海3県だけでこんなにある。だったら日本中にもっとあるはずだ、という発想で取材エリアを広げたのが『オモウマい店』です」とプロデューサーの岩元佑樹さん。
店主とはまるで親戚づきあい(?) 放映後に店の手伝いをするスタッフも
スタッフがハンディカメラ1台で飲食店などの現場に出向き、交流を深めていく取材手法は、今や両番組の十八番ともいえます。
「お邪魔した時にたまたまカメラがある、撮りに行くのが目的ではなく会いに行くことが目的という感覚です。お店の人もカメラをまったく意識していなくて、オンエアを見て“こんなとこまで撮ってたんだ”と驚かれることもあります。家に泊めてくれたり休業日にドライブに連れて行ってくれたり、親戚の子みたいに接してくれる方も。放送後にスタッフが、お客さんが急に増えたら大変だろうとお手伝いに行くこともあるんです」(『オモウマい店』岩元さん)
『PS純金』の宮木さんはローカル局ならではの可能性をこう語ります。
「ローカル局では、スタッフと視聴者の間に同じ地域に住んでいるからこそ通じる共通言語があり、その人たちに向けて“分かる分かる!”というポイントを突いていくことができる。マス(大衆)に届けるのがどんどん難しくなっている時代において、狭いところへ向けて、思い切った企画もできる。また、テレビの枠にとどまらず、自治体や地元企業と協力してイベントなどで地域を盛り上げることもできる。そこに関わっていくのは、物理的に近い地元局の方がスピードも展開力もある。地域の人たちは皆さん地元愛があるので、それをすくい上げていくことでローカル局の可能性も広がると思います」
ローカル情報を蓄積し番組の価値を高める
『PS純金』と『オモウマい店』はそれぞれ公式のファンブックが出版されて売れ行きも好調。鮮度が重視される従来のグルメ情報とは一線を画した番組内容は、記録としての価値も高いことを証明しています。そして、CBCテレビ『デララバ』、テレビ愛知『愛知あたりまえワールド』も、情報の蓄積によって番組の価値を高めていきたいと展望を語ります。
「今後はグルメにとどまらず、大須商店街や伊勢神宮など、スポット、さらには人も取り上げていきたい。何年も続けてアーカイブ配信すれば永久保存版の名古屋、東海地方のガイドブックにもなる。名古屋、東海の広報番組として、他県や外国人の人たちにも見てもらいたいと思っています」(『デララバ』尾田さん)、「地方局の方向性として、一過性ではなくくり返し見てもらえるコンテンツを充実させていかなければなりません。今後も長く続けてデータベースとして充実させ、“愛知あたりまえワールド=愛知動画図鑑”として活用してもらえるようにしたいですね」(『愛知あたりまえワールド』藤城さん)
足で稼ぐ取材姿勢でニッチなテーマを深掘りし、それを蓄積してローカルならではのディープな記録を構築していく。考えてみれば、これは地方メディアの本来の役割であり強みともいえます。配信によって広域の視聴者を獲得できるようになったことで、逆にマニアックなテーマでも興味を示してくれる人に届く可能性が広がりました。またリアルな体験が求められる今どきのニーズによって、身近な情報やイベントの価値が高まり、これも地元局が力を発揮しやすい分野です。
ここで取り上げた名古屋発のバラエティ番組は、新しいようでいてローカル局本来の強みを活かしたもので、それが視聴者に響いていると感じます。今後もいっそう地元で支持を広げて、さらにはこの流れが他地域のメディアにも波及していくのか? 地元の人はテレビで、他地域の人は配信で、ローカル局の未来を占いつつ、でもあくまで楽しんで視聴してみてください。
(番組関連画像は各局提供。その他写真は筆者撮影)