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降板後もDHとして出場できる新“大谷ルール”を採用しようとしているMLBの思惑

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
大谷翔平選手の出場機会を増やすためMLBが動いた(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【MLBと選手会が今シーズン適用のルールに合意】

 ニューヨーク・ポスト紙のジョエル・シャーマン記者が現地時間の3月22日に、自ら“スクープ”として速報ツイートしたところによると、MLBと選手会が今シーズン適用されるルールについて合意したようだ。

 適用されるルールは以下の4点になる。

 ・出場ロースター数を28人に拡大(通常は26人)

 ・延長戦突入で2塁にゴースト走者を置く(引き続きタイブレーク方式を採用)

 ・ダブルヘッダーは9イニング制で実施

 ・多分ショウヘイ・オオタニに影響を与える労使協約に盛り込まれるルール

 最初の2つに関しては、ロックアウトの長期化により短い準備期間でシーズン開幕に臨む状況を考慮されたものなのであり、3つ目は2020年に7イニング制で実施されたダブルヘッダーに疑問の声が挙がっていたことへの対応策だ。

 それでは最後の大谷翔平選手に関する新しいルールとは、一体何なのだろうか。

【大谷選手の出場を最大限に引き出せるルール】

 このツイートに添付されているシャーマン記者の記事によると、この新ルールとは今シーズンからユニバーサルDH制が採用されることに伴い、DHで先発する選手が先発投手を兼任できるというものだ。

 つまり大谷選手は“DH解除”で投手として先発するのではなく、DHとして先発しながら投手としても登板できる上、降板した後もDHとして引き続き出場できるようになるのだ。

 昨シーズンも大谷選手の二刀流出場を可能にするためにオールスター選手のルールを変更したように、今回は大谷選手の出場機会をさらに増やすため、公式戦のルールまで変更してしまったというわけだ。

【DH解除を示唆していたマドン監督にとっては朗報】

 スプリングトレーニングが始まってから、エンジェルスのジョー・マドン監督はユニバーサルDH制が採用される今シーズンも、MLBに承認されるなら大谷選手の登板試合はDH解除で臨みたい意向を示していた。

 ただ昨シーズンまでなら大谷選手が降板した後に、打席に立たせるために外野に回す措置を講じる必要があったが、この新ルールにより、早期降板する可能性があった場合でも最後まで大谷選手をDHとして起用できるようになったわけだ。

【人気回復のため大谷選手に“第2の野茂投手”を期待?】

 これらのルールは、最終的にはMLB理事会の承認を受けた後で正式決定することになるわけだが、シャーマン記者が指摘するように、なぜ大谷選手だけに特化したような新ルールが必要だったのか。

 あくまで推測の域を超えていないのだが、MLBの苦肉の策だったように感じる。何とか今シーズンも162試合のシーズンが実施できるようになったとはいえ、昨年12月から続いた労使交渉の泥沼化で、MLBに対する世間のイメージは相当に悪化していた。

 1994年から始まり1995年まで続いた選手会のストライキ後に再開されたシーズンでも、観客動員は相当に落ち込んでいた例がある。そんな苦境を救ったのが、トルネード旋風を巻き起こした野茂英雄投手だと言われている。

 今回もファンを取り戻すために、皆を熱狂させるような選手が欲しいところだ。これまでの常識を覆し、二刀流の活躍を見せた大谷選手は格好の存在といえる。

 そんな大谷選手に最大限の出場機会を与えたい、MLBの策略が見え隠れしていないだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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